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第七回 養鶏産業

先進国・後進国の 食糧事情

 古くはヨーロッパ列強、近くはアメリカが後進国を勢力範囲に取り込む版図を広げた時には、まず軍事的に相手を制圧してエネルギーの供給と情報を抑え、しかる後に政治的、文化的、経済的、宗教的にがんじがらめに反抗の芽をつんで、甘い汁を吸う寄生構造を永続させようとします。その時持ち込む食文化が肉食文化であり、被支配民族はそれまでの伝統的食文化にとってかわって、幼児からまず鶏肉、鶏卵の味に慣らされ、次に豚肉、最後に牛肉・牛乳に味覚が慣らされるプログラムが実施されていきます。そして伝統食を忘れさせられ、彼らの提
供するパンの原料の小麦、鶏・豚・牛の餌のトウモロコシ、大豆カスの供給を通じて食糧の供給を握られると、金融を通じて富の蓄積をむしり取られても反抗できなくなります。長い目でみるとこのプロセスは大体、世界共通です。アメリカに未だに首根っこを押さえられている日本も例外ではありません。大東亜戦争に敗れてアメリカに7年占領統治され、その後も勢力圏内に取り込まれてきたので、日本はアメリカの豊かな農産物生産能力に依存することになりました。ところがそれから50年、広大な穀倉地帯を支えるロッキー山麓、超巨大な地底湖オ
ガララの地下水資源も吸い上げられるだけ吸い上げられ、とうとう水位が下がり枯渇も心配されるようになり、異常気象の悪影響がもたらす表土流出などもあって、急テンポの農産物生産能力低下や輸出能力急減によって、近い将来、一転、日本の食糧輸入は心配ということにならざるを得なくなりつつあります。すでに深刻となっているアメリカ農業の不振事態は数年先の近未来には破綻を来たし、食糧は価格が高騰し、アメリカからの輸出は激減せざるを得ないとの予測が現実味を帯びてきています。根本的対策としては鶏・豚・牛などの肉食を自覚的
にやめていく以外ないのですが、その意識を高めていく中で、盟主国たるアメリカの養鶏事情はどうなっているのかを知ることは、とても大事なことになってきました。そこで今月号では、この章の要約を掲載させていただきます。是非、本屋さんでこの本、『もう肉も卵も牛乳もいらない!』(早川書房)をお求めになり全文をお読みいただきますように。

養鶏産業

 動物救護活動家ロリー・バウストンによれば、あらゆる「食料動物」の中でもっとも非人間的な扱いを受けているのは、現代的な施設で飼われている鶏だという。こうした施設についてはほとんど知られていないため、鶏やブロイラーの実態は、ほぼ完全に闇の中だ。忘れがたい紙上「実態体験ツアー」を読み進めてほしい。
 現代的な養鶏施設では、一〇万羽もの鶏を詰め込んだ鶏舎を、一人か二人の係員で管理する場合さえある。係員の仕事は自動給餌装置と採卵装置が滞りなく働くかどうかを監視し、死んだ鶏を檻から取り除くことだ。
 「監禁や過密飼育が続くという点では、いかなる畜産場も今日の養鶏所にはおよびません。これまでに数十箇所の養鶏所を見ましたが、それらはケージ(鶏を入れておくカゴ)、建物の構造や配置、さらに動物の扱いに至るまで、事実上瓜二つでした。鶏たちがこうした環境の中で倒れていくのは日常茶飯事です。弱った雌鶏は年を取っているため、ほとんど価値がありません。獣医を呼んで手当してやるなど問題外です。こうした鶏は通常、ケージから引き抜いて床に放置されます。鶏たちは、そのまま衰弱や渇きによって死んでいくのです。ケージの
中で息絶え、係員が通りかかって引き出されるまで数時間から数日も放置される場合もあります」
 鶏は群れになると速やかに「つつき順」を形成する。秩序を守るためだ。二羽の鶏が給餌場で鉢合わせすると、順位が高い鶏が先に餌を食べる。鶏は群れの他の個体の順位が自分より上か下かを覚えている。しかし最大で約五〇羽までしか覚えられない。この限界を超えて集中飼育しようとすると、殺し合いが始まる。また、群れが大きくなるにつれて病気の発生率も高まる。

