物忘れ・認知症59
2015年9月にアメリカ国立心肺血管血液研究所が発表した「最高血圧120を目指した人は、基準値の140を目指した人より心血管疾患や脳卒中のリスクが25%減り、死亡リスクも27%減少した」という報道を受けて、血圧を今より低い値で安定させた方が良いのではないかとの報道が日本中駆け巡りました。
しかし、この研究は日本人にはあまりいないタイプの心臓病や腎臓病になったことのある肥満体のアメリカ老人を対象者として得られたデータを元にしているので、普通の体格をした日本人には当てはまらない内容なのです。
典型的な日本人の高齢者が血圧120未満を目指すと、とくに脳血栓ができやすくなるというリスクも心配になることもわかっていますし、また、血圧の下げすぎは、早くから自立した生活ができなくなり「要介護・要支援」にもなりやすくなるとの指摘もあります。
今月はこのあたりを学びましょう。
高血圧の高齢者が 気をつけるべきこと
アメリカの発表があった直後、日本の愛媛県松山市で開催された第38回日本高血圧学会総会で「高齢者高血圧の最前線」というテーマでディスカッションが行われました。そこで紹介された日本での研究では、降圧剤で血圧を120未満に下げた高齢者ほど健康状態の悪化が見られるという見解の発表が多かったのです。
金沢医大の調査
その一つに金沢医科大学の入谷敦医師らが行った同大学がある石川県内灘町の65歳以上の高齢者を対象にした調査があります。
そのうち降圧剤を使った治療中の患者570名を選び、4年間の追跡調査をしたのです。そこでわかったのは、最も「要介護」「要支援」になりにくかったのは、最高血圧140から160の人たちでした。
140を超えると高血圧と診断されますから、この研究では「高齢者の血圧は、少し高めの方が良い」という結果になったのです。
そして、140から160の人たちの要介護・要支援になるリスクを1として計算すると、160以上の人でリスクは約3倍、120未満の人も約3倍でした。
これは血圧が高い人も低い人も、要介護・要支援になるリスクが高いということで、この傾向は75歳以上の後期高齢者でより顕著に見られるということです。
「要介護・要支援」となるきっかけ
同大学の「要介護・要支援」のきっかけとなる疾患の調査では、最高血圧が160以上の人が転倒・骨折になりやすく、脳卒中は血圧の高い人より120以下の低い人がリスクが高いことがわかりました。
脳の血管が詰まる「脳梗塞」も脳卒中ですが、血圧を下げすぎると血流が弱くなり、脳梗塞が起きやすくなるのです。
高血圧だけでなく、低血圧も自立生活に悪影響を及ぼすので、高齢者は血圧の下がりすぎにも要注意ということです。
かかりつけの医師が漫然と高血圧の薬を出し続け、患者も飲むのが当たり前ということで、それを飲み続けていると、いつの間にか血圧が100以下に下がってしまっているというケースもよくあるとのこと。
まして、降圧剤を投与されている患者は、他にも抗認知症薬とか肝機能障害薬とか痛み止め薬とか胃薬とか何種類もの薬を投与されているケースが多いのです。
言葉や表情が乏しく、いつも疲れているような感じのご老人は、大抵薬の飲まされすぎがあるといわれています。
認知症の三割は脳血管性のボケといわれ、脳の血流が乏しいとその危険が増えるわけです。血圧が120を切ったら、脳の血流は相当勢いがそがれています。
年はとっても天寿でお迎えが来るまでは、認知症にもならず、自立して元気に暮らすためにも、血圧は少々高めで暮らしたいものです。
薬が多すぎると感じたら
薬が多すぎるのではないかと感じたらセカンドオピニオンで評判の良い薬剤師さんに相談した上で、減らしたりやめたりして様子を見るのが一つの解決策です。その結果、調子良く上機嫌で生活できるようになったという話はよく聞きます。
医師が学ぶ医学部では、薬についての勉強はざっとはさせても、本格的にはさせないまま卒業させます。卒業してから、先輩について投薬ノウハウを実用的に教わるとか、製薬メーカーの営業マンに薬を使った上手な利益の上げ方を教わる程度というのが実情といわれますが、そんな駄目タイプ資質の医師が、一度高血圧と診断すると、血圧の変化を確かめないで降圧剤を出し続けがちだということです。
医者という資格は同じでも、やはり優秀な医師もいればヤブといわれる駄目タイプの医師もいるのが世間です。
あなたのかかりつけの医師が降圧剤を出し続ける医師だったり、やたらに多種の薬を出す医師だったら、駄目タイプの医師をかかりつけにしてしまったことで幕が上がる悲劇の始まりかもしれません。
薬の専門家は薬は毒だとしっかり教える薬学部で学んだ薬剤師ということも頭に置いて、駄目タイプ医師に薬を飲まされすぎて、ご自分の生命力に傷をつけるのはやめていただきたいものです。
高齢者の薬の代謝
高齢になると薬を代謝する肝臓の働きが落ちて、血中不要物をきれいにしてくれる腎臓も若い頃とは大分性能も落ち、また、血中で薬と結びつくアルブミンも減るので、薬が少量でも効くような体質になりがちです。
老人になると体内水分量も減るので、薬の血中濃度は高くなる人が多いのです。
こうした自分の体の変化に気づかず、漫然と出された薬を飲んでいると、いつの間にか薬が効きすぎて、血圧が下がりすぎで「要介護・要支援」ということになるケースがまま見られるとのこと、薬は匙加減が大事です。
自分の体の様子は、本当は自分が一番よくわかるのです。血圧の薬の匙加減はお任せというのは、薬が沢山流通するほど儲かる人がいる今の世の中では考え直した方が安全といえるのではないでしょうか?
後期高齢者には特に慎重に
──「フレイル」
後期高齢者の中でも「筋力や心身の活力が低下した虚弱状態」、いわゆる「フレイル」になってしまったら、降圧剤の投薬量は特に慎重にすべきといわれるようになってきたことも知っておきましょう。以下の五項目のうち、三項目に当てはまるとフレイルが疑われるということです。
@体重が減ってきた。
A歩く速度が遅くなっ
た。
B筋力が低下した。
C疲れやすくなった。
D活動量が低下した。
こうなった後期高齢者は降圧剤だけでなく全ての薬は減らさないと危険というのが薬学の常識です。心得ておきたいものです。