物忘れ・認知症42


 認知症の驚くべき増加に対してどうすれば良いのか? NHKの「ためしてガッテン」をはじめ各マスコミはこぞって報道合戦を繰り広げてくれています。その中から選りすぐって本誌読者にお勧めできるものを順次紹介していきましょう。

 薬物療法は   頼りにならない

 専門医が処方してくれる薬に期待して良いのは、症状の進行を遅らせることだけ。薬だけでは進行にストップはかけられないし、劇的な改善ということも期待できないのです。
 今の段階で最も注目されているのは、認知症のひとつ前のMCI段階での対策と予防です。

MCI段階での対策

 MCIとは、自分自身で「もの忘れが酷くなった」という自覚症状があり、それを家族や同僚などからも指摘される、しかし日常生活には特別何の問題もないという状態のこと。人との約束を忘れる、時々会う人の名前が思い出せない、というレベルがMCIです。
 MCIは、将来アルツハイマー型認知症になってしまう可能性が高いので、この段階でとどまることが大事です。四年経っても半分の人は本格的認知症に進行せずにMCIの状態で止まっていますし、中には正常レベルまで回復する人もいるのです。
 国立長寿医療研究センターは昨年、アメリカの国立衛生研究所(NIH)が提唱した認知症予防のための生活習慣を裏付ける研究を発表しました。
 認知症予防の生活習慣としてNIHより提唱されたのは次の八項目です。
@運動習慣をつける。
A高血圧の改善。
B人的交流など社会認知活動を増やす。
CU型糖尿病の改善。
D地中海食などバランスのいい食事を摂る。
E適正体重の維持(生活習慣病の改善)。
F禁煙する。
Gうつ状態の改善。

 有酸素運動が一番効く!

 一番重要なのは「@の運動習慣をつける」、とあたりをつけた国立長寿医療研究センターでは、次のような調査研究を始めました。
 大府市内に住む65歳以上の高齢者五千百四人の中から、MCIの人に参加を募り、三百八人を週一回ウォーキングなどの有酸素運動をするグループと、同じ期間まったく運動をしないグループに分け、認知機能に差が出るかどうかを調べました。有酸素運動をする際は、運動しながら同時に暗算をしたり、クイズやゲームを取り入れました。
 この調査研究を始めて十ヶ月後、両グループの認知機能を測定する調査を行いました。すると、運動をしていたグループは認知機能の結果が維持・向上していたのです。それだけではありません。脳の萎縮もストップしていました。一方、運動しなかった人たちの結果は横ばいで、脳の萎縮が進行する人が多く認められました。運動をする人としない人で、はっきりと差が出たのです。

運動しながら何かをする

 これまで、認知症予防であれば、脳を活性化させるため計算問題をこなすとか、文章を書き写すといった「頭の体操」、あるいは編み物や工芸などの「指先のトレーニング」などが重要だと考えられていました。しかし、この調査研究を踏まえて考察すれば、現在では有酸素運動こそが一番の予防法だというのが定説になりつつあるのです。
 有酸素運動をすると、脳への血流が安静時に比べて大きく増加し、それだけ脳の運動野の神経細胞を活性化させることが出来ます。さらに、脳細胞の成長に不可欠な液性タンパク質が有酸素運動をすればするほど発現量が増加するのです。
 そして有酸素運動をしながら同時に頭を使うことが、脳への剌激をより増やすこともわかってきました。普通なら、人は同時にいくつもの作業が出来ます。例えば、食事しながら会話したり、歩きながら考え事をしたり。
 ところが、認知症になると、同時に出来る作業がどんどん減っていき、最終的には食事するという作業も出来なくなる。ですから、MCIの段階で出来る作業をそのまま維持させることがポイントになるというわけです。
 ウォーキングをしながら、「100」から「9」と「7」を交互に引き算する、という暗算ウォーキングに挑戦してみませんか。