物忘れ・認知症63

 腸内フローラに次いで今、口の中の微生物が熱い注目を浴び、「口内フローラ(お花畑)」という言葉も聞かれるようになりました。
 口の中には約700種類の微生物がシマをつくって棲みついていますが、口内には、口内を覆う粘膜を外敵から守ってくれている善玉菌群と、外敵となる菌群が腸内微生物のコロニーのように、まるでお花畑のように見えるというので、口内フローラと呼ばれるようになってきたのです。
 腸内フローラは善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスが大事といわれ、悪玉菌のエサの動物性食品の取り過ぎに要注意とか、冷たい物の飲食も危ないといわれますが、口内フローラの場合は歯周病を招くジンジバリス菌や虫歯を招くミュータンス菌対策がポイントになります。

歯周病は時として 脳卒中などで命取りに

 従来から、歯周病は、虫歯の原因になるだけでなく、そこで生まれる炎症を起こすサイトカインが血液の流れで全身を巡り、全身の弱点で炎症を起こすもとになるとか、原因細菌が心臓や脳に流れていき、心臓病や脳卒中のもとになるとか、糖尿病のもとにもなるとか警告されていましたが、一般的には、そんなに深刻には捉えられてこなかったのです。
 しかし、ここにきて、歯周病菌の遺伝子の研究が進み、日本でも年間約3万人が歯周病菌が原因の脳卒中で亡くなっているということがわかり、口内フローラの改善を図ることが、全身の健康維持の一大ポイントということでにわかに注目を浴びるようになりました。
 NHK「あさイチ」でも特集を組んで国民の注意を喚起しました。5月9日の放送でしたから、関心のある方はNHKのオンデマンドで見て学んでください。
 ここで報道されていたのは、国立循環器研究センターを中心とした研究チームの発表で、cnm遺伝子を持った虫歯菌・ミュータンスです。ヒトの虫歯を調べると、それを起こすミュータンス菌の約1割がこのcnmという遺伝子を持っているそうです。これが血液内に入ってくると、この菌がコラーゲンに結合し、血小板の働きを妨げるので出血が止まりにくくなり、脳内で微小な脳出血を起こすと、患部が著しく悪化する危険性があることがわかったというのです。
 日本人は食塩を慢性的に取り過ぎている人が多く、塩は浸透圧の関係で血液中に水を呼び込むため、どうしても血圧が高くなりがちになる人が多いのです。これは俗にいう化学塩であろうと自然塩であろうと事情は一緒です。
 人間は進化の過程で脳を3倍化していますから、この後から増えた膨大な脳細胞群を養うための血管システムの構造面に弱点を抱えている生物です。つまり脳内の動脈も静脈も毛細血管も、壁が薄くて弱く、高血圧や動脈硬化に弱いのです。
 脳内血流に虫歯菌などが紛れ込めば、当然そこでバイキン退治の免疫反応が自動的に引き起こされますが、その時、免疫を担当する白血球が活性酸素を放出すれば血管は内皮側からダメージを受け、膨らんだり破れたりするリスクを背負わされます。
 口と脳は至近距離ですから、虫歯菌・歯周病菌などは脳の手前の血管内での免疫反応でのバイキン退治が間に合わないで、脳内血管内が戦場になるリスクが高くなってしまうのです。
 冷たい物の飲食によって腸内からやってくる腸内フローラのバイキンは脳手前の血管内での免疫反応で処理されることが期待されることに比べれば、虫歯菌・歯周病菌の方がより脳内トラブルのリスクが高いということはご理解いただけると思います。
 これは口内衛生に努めることは、即、脳卒中予防になるということでもあります。

口内フローラを 整えるポイント

1 夜寝る前の歯磨き
 寝ている間に、口内細菌は約1000倍に増えるといわれます。つまり朝起きぬけは、口の中はバイキンだらけということです。その数を少なくするには、寝る前の歯磨きです。朝は舌の中央線の掻き出しもしましょう。カビ菌退治もできます。道具がない場合はスープ用スプーンで代用もできます。デンタルフロスも上手に使いましょう。
2 歯周ポケットを磨きましょう
 歯ブラシを歯と歯茎の間の歯周ポケットに斜め45度に当てて掻き出すように磨きましょう。
3 睡眠不足にならぬよう
 睡眠不足は唾液の分泌を減らします。
4 口呼吸は駄目です
 扁桃腺を乾かし、口内細菌を体内に誘導してしまうからです。
5 栄養バランス
 ヒトは肉食動物ではないということを頭に置いた上、老化を克服する新陳代謝のしくみから、栄養のバランスが大事ということを考えます。口内粘膜の健康上ビタミンAとDを十分摂りましょう。不足すると唾液も減ります。
6 食事はよく噛む
 よく噛めば唾液は増えるし、歯周の血流も増えます。

歯周病セルフチェック

 公益財団法人8020推進財団が「歯周病セルフチェック(表)」を発表しています。チェックが1〜2個の場合、歯周病の可能性があり、3〜5個の場合、初期あるいは中程度に歯周病が進行している恐れありとされます。