物忘れ・認知症34

 今、本屋さんにいくと、中村仁一医師がお書きになったベストセラー『大往生したけりゃ医療とかかわるな』という本が山積みになっています。とても面白くて為になる本ですから、タイトルに興味を感じた方は、是非お読みになることをお勧めします。認知症だから医者にと思っている方も、是非ご一読を!
 ヒトの食性を無視してめちゃめちゃな食生活を長く続けていたり、無理な生活が続いて体調を壊すと、すぐ医者に頼るのが当たり前と、繰り返し教育を受けて頭にその観念がしみこんでいる人には、この本は刺激が強くて、ちょっとショッキングかもしれませんが、質が悪いというか、程度の低い医師(残念ながら少数とはいえないというか大多数というか)の手にかかって、検査検査・投薬投薬に明け暮れて、国費は湯水のごとく使っている今の医療は、治せないどころか、患者の寿命を縮めるケースが実に多いということに気がつけば、認知症の場合
も、医療に近づく前に、なぜそうなってしまったかと、人生を振り返って、その修正に懸命に取り組むのが得策。
 臍をかまぬよう、今から申し上げるもう一冊を是非ご参考にしていただきたいものです。

『パニック障害、 うつ病は 腸のバイ菌が原因』

 『自然食ニュース』にご連載いただいている西原克成先生の新著『パニック障害、うつ病は腸のバイ菌が原因』(たちばな出版刊・税込1470円)です。
 がん・糖尿病・脳卒中・急性心筋梗塞の四大疾病に、「精神疾患」を加えて、五大疾病と指定しているのが厚生労働省の立場です。
 「認知症」はパニック障害・統合失調症・うつ病・自律神経失調症などと並んで「精神疾患」の一つです。
 体調を狂わせたらすぐ医者にと洗脳されている多くの国民は、精神科とか心療内科に通いたくなるのですが、これらの医療機関では、まず治らないどころか多種の薬の長期大量投与で廃人にされていくリスクが高いのが現状ではないでしょうか?
 大事な人がそうなってから介護で泣かないように、「認知症」もタイトルに書かれた精神疾患と同列と見て、この良書で西原医学を学んでいただけたらと思います。

精神疾患は 脳のアトピー

 この本の第一章では、まず精神疾患はなぜ起こるのかを明らかにします。
 西原医学では、「精神疾患」は脳にアトピーが起きたので発症したと見ます。アトピーは細胞内感染症ですから、生活習慣を改めれば簡単に回復できるのです。
 第二章は、西原先生のクリニックでは、具体的にどのような治療をし、どのように改善されたかの解説です。
 その症例13では、アルツハイマー型認知症の具体例を取り上げています。アルツハイマー型認知症は、脳の海馬に細菌やらウイルスが巣食う感染症で、脳細胞のミトコンドリアが機能できなくなり、海馬が萎縮してしまいます。ミトコンドリアのエネルギーがなくなるので代謝がうまくいかなくなり、結果としてアミロイドβタンパクが脳に沈着するのがアルツハイマー型認知症の特徴です。
 西原先生は、十年前にアルツハイマー型認知症の診断を受け最近は一人で歩くこともできなくなって介護が大変な状態になっている方の実例で解説しています。この方が患っている膀胱炎と脳に巣食っているバイ菌が同じ種類で、抗生物質が効くことが西原式「ミトコンドリア・エナジー・リゾナンス法」でわかったので、その方法でわかった「効く抗生物質」を点滴したところ、効果てきめんで一回で膀胱も脳もきれいになったというケースをあげておられます。
 バイ菌の元は、大抵は口の中に原因があるところから、口の中を診たところ、入れ歯の下に腐った歯が残っていたので、そこを処置したら元気な母親に戻り、一人で歩けるようになったとのことです。
 十年来の認知症が一回の点滴で劇的に良くなったというのは、西原先生の考え方の基本的な正しさを証明しているものといえるのではないでしょうか?

