物忘れ・認知症58
運動は健康生活の基本ということは皆様先刻ご承知の通りです。が、適切でない運動は体を壊します。その代表が、本人にとって負担が大きすぎる、運動強度が高すぎた運動を、良いことと思い込み、続けてしまうことなのです。
これは健康を害するだけでなく、寿命も縮めます。運動していれば健康になれるというのは危険な思い込みです。
ジョギングを続けていたら動脈硬化が進行し、ついには脳梗塞になったとか、毎日一万歩を日課にしていたのに骨粗鬆症になってしまったとか、その人にとって適切とは言えないきつめの運動をしていたら「スポーツは体に悪い」といわれても仕方ない結果になった人は意外と多いと言われます。運動は意味のない運動もあるし、健康を害する運動もあるということを頭に置いて戴きたいというご提案です。
運動は 「中強度」が肝心
年寄りの冷や水という言葉がありますが、「年齢、性別、体格」に照らして考えたとき、適切とは言いかねるきつい運動をしていると健康は壊されるということです。
また、若者が年寄りにふさわしい強さの運動をしたとしても、あまり意味のない時間の過ごし方になってしまうのです。
ところが、65歳以上の五千人が、町を挙げて適切な運動を十年以上続けていたら、動脈硬化・高血圧・ガン・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病などが激減し、奇跡的といわれる効果を上げ続けているという地域もあるのです(群馬県中之条町)。
運動には年齢に即した最適な強度というのがあり、それを守れば健康・長寿命になり、外せば病気・短命になるということがわかる実例です。弱すぎても、強すぎても駄目なのです。
万病対策の ウォーキング
中之条町の経験から得られる教訓の第一は、年齢などからみて、適切な強度の運動を続けていると万病対策になるということです。
運動強度は、「低」「中」「高」の三つに分けて考えるとき、最も質が良いとされる運動は「中」です。中程度の運動を続けることが健康の維持・増進、万病予防を保障します。
「中」の運動とは具体的には、早歩きがそれです。普段の歩行より急ぎ足で歩いてみてください。
「低」の運動とは、掃除・洗濯など普通の家事での歩きやゆっくり歩行です。ゆっくり歩行なら歌を歌えます。この運動は、続けていても健康効果は期待できません。
「高」は駆け足です。ジョギングも入ります。水泳はもちろん「高」になります。健康は保障できません。人によっては体を壊す元になります。
健康作りを考えたら、運動の量(歩数)と運動の質(活動強度)のバランスが重要ポイントになります。「歩くことは良いことだ」と言うためには、このバランスを考えての上でないと言えません。
単なる散歩では、なかなかこのバランスがとりにくいのです。「低」の散歩なら健康に資しているとは言えません。今、はやりのインターバル速歩、つまり散歩中に一回三分ほどの速歩を混ぜるならトータルで「中」プラスの運動になるでしょう。エネルギーを増やすミトコンドリアも増えるので健康に資する運動と評価できます。
運動は、やはり新陳代謝を活発にする、血圧や血糖値を下げる、筋肉や骨の強度、心肺機能を強化してくれるものであって欲しいのです。
このような運動を継続・習慣化してこそ老化のスピードにブレーキがかけられます。
高強度の運動は 活性酸素の害が…
活性酸素とは、激しい運動や喫煙、紫外線、食品添加物や有害な化学物質によって体内に発生する化合物で、細胞膜から始まり遺伝子にまで酸化障害を与えるので万病の元と警戒されている物質です。
軽い障害なら、体が生み出す酵素の働きで修復できますが、多量に発生すれば修復は間に合わなくなります。細胞膜を構成するリン脂質などが酸化障害を受けると自らがフリーラジカルとなって酸化障害をドミノ的に周辺に広げます。その結果が老化の促進、生活習慣病です。
実際、アスリートと呼ばれるスポーツ選手は、案外風邪を引きやすいとか短命とかいうことが現実にあるのです。お相撲さんが短命なのは昔から有名です。筋肉質でうらやましいほどの体の持ち主でも激しい運動をしていれば、体内で老化がぐんぐん進んでいる危険性が高いのです。
中年になって体力がおちたなぁと嘆いて、高強度のスポーツで盛り返そうと思う人がいますが、気持ちはわかりますが墓穴は掘らないようにして戴きたいものです。
特に老齢期にさしかかった女性は、膝関節症や股関節の脱臼になりやすいという弱点がありますから、ランニング、登山などの「高」タイプの運動は避けるのが無難です。
「中」を守れば健康、外せば病気です。筋トレもよほど気をつけて、ほどほどにやってないと命を縮める危険がついて回ります。四十の声を聞いたら無理は禁物、リスクはとらないといきたいものです。筋トレで力を込めるときは、息をつめるので血圧が上がり血管に過度の負担をかけます。血管の傷害は修復が簡単ではありません。運動には年齢に即した最適な強度というのがあり、それを守れば長寿命になり、外せば短命になります。
「中」の運動で 長寿遺伝子 スイッチオン!
中之条町の研究によっても「中」の運動を続けた人は、明らかに健康状態が良く、活性酸素の抑制が効いていることがわかります。その上、ガン細胞をやっつけるナチュラルキラー細胞が増えているのです。これは「健康長寿遺伝子」にスイッチが入っていることの証明でもあります。「高」種の運動をやるときも決して無理のない程度にコントロールして取り組みたいものです。頑張れば、体が生まれ変わるという幻想は抱かないようにしたいものです。
以上、青柳幸利医学博士著『なぜ、健康な人は運動をしないのか?』から取材させて戴きました。詳しく知りたいかたは「あさ出版」のこの本をお読みください。