物忘れ・認知症51


 今年の7月20日(日)にNHKが「“認知症800万人時代”認知症をくい止めろ〜ここまで来た!世界の最前線」という番組を放映しました。  その中で、“糖尿病”や“高血圧”などの既存薬を投与したところ、発症直後の患者の記憶力の低下がくい止められたという医学的な報告が相次いでいることが報道されました。  更に、症状が進行した患者でも、“脳の残存機能に働きかける介護法”で、症状を改善できることもわかってきたことも報じられました。  最新の脳科学の知見を手がかりにしたこれらの方法を、認知症人口の爆発直前の今・br> A広めることができれば、医療費破綻も回避可能との見方も紹介されました。  今回は英国が高齢者の認知症の数を大幅に減らしてきた実績の紹介を中心に、こんなテレビ報道がされたというお知らせです。興味を持たれましたらNHKのオンデマンドでこの番組をインターネットで見ることをお勧めします。今回は今番組の後半分です。

◎認知症・予防は できるか アメリカでの予測

 アメリカではアルツハイマー病患者が今後どれくらいの人数になるかという予測のグラフ(図1)。2050年には今のおよそ3倍になると見られています。
 しかし、一方で、もし発症を5年間遅らせることができれば、将来ここまで減らせるという予測もグラフになっています(図1)。
 発症を5年間遅らせることができれば、認知症にならないで生涯を終える人も増えるはずで、社会への影響は大きいと考えられます。

認知症、 予防を徹底せよ ―イギリスの新戦略

 去年、ある研究結果が世界を驚かせました。発表したのはイギリス・ケンブリッジ大学、キャロル・ブレイン教授のチームです。
 イギリスの高齢者7500人を調べたところ、増えると思われていた認知症になる人の割合が減少に転じていたのです。これは20年前の認知症の人の割合を年齢別に示したものです(図2)。
 これが最新の結果では、急激に増加するはずの80歳以降で明らかに減少していました(図2)。全体でおよそ23%も減っていたのです。どの年齢層でも認知症の発症を減らせたのです。
 ブレイン教授は、イギリスのある取り組みが認知症になる人を減らすことに効果をあげたと考えています。

ある取り組み とは

 脳卒中や心臓病の予防対策が認知症の減少に大きく成果をあげたのです。
 イギリスでは脳卒中と心臓病への対策を国をあげて行いました。その結果、死亡率を10年で共に40%減らすことに成功しました(図3)。それが、結果的に認知症を減らすことにもつながったというのです。
 うまくいった鍵は、医師が生活習慣病の予防に取り組むよう促す制度にありました。

生活習慣病対策の鍵

 患者の健康を維持すると医師にポイントがつく制度を10年前にスタート。例えば45歳以上の人の血圧を5年以上記録し続けるとポイントがつきます。
 また、 高血圧の人を見つけて、そのうちの45%以上の人で血圧を改善できれば、またポイントです。さらに改善する人の割合が増えれば増えるほど、ポイントも増えます。ポイントによる医師の収入は、多い人では15%にも及びます。日本の医療保険制度では、こうした予防活動にお金は出ません。

まだあるイギリスの 生活習慣病対策

 イギリスの生活習慣病対策は医療現場に留まりません。例えば喫煙者を減らすためにタバコの自動販売機を撤去し、売り場でも陳列を法律で禁じました。
 また高血圧を引き起こす塩分の摂取量を1日6g以下に下げるため、85の食品に対して目標の塩分量を設定。大手スーパー、食品加工メーカー、外食産業と一体となり、減塩を推し進めています。
《85食品に目標値》
ソーセージ  1・13g
サンドイッチ 0・68g
スープ    0・53g
(目標の塩分量
 100gあたり)
 生活習慣病の対策を個人任せにせず、社会の仕組みで挑むことで認知症を減らしたのです。
 イギリスではGDPの1%を認知症の対策に費やしています。認知症になるのを5年遅らせることができれば認知症の人は半減するでしょう。半分になるというのは大変なことです。費用削減の効果も絶大ですが、1人1人の人生にとっても、とても大きな意味を持つのです。

医療・介護・予防 認知症、未来は変わる

 日本では、予防はどちらかというと市区町村の事業で、医療は病気を治すという風に機能が分化しています。イギリスは予防と医療を一本化して、クリニックの中で予防もやって、そこに報酬が得られるような仕組みをつくっていったのです。
 イギリスは「心臓にとって良いことは脳にも良い」と、国家戦略で取り組んできたのです。
 このチラシはイギリスのものですが、この歯車は、脳と心臓がつながっていることを示しています。認知症と心臓病は、つながった病気と訴えてきたのです。結果として心臓病も脳卒中も認知症も減ってきたというのがイギリスの現実です。