物忘れ・認知症K

認知症は進行する

 前回、認知症は進行するという話をしました。これはボケにも程度があって、行きつ戻りつしつつ、長い目で見ると、だんだんひどくなっていくことが多いということです。
 認知症は加齢とともに起こる物覚えの悪さ、物忘れの良さとは明らかに違う病的な物忘れをともなって、まともな認知能力・判断能力が失われることですが、これも時間を限ってみたら、つまり一時的には認知症とはいえない程度に戻ることもあるということです。  脳は、まだまだわからないところが多いので、この進行の仕方に目をつけて、遅らせるというか、進行にブレーキをかける工夫というのが様々考えられます。
 アルツハイマーでは脳の扁桃体に独特の傷が見られるというのは、『心の病は脳の傷』という本の教えるところですが、この本では、ストレスこそこの傷の原因との観察結果を発表しています。
 ストレスというのもなかなか難しいところがありますが、その人にとって過剰なストレスが続くと、交感神経の緊張が長引き、筋肉を血管壁中に持つ動脈を中心に血管が細くなろうとするので、それで血液の流れが悪くなってしまうと、海馬を含む脳も、酸素欠乏や栄養素不足が続き、萎縮などの壊れ方をしていく危険が増えることになります。
 となると、ストレスが無くなることが認知症を防ぐのに良いなとは誰でも思うと思いますが、それはこの世ではなかなか出来ないという現実の壁があります。
 しかし、たとえストレスが無くなることは無くとも、とりあえずそれを軽減する手は打てるかも知れません。
 また、その困難な問題はとりあえず棚の上にでも置いといて、脳の血管を拡げるあの手この手を打ってみるのも認知症にならない工夫として成り立つと思いませんか?
 今月は、このあの手この手を模索してみたいと思います。

笑顔の共有

 人は誰でもミラーニューロンというのを持っています。ミラーは鏡、ニューロンは神経です。一番わかりやすいケースが、赤ちゃんにお母さんが微笑みかけると赤ちゃんが笑顔で応えるケースです。大人でも話し相手に微笑みかけてみると、笑顔を共有出来ることが多いのです。笑顔は副交感神経を興奮する方向に働きかけ、動脈血管を縮めていた交感神経の興奮を鎮めます。その結果、脳内の血流が回復します。一日一笑という言葉もありますし、周囲の人と笑顔を共有しようと心がけていると、ボケも遠のくという効果も期待出来るわけですね。酸欠
が海馬も萎縮させるのでしたから、折に触れて深呼吸をして、酸素を十分血液に取り込む習慣もボケを遠ざける妙薬といえますね。
 ついでの話ですが、時には泣いて涙を流すのも大いにプラスだそうです。脳内で交感神経を興奮させていた神経伝達物質が涙で出ていくからだそうです。今泣いたカラスがもう笑ったとか、大人でもメロドラマなんか見て涙を流した後、何故か心がスッキリという背後にはこういう事情もあるようです。この人にボケられたら困るなあという人に、本格的にボケる前、涙がよく出る映画なんかをDVDで用意して、毎日一本ご家庭で見て貰うのも良いかも知れません。自分はボケそうだという自覚がある方は、この手で涙を大いに流す工夫をして実行して
いかれてはいかがでしょう。

砂糖は頭の栄養か?

 砂糖業界が時々、砂糖は脳の栄養だみたいなキャンペーンを張っています。砂糖の売れ行きを増やす効果を期待しての大宣伝の繰り広げだと思いますが、認知症にはどうなのでしょうか? そもそも砂糖は脳の栄養としてはどうなんでしょうか?
 脳はブドウ糖を消耗するところだから、その供給源として砂糖は脳の活動に必要だといいたいのだと思いますが、誇張もいい加減にして欲しいものです。砂糖が脳で上手に活用されるためには、ビタミンB群やカルシウムなどのミネラルが摂った砂糖の量に応じてかなりの量必要となります。甘い飲み物などで、これらの微量栄養素抜きで砂糖を多量に摂れば、高血糖の後に来るインスリン分泌による低血糖症で、それこそ脳はその認知能力に深刻なダメージを負いかねません。これは砂糖のみならず、コーンシロップといわれるトウモロコシから作る爽
やかな甘さが売りの液体にもいえることで、若者にイカレポンチが増えている背景に砂糖やコーンシロップの摂りすぎ、微量栄養素の慢性的不足があるというのは、将来の認知症予備群を大量に作っているという意味でも心配というか深刻な問題を孕んでいるのですが、今の世に、その自覚がないというのが危機を招きます。良いと思って良くないことをさせられる羽目になるからです。資本の力に任せて世の滅びを招く悪宣伝を堂々とする風潮、なんとかならんものでしょうか?
 ヒトは本来もっぱら植物食をする食性を持っている動物だということを忘れさせる教育宣伝にめげず、玄米食・大豆食・菜食をベースによく噛んで摂り微量栄養素はみんなまとめて食事の度にサプリメントで毎日補給するという栄養バランスのとり方こそがあらゆる生活習慣病、なかんずく認知症にならない食生活のスタイルだという思潮を広げていきたいものです。