アトピーと アレルギーは別物

 精神疾患が脳のアトピーといわれても、面食らってなかなかなじめない方も、西原先生の説かれることをこの本で冷静に学んでいただけたらと思います。
 一般的に「アトピー」といわれると、普通は皮膚の神経終末に強いかゆみや痛みが生じるアトピー性皮膚炎がなじみですが、「わけのわからない炎症」「典型的でない炎症」は皮膚だけに起こるわけではありません。常在性細菌やウイルスが体内のどこの細胞に巣食って障害するかによって、症状や病名が変わるのです。
 皮下組織に巣食って障害したものがアトピー性皮膚炎であり、関節に起こればリウマチに、膵臓に起これば膵炎に、ランゲルハンス島に起これば糖尿病に、網膜に起こると網膜症に、ブドウ膜に起こるとブドウ膜炎。脳の中の神経細胞やグリア細胞内に巣食ってしまい、脳機能が障害されたものが精神疾患。
 皮膚と脳は外胚葉に由来し、同じような系統の細胞で形成されているので、アトピー性皮膚炎になったことがある人は、脳もただれやすい人という自覚が大事です。
 アトピーとアレルギーを混同している向きもありますが、アトピー性炎症は、自分の腸管と同じ組織である口や鼻腔内にいる細菌やウイルスなどのバイ菌が、細胞の中に感染して起こる病気、アレルギーは免疫反応が正常に働かなくなった状態、つまり病的な免疫反応のことで、両者は別の概念で考えないといけないのです。

免疫力の 鍵を握るのは ミトコンドリア

 西原医学では「免疫力」とは、ひと言でいうと「生命力」のことであり、そして、この「生命力」は、すべて体内のミトコンドリアに依存しています。
 私たちの体はたくさんの細胞が集まってできていますが、これらを統一的に動かすためには、ホルモンとサイトカイン(免疫システムの細胞から分泌される情報タンパク質)や神経伝達物質が必要で、これらはすべてミトコンドリアがつくり、神経や筋肉細胞、血液の中に分泌され、全細胞内のミトコンドリアに作用して、細胞の生命活動を支えているのです。
 だから、ある臓器のミトコンドリアに、バイ菌やウイルスによってダメージが与えられれば、その臓器に悪影響があらわれるのです。精神疾患のみならず、今まで奇病難病といわれてきた病気も、病気に侵された細胞のミトコンドリアに注目すれば、発症の仕組みが見えるとし、それに基づいた適切な治療法と予防法を快刀乱麻のごとく明らかにされてきたのが西原医学の神髄で、これがよくわかるように解説してあるのが、この本なのです。
 冒頭には、予防法に焦点を当てた「あなたの生活習慣をチェックする!」という表もあり、西原式鼻呼吸体操の仕方もたくさんの図入りで解説されているので、とても親切なつくりになっています。
 ただ、残念なのが玄米食を七分づきの米・発芽玄米は体に悪いものではないが、普通の玄米食は昔からの「玄米は体によい」という玄米信仰として排撃され、98ページの図版では、体によくない食べものの筆頭に、玄米や雑穀類と例示し、結果的に白米食習慣の危険性にはあえて目をつぶられていることです。
 本誌は発芽玄米食を提唱していますから、西原医学とぶつかるものではありませんが、全体として今の栄養学の主流である糖質・脂質・タンパク質の摂取割合6対2対2は糖質の摂取過剰として反対しており、特に白米食のような精製糖質摂取の習慣には糖尿病や認知症を含む様々な生活習慣病の根元の一つとして警告を発しています。
 この一点を除けば、認知症になりたくない人、様々なタイプの精神疾患になりたくない人、周囲にすでにその病人がいて悩まされている方にとってはこれほどの良書はないと、強く推薦させていただきたいと思います。
 認知症も抗生物質の点滴一本で好転というのは、患者だけでなく、あれこれの向精神薬しか選択肢にない医家にも、是非、目からウロコの白紙の心で実践的研究の対象としていただきたいものです。