物忘れ・認知症32

認知症は「水、栄養、運動、排便」の4つのケアで治る

 この秋、日本での認知症が三百万人を超えたと厚生労働省から発表されました。既に満70歳を迎え、物覚えが悪くなるのと反比例して物忘れが良くなっていることを嘆いている私としては、行く末は認知症か? という不安が頭をよぎります。ところが、この不安の暗雲をスーッと薄れさせてくれる良書に巡り会いました。本誌の愛読者の方にも、是非知って戴きたい内容を対談形式でまとめた内容で、とても読みやすい本です。限られた誌面ですが、できる限り忠実に要約をご紹介しますので、関心の持てた方は、是非本屋さんに足を運んでこの本を購
入して座右の書の一冊としてお読みください。
 著者の竹内孝仁先生によれば、多くの人は認知症は「記憶の障害」だという観念にとらわれすぎている、認知症は本当は「認知の障害」で、これは「水、栄養、運動、排便」の4つのケアで治るという、うれしい情報です。
 「物忘れ」は年寄りの白髪同様、正常な老化現象で認知症とは質的に違う、生理的な記憶力の低下であり、一時的にどこかにいっていた意識が思い出すという形でそこに戻ってくるなら正常な老化現象ということです。
 この有り難い本を出版してくれたのは、良書出版で定評のあるポプラ社。書名は『田原総一朗が真実に迫る 認知症は水で治る!』 著者は田原総一朗/竹内孝仁。定価は税別で1200円です。
 田原さんは、もっぱら聞き役。竹内孝仁(たかひと)先生は国際医療福祉大学大学院教授・医学博士で著書多数。1973年から特別養護老人ホームに関わり、オムツはずし運動などを展開。80年代から在宅高齢者のケア全般に関わってこられた先生です。

認知症は一元的に 脳の病気とは いえない

 まず、竹内先生は、認知症は脳が関係していることは確かだが、これを脳の病気だと一元的に考えることに強く反対されます。
 血管と血液の関係で説明できる高血圧症も、この病気を作り上げる原因・要素というのは、例えば運動不足とか肥満・喫煙・アルコールの過剰摂取とか、生活習慣の問題があり、治すにもダイエットとか禁煙とか食事の改善とか、いろいろな方法があります。
 これと同じように、認知症は、脳が関係しているのは確かだが原因はいくつもあり、治療も脳だけをターゲットにして、脳細胞を薬で正常にしようとする治療だけというのはあり方としてもおかしいし、効果も期待できない。今の薬は、認知症を治すものではなく、進行を遅らせるものといわれているが、何と比較すれば「遅れた」と言えるのかもわからない。
 医学の世界では、認知症は精神疾患なので、症状がとれたら治ったと言っても良いのです。
 そこが体の病気とは違うところ。体の病気は、症状がとれるだけでなく、様々な検査結果も良くならないと治ったとは言えません。
 竹内先生は、十年くらい前から、いろいろなケースを経験しているうちに、認知症の症状がとれる方法がどんどんと見つかるようになってきたそうです。「水を飲む」とか「運動をする」という具体的な方法が有効だとわかってきて、その人を認知症に駆り立てているのは何かを突き止めるためには、行動観察を一日か二日すれば、その症状をとるための手がかりがつかめるそうです。この確信が得られたときに「認知症は治せる」と言って良いと思われたとのこと。
 竹内先生がこの考えに到達され、「認知症は治る」と言い始めた頃、イギリスでもトム・キットウッドという社会心理学者が「パーソン・センタード・ケア」(人中心のケア)という意味で「認知症は社会的、心理的病気であり、その人の置かれている心理的環境が原因である」として、その人らしさを大切にした関わり方で認知症を治し、そのいろいろな事例を雑誌や論文に書いています。

夜になると 騒ぐケースは、 一両日で治る

 夜になると騒ぐ程度のことは、水分摂取の不足でしばしば起こり、集中的に水を飲ませると落ち着くことが、既に多くの介護施設では知られ実践されています。
 こういう人はたいてい毎日800ccくらいしか水を飲んでいない。水は一日1500ccは必要とされていますから、かなりの不足が続いているということです。
 トイレットペーパーでも何でも食べてしまう異食タイプでも2〜3ヶ月で治せるそうで、竹内先生のご経験だと「水」「運動」「栄養のある食事」「便秘解消」で認知症の三分の二は治るそうです。
 それだけでは治らない人も、週に2〜3回ショッピングに一緒に行くなど、その症状に合わせたケアを展開すると2〜3ヶ月で治るそうですが、竹内先生のお考えでは、その時一番大事なことは、本人も含め家族が「認知症は治るんだ」ということを知ることだそうです。

