物忘れ・認知症

海馬を強くする方法@

今回は、萎縮してしまうと認知症になるという脳の記憶器官・海馬を少しでも強くする方法を考えてみたいと思います。
日々の学習

 一昔前まで、海馬は記憶の整理役、管理役といわれていましたが、最近では記憶の司令塔だといわれるようになってきました。ロンドンのタクシー運転手の脳を詳しく調べた研究で、経験を積んだベテラン運転手の海馬が、市内の地理もまだよく頭に入っていない新入りの運転手の海馬より充実しており、この新人の海馬も、経験を積むにつれて、シナプスも増え、次第に重量も増える、つまり、細胞の数も増えていくということがわかって、脳細胞の数は、年をとるに従い、毎日10万個の細胞が減っていくといわれていたのは事実ではないということに
なってきました。
 これは学習効果といわれるもので、青春期でも壮年期でも初老期でも老年期になっても、脳は学習を望んでおり、学習を積むにつれて海馬の神経細胞は増えるというのです。興味が持てる分野の学習を定期的にきちんとしていけば、記憶力の衰えも最小限にすることができるだけでなく、記憶力の増大も期待できるという話です。書物を読んだり、インターネットを駆使したり、人と大いに議論したり、テレビの教養番組を活用したり、学校に行ったり、各種セミナーに顔を出したり、とにかく続けられるスタイルで生涯学習を続けると良いということで
すね。そういえば、昔習った論語の話にも、「書物を読んでいるだけでは駄目だ、読んだら自分の頭で反芻しながら、よく考えろ、考えているだけでも駄目だ、書物で更に深く学べ」というようなことがありましたね。権威にヘイコラの事大主義、教条主義にならぬよう、自分の頭でよく考えて、認識している内容が正しくないなと思われたら、その時点でためらわず修正をする、こうして絶えず学習を積み重ねていくことで海馬の衰えを防ぎ、更なる発達をめざすような気風を持たれたらいかがでしょう?
 体の器官は、使わなければ廃用性萎縮といって、日を追って衰えていくところが殆どです。全体として老化が進んでいると、廃用性萎縮のスピードも上がってしまいます。脳の器官である海馬も、活発な情報のやりとりや刺激がなければ、次第に廃用性萎縮を起こしがちな器官です。
 脳は20歳の頃は通常140億もの細胞でかなりの記憶力を持っていたとしても、老化と並行して廃用性萎縮が起きるようになると、前頭葉がまず萎縮し、記憶力・集中力・注意力・創造的思考力などの高次機能がまず減衰し、次第にこの機能低下は他の連合野にも及び、視覚・聴覚も衰えるようになると、今がいつか?、ここがどこか?、自分が誰か?、もわからなくなってしまいます。これは立派な認知症です。運動野にも廃用性萎縮が起きると、筋肉の廃用性萎縮とだぶってまともに歩くこともできなくなります。
 人は死ぬまで自分の行きたいところに自分の足で行けるというのが幸せの基礎というところから考えると、運動野の廃用性萎縮もまずいですね。
 ただ、高次脳機能の中での総合判断力は、何故か萎縮と無関係で衰えない、また若い頃、体で覚えた記憶は「結晶性記憶」といわれ、年をとっても衰えないといわれるのが救いです。衰えた記憶力は「総合判断力」を頼りにして、何とか認知症にならないように日々の学習に努めましょう。

孤独は 認知症のもと

 友達がいない、孤独を愛する人は認知症になりやすいといわれます。俺は一人で生きられると粋がるのもほどほどにしておかないと、早くから海馬が衰えるもとになるといわれています。山男も一人登山をしているとボケが早くからくるようです。ヒトは本来的に群れて生活する草食型動物です。この本性を無視して「煩わしいのがイヤだから」と人嫌いを続けていると認知症があなたを放っておかなくなるというのです。認知症で惨めな老後を送るくらいなら、少々面倒でも挨拶から始まる人付き合いをそこそこしていた方が良いですね。
 付き合うと自分の自尊心を傷つけられるタイプの人は敬遠したいですよね。しかし、それを楯に顔も見たくない、口もききたくないといっているうちに、世間はつながっていますから、次第に自分の世界を狭くしていくようになります。バランスを欠いて周りの大方をそのように見出したら、世間との常識的な付き合いも途絶えがちになり、楽だなんて喜んでいるうちに、年をとるにしたがって海馬の刺激・情報のやりとりの道が細くなり自分が認知症予備軍に落ち込んでしまいます。あんな馬鹿な人たちと付き合うより一人の方がよっぽど楽という毎日
も考えものだということです。社会性を失った一匹オオカミの百年の孤独は海馬の衰えを招き、記憶力が低下し、様々な心の病になって狂い出すのです。
 大東亜戦争で敗れた日本は、個人の尊厳という幻想を振りまかれて家の制度を占領下で壊され、孤独に追い込まれて、昔では考えられないタイプの犯罪や自殺をする人が増えています。バラバラにされた日本人は怖くないという占領軍の狙いはうまくいったのでしょうが、脳を狂わされた人が犯罪者として社会の谷間に落ちていくのです。
 叡智に満ちていた日本に戻るためには、まず、汝の隣人を愛し、程よく群れて暮らす生活、社会に回帰するように舵を向けるべきでしょう。そのように心がけて暮らしていくと自然と海馬のニューロンもシナプスも増えてくる人が多くなり、認知症激増に悩まされない、妙な犯罪も次第に少なくなっていく社会に落ち着けるのでは? と希望するのは少々おめでたいせいでしょうか? 多少時間の無駄と思われても、ばかばかしいと思われても、これからは老後も健全な海馬のため、程よく群れてそれなりに楽しく暮らしたいものです。
(つづく)