物忘れ・認知症H

──アルツハイマー病の予見と芳香療法──

認知症の大半は アルツハイマー病

 高齢者の様子で「何かおかしい」と感じられる振る舞いが続けば、認知症が始まっていることが多いとよくいわれます。
 一昔前まで、日本人の認知症は、動脈硬化からくる脳血管性障害型が約半分以上で、物事を最初に記憶する海馬が萎縮してしまうアルツハイマー病は少ないといわれていました。
 しかし、最近の専門家の研究では、どうも脳梗塞などによる脳血管性由来の認知症は10%程度で、60%以上はアルツハイマー病であり、その他、「鮮明な幻視」が特徴のレビー小体型認知症が約20%、前頭葉・側頭葉の萎縮が原因で「不潔と暴言」が特徴のピック病型認知症が10%程度ではないかという話になってきました。
 そこでますます、まずボケの6割にもなるというアルツハイマー病になりたくない、ならないためにどうしたら良いのかという話題に人気が集まるようになってきました。

始まりはにおいに鈍感 ──嗅覚トレーニングの重要性

 嗅覚といわれる「におい」は視覚、聴覚よりも原始的にダイレクトに脳を刺激することが明らかになって以来、古代からあった芳香療法(アロマテラピー)にも科学の光が当てられるようになり人気も高まっています。
 アロマテラピーでは、自律神経が癒し感のある好ましい香りで刺激されるため、交感神経も副交感神経もうまく調節することが可能ということで、日常生活で応用範囲が広いわけです。
 このアロマテラピーがアルツハイマー病の予防と軽減に有効というのです。
 具体的には、日中はローズマリーとレモン、夜はラベンダーとスイートオレンジの香りをかいで味わってもらいます。
 あなたはこの香り、わかるでしょうか?
 アルツハイマー病の疑いはあるが、確定もできないというほんの初期、物忘れが多くてアレッと思うこともあるがまともな対応もしているという時期、においに鈍感になっている人が実に多く、その多さは8割以上の人に見られることがわかってきたそうです。
 加齢による「におい」を感じる神経系統のトラブルで、本人にも「におい」の感覚の衰えは自覚できることが多いようです。
 ある程度の年、例えば高齢者に分類されてしまう65歳以上の方で、調理の時にお酢や醤油の「におい・香り」に鈍感になったとか、香水のつけすぎを指摘されてもわからないとか、運動後の汗くささがわからなくなってきたとか、老人臭が嫌われているのに自覚がさっぱりないとか、普通の人なら感じる「におい」を感じる力に衰えを感じるようになってきたら要注意とのことです。
 が、しかし、この発見を裏返せば、「におい・香り」を感じる練習・訓練を重ねることで、アルツハイマー病になりにくくなったり、進行を遅らせたり、ひいてはアルツハイマー病の予防を可能にする研究に道を開いたということでもあります。
 そういえば日本には、香りを「かぎ分け、聴きわけ、記憶するゲーム」ともいえる香道があり、まさに香りのトレーニング法でもあるということは心強いですね。
 こうした嗅覚の訓練がアルツハイマー病対策になるというのですから、高齢者は趣味のウイングをこのあたりまでひろげると良いかも知れません。否、誰もが高齢者になるのですから、若いうちからアロマの世界に視野をひろげることはとても大事な教養の一つといえますね。

嗅球と 大脳辺縁系

 「におい」は鼻を通り抜けた香り物質が「におい」の感覚のセンサー、嗅細胞に到達し、その情報が脳のアンテナに相当する嗅球を刺激してスタートします(図1・2)。嗅球は脳の前方下部に伸びた長い球の形をした組織で、そこから枝分かれした神経は鼻の上方にある嗅細胞につながっています。そして、嗅球が感じた刺激は、視覚や聴覚と違って大脳新皮質を経由することなく、ダイレクトに大脳辺縁系に伝わり、自律神経を統括する視床下部に伝達されます。
 この大脳辺縁系というのは、動物として生きていくために必要な機能を司るところで、喜び、怒り、悲しみ、恐怖といった感情の他に、記憶が生まれる領域です。そこが傷を負うことで「うつ」にも「統合失調症」にもなり、さらに短期記憶の場所である海馬の萎縮を伴うとアルツハイマー病を含む「認知症」になるという扁桃体もこの大脳辺縁系に属します。
 「におい」はこの大脳辺縁系をより直接に近く刺激するというのです。アルツハイマー病になる歩みのコースの初期に殆どの人が「におい」の感覚がまず衰え、ここを鍛えると歩みが遅くなり、うまくいけばコースから外れるというのは福音ではありませんか?
 そういえば、ある「におい」を感じた瞬間に懐かしい思いが蘇ったり、それにまつわることを思い出すことがあるのは、この嗅覚と記憶の仕組みの関係がより密接だからでしょう。

芳香療法は 認知症から、うつ・ 統合失調にも!

 認知症の症状は記憶障害、自分の置かれた状況や場所が理解できない見当識障害、判断力の著しい低下、言語障害などといった「中核症状」と、家族や介護してくれる人に対する攻撃的な暴言や暴力、幻覚、妄想、異常興奮、睡眠障害、不安、過食などの「周辺症状」に分けて考えることができます。
 周辺の人に実害を発生させる「周辺症状」はその人ごとの性格、人間関係、生活環境の違いで、様々な違ったあらわれ方をします。
 アロマテラピーは「周辺症状」に効くだけでなく、「中核症状」にも著しく効くケースがかなりあるとのことです。
 つまり、あきらめないで嗅覚の刺激を繰り返しやっているうちに、軽度ないし中程度と認定されたアルツハイマー病の患者の認知機能に顕著な改善が見られるケースが少なからずあり、人によっては重程度と認定されていた患者にもそれなりの効果があったというのですから、これは凄いことですね。
 うつ病、統合失調症、認知症には、扁桃体に傷ができているという共通点があり、そして、認知症に効くこのアロマテラピーは、うつ病、統合失調症にも期待が持てるというのです。

芳香療法は 栄養療法と併せて!

 傷ができないよう、ストレス対策と修復の薬物療法が一般的にはいわれますが、私達は、脳内静電気対策と、脳に腸内細菌が止めどもなく行かないよう、ヒトの食性にマッチした食事と冷中毒対策、鼻呼吸励行、歯周病対策の先行重視を訴えています。
 アルツハイマーになりたくない人も、ミネラルやビタミンに代表される必須微量栄養素は毎食サプリメントで補うべしといい続けているのは、海馬と嗅球は脳の中でも未分化の神経前駆細胞が残っていて、高齢者になっても、なお新陳代謝の流れの中で増殖・新生をしており、正常な神経細胞に分化していく能力を残していることがわかっているからです。
 脳の神経細胞の殆どは、成長期に成熟した神経細胞がその人の寿命が尽きるまで働き続け、様々なトラブルで死滅すれば「ハイ、それまでよ」の世界なのに、嗅球と海馬の神経細胞だけは幾つになっても新しい細胞がオギャーと生まれるのです。
 ここにアルツハイマー病は予防もカムバックも栄養療法と芳香療法で可能になるという希望の根拠があるのです。