西原克成先生 講演会

認定NPO法人 健康生活推進会 主催 平成28(2016)年11月25日 於:品川区立総合区民会館 きゅりあん

 哺乳動物は食べるな! 『自然食ニュース』主幹 仙石 紘二

 人間は肉食動物ではない

仙石 よく「命の元は食べ物」といわれますが、何を食べたら最後まで病気をしないで天寿を全うすることができるだろうかということを常々考えております。
 いろんな考え方があると思いますが、私どもの考えの一番の眼目は、実は人間というのは決して肉食動物ではない、我々の遺伝子は95%は植物を食べる植食動物の遺伝子であるということです。
 そこのところを忘れて、動物の肉が美味しいから、栄養があるからと、たくさん食べていると、どこかで遺伝子の想定に外れたことが現れる、すなわち、病気になるリスクが高くなるという考え方を私どもはしております。自然の掟、ルールに外れた生活に出されるイエローカードが「病気」であり、レッドカードになると「早死」と考えています。
 我々の遺伝子が肉食動物ではない証拠としては、爪の形でわかります。我々人間の爪の形状は、肉食動物の爪、即ち猫の爪のように鋭い「かぎ(鉤)爪」ではない。我々のご先祖様は樹上でもっぱら植物を食べる動物としてこの世に誕生したので、人間の爪の形状はかぎ爪ではないのです。
 爪の形というのは遺伝子が決めておりますから、我々の遺伝子は肉食動物型ではないことをまず頭に入れていただき、基本的には、植物から栄養をとっていくのが、本来の食性に一番マッチした食べ物の選び方だということを頭に置いていただけたらと思います。

 哺乳類の肉は食べない──「Gc(ジーシー)」の問題

仙石 その中で私どもが特に強調しているのが「哺乳類の肉は食べるな」ということです。例えば牛や豚の肉は、優れた栄養がある、摂取している人は長生きをしているなどとテレビなどで教えられても、そのリスクを考えずに食べ続けるのは避けた方がいいと考えております。
 ヒトはなぜ動脈硬化になり、心臓病で死んでいくのかをテーマにした『NHKスペシャル 病の起源 第4集 心臓病〜高性能ポンプの落とし穴〜』(2013年10月27日放送)では、米カリフォルニア大学サンディエゴ校のアジット・バルキ教授が提起した哺乳動物特有の「Gc」の問題を取り上げました。
 GcとはN−グリコリルノイラミン酸という糖鎖で、哺乳動物特有の生体成分です。人間も哺乳動物ですから元々はGcを持っていましたが、洞窟などで見つかる古代の人骨の遺伝子分析の結果、ヒトは270万年前にGcを失ったことがわかりました。マラリアで絶滅危機の時に、ヒトは遺伝子を変えてGcをつくらない例外的な哺乳類になりおおせて生き延びたとバルキ教授は教えてくれました。
 この頃から人間の脳は巨大化します。実はGcをなくすと、ヒトの脳細胞はグングン成長し、それ以来、ヒトの脳は3倍も大きくなり、そのため、ヒトは非常に頭のいい動物になったといわれています。そのきっかけはGcの消失にあったそうです。
 そのヒトが牛や豚など哺乳動物の肉を食べますと、その動物のGcが栄養成分として腸から吸収され、血液に入って、全身に流れ出ます。そうすると、Gcを持たないヒトの白血球はそれを異物として認識して免疫反応を起こします。つまり、白血球が血液中でGcを攻撃するために活性酸素を放出する結果、血管内皮に炎症が起きることが動脈硬化の原因となるとバルキ教授は番組で語っておられました。

コレステロール降下薬とうつ病

仙石 動脈硬化というのは、一般に悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールが原因であり、血液検査で総コレステロール値が240を超えていたら、動脈硬化を防ぐために薬を飲まなくてはいけないといわれています。
 実は日本人は悪玉コレステロールの値が高い人が元気で長生きする傾向を持っている民族です。ですから300も超えたら話は別ですが、コレステロール値が260、 270、 280、これくらいあっても、薬を飲むのはいかがなものかと思っています。
 コレステロールを下げる薬は副作用としてうつ病をつくるということが知られています。日本人の中にうつ病が増えてきたのは、この薬の副作用もかなり大きなウエイトを占めているのではないかといわれています。
 牛とか豚とかのお肉は美味しくて栄養があって、特に豚はビタミンB1をはじめとするビタミンも豊富だと、テレビの料理番組などでは盛んに摂取がすすめられていますが、それが動脈硬化の原因になると思っている方は少ないと思います。
 しかし、そういう方はNHKのホームページを開いてオンデマンドから2013年版『病の起源 第4集』を見ていただきますと、アジット・バルキ教授のGcは危険だというところに行き着きます。宝島出版からは『NHKスペシャル うつ病と心臓病』(宝島社刊・NHK取材班著)という本も出版されていますので、関心があったら是非これで学んでいただけたらと思います。

