物忘れ・認知症62

 急速に増え続ける高齢者の介護。この世を去る少し前、例えば2週間前とかに介護が必要なのは当たり前としても、その遙か前から介護というのは本人にとっても、支える側にとっても大きな問題であるだけでなく、超高齢社会、日本全体にとっても大きな課題です。
 要介護生活になる原因疾患の第1位(36%)は、座りきり、寝たきりなどでなっていく「生活不活発病」関連といわれます。ちなみに2位はがん・その他の重病22%、3位は脳血管疾患19%、4位は認知症16%だそうです(厚生労働省調べ)。
 これからは生活不活発病のことを知ることが幸せな老後を送る上でとても大事ということを知っていただきたいと思います。

巨大災害のあとに 増える要介護生活

 阪神大震災、東日本大震災など巨大災害が次々と起こる今の時代、今回の異常に長引く熊本大地震でも被災者の方々には心からお見舞い申し上げますが、被災者は生活不活発病のことを知らなければ、簡単に生活不活発病を経由して寝たきりの要介護生活になっていきます。
 例えば狭い避難所や仮設住宅に入ったあと「年齢のせいで体が衰えた」と訴える高齢者たちが多いのですが、その背後に「生活不活発病」という病気が潜んでいることが少なくないといいます。通常の老化では年齢とともに体の機能が徐々に衰えていきます。が、仮設住宅に入り「することがない」とか「疲れやすい」とかいって体を動かさなくなると、ほどなく骨や筋肉だけでなく、呼吸器や脳など全身の機能が低下してきて、次第に動きにくくなり、疲れが出やすくなり、食欲も低下し、さらには認知機能の衰えやうつ状態など精神的な状態も出てくる人が多いのです。
 多くの人はその変化を年齢のせいで仕方ないと諦め、ますます動こうとしなくなります。そうなると加速度的に体を動かさなくなり、心身の機能はますます低下し続け、ついには寝たきりにもなってしまうのです。これが生活不活発病です。
 今までの大災害の後には、このパターンで要介護生活者が増えてきたのです。
 しかし、こうしたことは何も被災地に限ったことではありません。生業としていた仕事を失ったり、引っ越しなどでコミュニティの繋がりがなくなったりすることで、家に引き篭もりがちになり、体を動かさなくなる高齢者は少なくありません。大災害とは関係なくても、高齢者でなくても誰にでも起こり得ることです。仕事を失ったり、することがないという人は、社会との繋がりを失うということになりかねません。そのことで体が衰えて生活不活発病に陥る人が増えているのも現代の特徴なのです。

では、どうしたら 良いのか?

「動くきっかけをつくる」
 この生活不活発病を克服するには、まず体を動かすことが重要です。
 いったん体が衰えると高齢者は行動に起こすのは容易ではありません。できるだけその前に「動くきっかけ」をつくることが大事といいます。相手にその心配があるなら会話の中からそのヒントを探りましょう。例えば、楽しいお喋りが好きなことがわかれば、気が合いそうな知人・友人・親戚を訪ねるよう誘導して「動くきっかけ」を見つけるという方法があります。
 普通、心身の機能が低下したときは、一般的には「心身機能の回復」→「生活動作」→「社会参加」という順でアプローチすることが多いのですが、全身の機能が衰える生活不活発病では、逆にアプローチするのが有効なので、最初から「社会参加」をめざします。その中で「生活動作」など少しずつでも歩くなどの動作を行うと、自然と体全体を使うようになり、その結果「心身機能の回復」が進み、全体として改善することが多いといわれます。
 「友だちと会話する」ということが、「動くきっかけ」になりそうなのに歩行が杖を使っても長い距離は歩けないなら、歩行を助ける「シルバーカー」を使えば、楽に歩けるだけではなく、疲れたときに座ることができ、友だちに会いに行けます。
 この場合、道具をうまく使うことが改善をスムーズに進める大きなカギとなります。シルバーカーで歩けば、休みながらより遠くまで行くことができ、友だちに会う機会も増え、それがきっかけで、さらに「動くきっかけ」の目的ができて外出が増えるようになります。肉体的負担を減らし活動量を増やし体力もつけるという作戦になります。友だちとのお喋りが毎日の楽しみになり、友だちも増え、行動範囲も広がることも期待できます。

「自信を持たせて 動く支援をする」

 生活不活発病を解決していこうというとき、壁になるのは体力の衰えた高齢者の「自信のなさ」だといいます。
 段差などで転んだり、怪我をするのではないかと歩くのも怖くなっている高齢者も多いのです。たいてい登り坂も下り坂も苦手です。お喋りを楽しみたい友だちの家が坂道の上にあれば、登っていく自信もない場合も多いのです。
 やってみれば案ずるより産むが易しということになると次第に自信がついてくるものです。

「知る・知らないは 天地の差」

 生活不活発病とは何かを知ることは、実に大きな意味があります。
 実は、生活不活発病を知らないという人は、その後39%が歩くのが難しくなったといいます。
 一方、生活不活発病を理解しているという人では、その後歩くのが難しくなった人は、僅か9%しかいなかったという統計があります。生活不活発病について学んで意識を変えれば生活不活発病になるリスクは著しく減少するのです。
 足腰の衰えの自覚がきっかけで、生活不活発病にならないように、毎日の散歩をはじめ自然と体を動かす機会を増やし、親しい仲間も作るうちに元気を取り戻す高齢者は多いのです。
 介護に要する費用は年間で約10兆円(2014年度)、10年後には約21兆円に増大すると想定されています(厚生労働省調べ)。介護を必要となる人を減らすことに繋がる、こうした対策は、国や地方自治体の財政上の問題を考える上でもとても意味のあることではないでしょうか?