くちばし切除

 過密な飼育環境で生き長らえるために、雌鶏には終生、餌に混ぜて薬剤が与えられる。さらに鶏の習性も管理しなければならない。つつき順という秩序を失ったことと過密飼育の苛酷なストレスのもとで、鶏たちは死ぬまでつつき合う。養鶏農家では、この問題をシンプルな方法で解決している。ストレスにさらされた鶏が使う主な武器はくちばしだ。くちばしを取ってしまえば、どんなストレスにさらされても、傷つけ合う力は弱まる。
 電気で熱せられた刃は、くちばしの四分の一ほどを切り取る際に、血管を焼灼する。ひよこ業界では、この作業を「くちばしトリミング」と、あたかもマニキュアを塗ることか何かのように呼ぶ。
 くちばしの中には神経組織の末端が通っている。痛みは約二四時間後に訪れて、少なくとも六週間続く。「くちばしトリミング」には痛み止めは使われない。
 動物愛護運動家でさえ、養鶏所にいくと個々の鶏たちに同情を感じるのは難しい。そこは薄暗く、数万羽もの鶏がひしめく場所だ。そんな数の鶏に囲まれていると、一羽ずつの個性を感じるのは難しい。 
 ある養鶏専門誌では、採卵舎の状態を細かく記録している。今日、レイヤー雌鶏の九八%は生涯の大半においてケージに入れられており、業界の専門家はこれからこの比率はさらに高まると予測している。レイヤー雌鶏はふつう五羽ごとにケージに入れられ、ケージ一つの床面積はタイプ用紙(A4用紙に近い)二枚分もない。当然ながらこうした過密環境では鶏の死亡率も高まるし採卵効率も落ちる。しかしケージ一つに四羽以下を入れた場合よりも、結局は利益は高くなるのである。業界は過密環境が鶏の骨を弱めることを認めており、レイヤー雌鶏
の四四%は脚に異常を抱えている。
 今日の鶏は産卵能力は高まっているが、同時に他の鶏に対する攻撃性も高まっており、時には共食いまでする。産卵能力を高める品種改良の過程で食料や水をより多く必要とするようになったため、攻撃性も高まっているのだ。一羽が攻撃を仕掛ければ、やられる方は逃げ場がない。同じケージの二羽が不仲になっても、どちらかが死ぬまで二四時間同じ狭いケージに閉じこめられる。鶏卵工場にこもる熱も、こうして監禁された鶏たちの攻撃性をさらに高めたり、一〇〇〇羽単位の大量死の原因になっている。一九九五年の夏、換気扇が役に立たないほ
どの熱波のため、二五〇万羽以上もの鶏たちがケージに閉じこめられたまま窒息死した。
 卵を産み始めて一年ほど経つと、雌鶏の採卵効率は落ち始める。農場ごとのやり方と代替用の鶏の値段によって、こうした鶏は食肉処理場に送られるか、強制換羽させられるかの運命が決まる。強制換羽は、厳しい冬期を模した環境で行なわれる。こうすれば雌鶏の体内時計がリセットされ、鶏たちはさらに数カ月間、より多くの卵を産むようになるのだ。強制換羽の間、鶏たちは完全な暗闇に閉じこめられ、餌は七日間から一四日間(時にはもっと長く)、まったく与えられない。ある著名ブリーダーは、雌鶏の体重が三〇%落ちるまで餌を取り上げろ
と薦めている。多くの鶏は、さらに恐怖を味わう。ケージ仲間は死に、狭苦しいケージの中で腐っていく。換羽期間が終わるまで照明はつかない。灯りが再びつけられて餌が与えられるころには、鶏たちの五%〜一〇%は死んでいる。
 強制換羽をしようがしまいが、卵を産み始めて最初の二年のうちに、採卵効率は落ち、たいていの雌鶏は「使用済み」と見なされる。その雌鶏たちはまだ幾らかの卵を産むが、ケージを空けて新しい鶏たちにすっかり入れ替えた方が安上がりなのである。鶏舎の鶏たちはひとまとめに食肉処理場に送られる。
 終生をケージの中で身動きもできずに過ごし、卵の殻にカルシウムを奪い取られ続けたおかげで、鶏たちの骨はすかすかになっている。
 今日の鶏舎は途方もない規模に達しているが、それさえも現在建築中の巨大新型鶏舎に較べればミニチュアのようなものである。米国にはすでにこうした、一箇所で一〇〇万羽以上を擁する「巨大農場」がたくさんあり、さらにその数はいや増している。