認知の要素

 竹内先生によれば、認知障害の「認知」はどういう要素で成り立っているかを、まず知るのが大事です。自分は何でここにいて、どうしたら良いのかという認知に不可欠なものは意識です。意識がちゃんとしていないと、ここはどこで何をすべきかという認知が根本的にできなくなってしまう。これは意識がない眠っているときには認知できないことを考えればわかること。そして意識の他に認知に必要なものは「注意」。注意力が散漫になっていたり、集中できなかったり、持続しないと認知がおかしくなる。だから、認知には「興味」とか「関心」と
いうものも重要。この二つが認知の機能を高める。そして置かれている状況がパッとわかる「記憶」と、状況をネーミングして表現できる「言語」も認知には重要。認知の土台となっているのは「意識」であり、意識がしっかりしていないと「ここはどこか」「何をどうすべきか」という認知の根幹が崩れてしまう。その上で認知を支えているのは「注意」と「心的エネルギー」(興味・関心・情熱など)。これを二本柱に「記憶」と「言語」があることによって、認知が形成されているとのことです。

認知症とは

 認知症は認知力の低下で起こるもので、1.その場がわかる。2.その場と「自分との関係」がわかる。3.どうすればいいのかがわかる。この三つの要素が適切なら、それは単なる「もの忘れ」で認知症ではない。
 「もの忘れ」の性質が変わり「認知症」とされるのは、明らかにその場の状況にマッチしない行動まで起こってくるときです。「ここはどこだ?」から「あ、そうだ」と意識が戻ってきたら「正常なボケ・もの忘れ」。「なんだ、ここは!?」とわけがわからなくなって、混乱して粗暴にふるまうようなことになると「異常なボケ・認知症」。なぜ異常かというと、行動がその状況にマッチしていないから。

認知症の6パターン

 竹内先生は、認知症を六つに分類しておられます。
1.身体不調型 認知症の中でも一番多く、夜になると興奮状態となり、騒いだり歩き回ったりするタイプ。
2.環境不適応型 デイサービスに連れて行かれ玄関先で「こんなところはイヤだ」と大騒ぎするタイプ。高学歴で偏屈な男に多い。新しい環境を嫌う。
3.知的衰退型 「場所がわからない」「どうしていいかわからない」という認知の障害の特徴が一番強く表れているタイプ。
4.葛藤型 自分の置かれている状況に向かって挑んでいるタイプ。周りからの抑制的な働きかけがあると粗暴になる。「異食」も葛藤型になる。孤独が原因でいろいろな症状が出てくることもある。物集め、ナースコールなど人集めをすることもある。
5.遊離型 何もせずただボーッとしている。食事もしない。身も心も離れている。
6.回帰型 その人の古き良き時代に戻ってしまう。

水を飲むと、なぜ 認知症が治るのか

 竹内先生は以下のように説かれます。65歳を過ぎると、体重の50%が水であり、体内の水が不足すると意識に支障をきたします。例えば体重が50キロの人は25キロ、つまり25000ccが水。この総水分量の1〜2%が欠乏状態になると、意識が落ちてくる。つまり覚醒水準が落ちてくる。頭がぼんやりしてくる。500ccのペットボトル1本が2%にあたり、この程度の不足で意識障害が起こる。ちなみに3%の不足で血液がドロドロになり脳梗塞が起きやすくなる。「認知」は意識を土台としているので水が大事で、十分に水を飲ませるだけで治る認
知症の人は現に沢山いる。

自然食ニュースの コメント

 意識の覚醒水準を正常に保つのに、水分の適量摂取がどんなに大事か、これは認知症だけでなく、すべての生活習慣病に言えると思います。私たちが懸念するのは、飲む水の温度です。冷たい水は、認知症のもとにもなるので、体温より程よく温かい水分、例えば42度のぬるま湯のチビリチビリの摂取、一日量合計1500ccを心がけたいものです。また、酒(アルコール)やコーヒー(カフェイン)など脱水作用の強いものは水分としてはカウントしないのが安全と思われます。