料理は脳活性化の 効果大

 食べ物と栄養の工夫は認知症に縁を作らない方法としてとても大事なのですが、最近話題になっているのが料理をするということがボケ予防対策として大変有効だということです。
 東北大学加齢医学研究所によれば、59歳から81歳、平均68歳の男性21人に毎日自宅で15分から30分かけて毎週5日以上3ヶ月料理をして貰った後、意欲が湧いてくるもとの前頭前野の機能を調べる検査をしたところ、全体として小学生レベルだったのが50代男性のレベルまで向上したというのです。前頭前野は人間にのみ発達が認められる部分で想像力、コミュニケーション力、自制力、記憶力に関係し、ここが壊れていると料理が出来ないことがわかっています。料理は材料を揃え、手順を踏んでいかないと出来ません。この料理は実は認知症を防ぐ良
いトレーニングになっているのです。そういえば、以前から頭の良い女は料理がうまいといわれていましたね。ボケたくなければ男も厨房に入り、積極的に料理に挑戦し続けるというのは価値がある時間の使い方ということになりますね。
 これほどの効果はないと思いますが、外食する時には、見本やメニューをあれこれ比較した上、自分で選び、料理内容を吟味し、作り方も想像し、もし、自分で作るとしたらと思い巡らせる習慣を身につけるのも認知症にならない工夫になるそうです。

脳血流を良くする あの手この手

 脳の血管を拡げ、海馬にも酸素を十分補給していく有酸素運動の運動の中で特筆すべき効果が証明され、NHKテレビでも紹介された運動にフリフリグッパー体操というのがあります。お年寄りでも楽しく取り組める軽めの運動で、前頭前野が活性化する効果が顕著といわれています。
 筑波大学で考案されましたが、テレビで紹介されたのは「青い山脈」の歌にあわせ腰を振り振りかかとを上げ下げし、グーを握って両腕を左右に広げた後、パーにした両手を前で合わせるという体操です。
 はじめは足を肩幅にして内股でハの字にして立ちます。「青い山脈」の歌を歌いながら、つま先は床につけながら、かかとを足踏みする感じで交互に上げ下げをしながら腰を左右に振りますが、この時、頭は動かさないようにすることがコツです。
 ついでながら「青い山脈」でも他のカラオケでも、歌の情景を目に思い浮かべ、全部覚えていつでも歌えるようにするのが、これまたボケの予防にとても良いといわれます。好きな歌は、繰り返し歌っているうちに自然と覚えられやすいのですが、一番から三番四番まで正確に覚えておくというのは意外と大変です。しかし、これが海馬のトレーニングに向いているそうです。
 フリフリグッパーをより効果的にしていただくため、ご参考までに「青い山脈」の歌詞を掲載させていただきます。覚えられますか?
(一)
若く明るい 歌声に
雪崩は消える 花も咲く
青い山脈 雪割桜
空の果て 今日もわれらの
夢を呼ぶ
(二)
古い上着よ さようなら
さみしい夢よ さようなら
青い山脈 バラ色雲へ
憧れの 旅の乙女に
鳥も啼く
(三)
雨に濡れてる 焼け跡の
名もない花も ふり仰ぐ
青い山脈 かがやく嶺の
なつかしき 見れば涙が
またにじむ
(四)
父も夢見た 母も見た
旅路の果ての その涯ての
青い山脈 緑の谷へ
旅をゆく 若いわれらに
鐘が鳴る

一人じゃんけん

 韓国ドラマで、日本のじゃんけんによく似たじゃんけんをしているのを見て、なるほどなと思いましたが、具体的なやり方は違ってもどの民族も特有のじゃんけんがあるそうです。
 これを一人でやるのが認知症予防に効果があるというのはご存じでしたか?
 まず、右手でグー・チョキ・パーをランダムかつリズミカルに繰り出すのですが、それに応じて左手でもたとえばチョキ・パー・グーを右手と同時に出すのです。この時、左手は、必ず右手に負けるようにコントロールします。
 これを10回やったら、頭のスイッチを切り替えて、今度は左手が右手に勝つようにコントロールしてください。
 併せて20回やったら、今度は左手でグー・チョキ・パーをランダムかつリズミカルに繰り出し、右手が負けるようにするのを10回、勝つようにするのを10回とやります。最初は意外と難しく感じる人が多いと思います。全脳を使っていますが、毎日2セットほどやっているうちに特に次第に前頭前野と小脳と海馬が活性化してきて認知症予防に役立つそうです。
 手の動きは脳のリハビリにとても大事といわれます。
 ヒトの歴史は樹冠での暮らしから二本の足で直立歩行する地上に住み処を変えた時、自由になった二本の手で道具を作るようになって脳が飛躍的に発達したともいわれます。手の使い方如何で認知症にもならないで済むなら、是非、この情報を生かしていただきたいものと思います。