お化け鶏

 米国で大量消費のために生産されているもう一種類の鶏は、「ブロイラー」である。卵ではなく、食肉生産のために飼われている鶏だ。「成長プロセスの変化によって、間違いなく、脚が弱っている鶏は増えている」。ブロイラー鶏の約九〇%は歩行に問題を抱えている。ブロイラー鶏の六%はあまりにも障害の程度がひどいので、牛に適用されている法律をあてはめれば、人間の食用として販売できなくなるほどだ。
 鶏の身体の成長がどんどん進み、それにつれて脚の問題も深刻になるのを見て、研究者らはいずれ鶏が自然な生殖能力を失ってしまうのではないかと恐れている。促成飼育はまた、疾病と闘うための免疫力をも弱めている。奇妙な話のようだが、養鶏農家は鶏が自然な免疫力を持つことを望んでいない。むしろ、疾病を投薬によって水際で防ごうとする。疾病を薬で抑えれば、鶏たちの代謝エネルギーは通常の免疫反応にではなく、成長に使われるからだ。鶏が品種「改良」で正常な免疫力を奪われていなければ、それによる成長の遅れのため、養鶏産業
は年間に数億ドル規模の損害を被るだろう。
 二万羽もの鶏たちが詰め込まれているとあって、ブロイラー鶏舎の空気は、吸入不可寸前になっている。動物学者たちは、空気の質を改善する方法を見いだしていない。鶏舎の作業員らは政府規制の倍の水準の粉塵を吸入し、異常なほど高い率で気管支炎、肺炎、そして肺疾患を患っている。鶏舎の温度も危険な水準に至ることがある。一九九五年の熱波では、四〇〇万羽以上ものブロイラー鶏が死んだ。

食肉処理場への行進

 生後六週間から七週間経ったところで、養鶏農家は成長途上の鶏たちを食肉処理場に連れていく。なぜもっと大きくなるのを待たずに解体するのか? 生後六週間ころから、死亡率が急激に高まるからである。鶏たちは熱波、感染、促成飼育がもたらすその他の病気によって死に始める。今日多くの鶏たちは、わずか生後七週間であるにもかかわらず、心臓疾患の間際で解体されている。ある研究では、解体時期を生後一六週間まで遅らせた。鶏の平均寿命は数年間なので、これでも若い方である。それでも鶏たちの二六%は心臓疾患で死に、その上さら
に一〇%はその間際にあった。
 解体の一二時間前から餌は与えられない。もう肉になる時間がないからだ。「捕獲者」のチームが鶏舎に入る。鶏舎が混み合っていて逃げ場がないうちがもっとも捕まえやすい。作業員らは鶏たちを輸送用の箱に入れ、トラックに積み上げて食肉処理場へと運ぶ。
 食肉処理場への輸送は致死的なトラウマになることがあり、暑い日には特にそうである。鶏たちは犬と同様、荒い息をして身体を冷やそうとする。それにつれて、箱の中の温度はどんどん上がり、ついに呼吸ができなくなる。さらに輸送中の振動や動きもストレスになる。すでに七週間のブロイラー鶏舎でのストレスを受けた鶏たちにとって、輸送の重圧は耐えがたい。輸送中に死んだ一三二四羽を調べた結果、四七%は心不全が死因だった。報告書は「おそらくあらゆる心不全の原因において、捕獲、積み込み、そして輸送のストレスに対する心理反応
は、心臓系にとって対処しきれないものだったのだろう」と述べている。