 哺乳動物の肉の摂取は腸内細菌叢も乱す──認知症の引き金にも

仙石 さらに、我々は遺伝子が植食動物型なので、我々の腸の中に入っている腸内細菌の中には、動物性の食べ物が入ってくると盛んに硫化水素ガスとかアンモニアガスとか毒ガスを生成してしまうという困った傾向を持つ悪玉菌が、普通は一割近くいる人が多いといわれています。
 我々の腸内細菌というのは、お母さんのお腹の中で成長している時に腸の形はできますが、その頃は腸内細菌は一匹もいなく、お母さんから出産される途中、つまり産道の通過中にお母さんの腸内細菌をもらい、これが腸壁の一番底のところに世代交代をしつつ棲みつき、以後はこの腸内細菌が生涯ずーっと腸内細菌叢に支配力を及ぼそうとするといわれています。
 お母さんの腸内細菌というのは、お婆ちゃんからお母さんが生まれ出る時にお婆ちゃんからもらったものであり、お婆ちゃんはひい婆ちゃんからもらったものであるということを考えていきますと、実はお母さんからいただく腸内細菌は、ご先祖様が持っていた腸内細菌となるのです。
 人間のご先祖様というのは、アフリカで樹上生活をしておりまして、食べる物の95%が木の葉っぱ、木の実、果物等で、95%は植物だったといわれております。それを消化して栄養化していくのに一番適した腸内細菌が、ご先祖様の腸の中にいたわけです。これを母親を通じてあなたの腸に出産時に届けられているわけですので、人間は植物で栄養をとると一番トラブルが少ないといわれています。
 動物性の物を食べ過ぎますと、上手に消化ができなくて、腸の中で悪玉菌が増え、その悪玉菌はお肉を食べた後はアンモニア系統のガス、卵なんかを食べ過ぎた時には硫化水素系のガスなどを盛んに出し、こういうガスは腸の壁から吸収されたり、あるいは冷たい物を愛用していますと、腸の壁から悪玉菌そのものが体の中に入り込みます。腸には白血球をつくる時に必要な幹細胞がありますから、白血球がつくられる過程で、その悪玉菌が白血球に潜り込めば(細胞内感染)、その白血球は悪玉菌の運び屋になって体中めぐり、脳みその中まで悪玉菌が入り込んでいく。そして、認知症や脳の異常からくる難病をつくっていくきっかけになりかねません。

 植物性蛋白質中心にGcを含まない動物性蛋白質を補う

仙石 そういう意味では遺伝子に逆らった食べ物の選び方は自然界のルール違反になりますので、早死というペナルティを避けるには用心に越したことはありません。
 動物性の食物は食べ過ぎないように気をつけて、基本的には人間の蛋白源は、大豆を中心とした植物性蛋白質で補って、足りないところだけ動物性の、しかも哺乳動物でない魚とか鶏とか、鶏卵とか、Gcのない動物蛋白をそこそこ少なめにとるということが大事ではないかと思います。
 そうすれば年を取ってきて、血中アルブミンが少ないよとか、アミノ酸とか蛋白が大分少ない血だから年を取ってきて歩けなくなるよ、寝たきりになるよ、なんて脅かされて肉食過多にリードされることはないと思います。

糖質の摂りすぎもご用心

仙石 ご先祖様の食事は、地上に降りて暮らすようになった頃には肉食動物の食べ残し、動物の頭蓋骨とか太い骨などを、手の平に握った石ころで叩き割って、その中身(骨髄)を食べたといわれています。
 もっぱら狩猟生活をしていた頃は、肉食動物よりたくさんの動物性脂肪や蛋白を食べており、エネルギー源となる糖質、蛋白質、脂質の栄養の割合は、おそらく蛋白質と脂質だけで8〜9割を超し、糖質は10%に満たなかっただろうといわれております。
 これが数百万年続いた後、文明社会で農業が起こり、穀物が自由に食べられるようになった時に、昔だったらほんの10%もとらなかったご馳走みたいな糖質をふんだんに食べられるようになって、エネルギー源の6割を糖質で摂るようになって今日に至るわけです。そして、エネルギー源は糖質6割、蛋白質2割、脂質2割、つまり6対2対2の割合で摂るようにという、今も栄養士さんが指導している内容になってしまったのです。
 この糖質の摂り過ぎががんも増やし、糖尿病も増やし、ということで今は糖質制限がやかましくいわれる時代になりました。
 私どもでは、がんになった時には、糖質ゼロでも向こう2〜3ヶ月は生きられるので、兵糧攻めができるゼロが一番いいといっておりますけれど、がんでない時は糖質は2〜3割くらい、ということは今6割摂ってるのでおおむね半分以下にし、蛋白質は2倍強くらい、脂質は今程度にするような食生活に基本的にして、これを植物をベースにしていこうではないかと世に訴えていることでございます。
 あとは西原先生が提唱されている「5つの健康法普及国民運動」@鼻呼吸をしよう、Aよく噛んで食べよう、B骨休め=睡眠時間をたっぷりとろう、C冷たい物は体に毒、D体を温めよう──を実践していただければ、まず健康で長寿を全うできるものと確信しております。

 西原克成先生のご紹介

仙石 それでは西原克成先生をご紹介させていただきます。
 西原先生と私どものご縁は『自然食ニュース』(2001年5月号 No.329)巻頭インタビューで「口呼吸は万病の元」というお話をしていただいたのが最初でした。先生が東大医学部附属病院を定年退官される直前に取材させていただき、その後間もなく『自然食ニュース』では西原先生の連載「生命とエネルギー」も掲載させていただくこととなり、今年で連載は172回を迎えました。
 先生は東大病院をご退官後、東京六本木の麻布警察署の真裏に、「顔と口腔の医学」西原研究所を主宰されまして、日々たくさんの患者さんがお見えになられています。
 また、日本免疫病治療研究会の会長として免疫病の研究をすすめられ、免疫病で悩んでいる患者さんを治しておられ、私どもでも難病で困っている患者さんを西原先生のクリニックに紹介させていただいております。
 昨年度のNPO健康生活推進会主催の講演会では、西原先生は、「5つの健康法普及国民運動を展開しよう」と提唱され、私どももそれに応えていきたいと念願している次第です。
 では西原克成先生に「5つの健康法普及国民運動」についてご講演いただきます。