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第四回 ガンの危険を減らすの章

チャイナ・ヘルス・ プロジェクト

 1980年代、中国政府が米国立がん研究所の資金を得て主導したチャイナ・ヘルス・プロジェクト。
 これはほぼ間違いなく、これまでで最も重要な食事研究といえるものですが、これを指揮したコーネル大学のキャンベル教授は、統計の結果、動物性食品と脂質の食事が、がんや血管心臓病のリスクを増やすことに気づき、自分自身の食事も完全菜食にしていった事情がよく分かるように、この章で紹介されています。
 大規模な栄養調査であるチャイナ・ヘルス・プロジェクトに関しては、ニューヨークタイムズ紙も疫学調査のグランプリだとたたえています。また、ハーバード大学の栄養学の名誉教授マーク・ヘグステッド教授も、これまで試みられた食事と進行性の疾病の関係を探る研究の中で最も包括的な研究であると評価しています。
 著者のエリック・マーカスさん自身も「中国は食べ物が健康にどう影響するかを研究するには格好の場所だろう。この国の人々は地元でとれる作物に依存して生活しているため、食事内容と疾病は地域によって大きく異なる。だからさまざまな村での疾病率を比較すれば、最も健康的な食事療法がわかる」と評価しています。

脂肪と動物性食品が 疾病率を上げる
〜ぜいたく病〜

 このプロジェクトの統計分析を担当したのは世界的統計学者の1人リチャード・ピートウ氏でした。チャイナ・ヘルス・プロジェクトにおける、彼の統計分析での主な発見は、脂肪や動物性食品の消費が最も少ない人々はがん、心臓発作、その他いくつかの慢性的な退行性疾病の発生率が著しく低いことでした。
 キャンベル教授はこの統計結果を尊重する暮らしに切り替え、次第に、動物性食品を避けるように提言するようにもなりました。
 貧しい中国の田舎の人々はいわゆるぜいたく病にかかる率が劇的に低い傾向にありました。ぜいたく病とは、たとえば糖尿病、心臓病そして結腸、胸、肺などのがんなどです。
 がんやぜいたく病が共通して高率で発生するのは、得てして、より豊かで都会的な地域でした。
 こうした場所では収入とライフスタイル上の理由で、脂質、肉類、その他の動物性タンパク質をより多く消費していました。
 さらにがんや他の病気の高い発生率は、血中の総コレステロールや尿素窒素の値に直結していました。
 高いコレステロール値は脂肪、動物性タンパク質、そして肉を食べているからと考えられます。タンパク質が代謝された後に残る尿素窒素値が高いことは、過剰なタンパク質摂取を意味しています。肉類、卵、そして牛乳を多くとる人々は、タンパク質をとり過ぎる危険に瀕しているとキャンベル教授は警告しています。いわく「私たちが発見したのは、高い血中コレステロール値は、一貫してさまざまながんに関係していることです。白血病、肝臓、結腸、直腸、肺、そして脳のがんです」
 チャイナ・ヘルス・プロジェクトのデータは、コレステロール値と尿素値がともに上がると、がん、心臓病、そして糖尿病の発生率もそれにともなって上がることを如実に示していました。この調査はまた、食事中のわずかな量の動物性食品さえ、疾病率を大きく上げることを示していました。

植物性食品の多食と 疾病率の低下

 一方、より多くの植物性食品を含んだ食事をとっている人ほど疾病率は低かったのです。
 「ごく単純にいって動物性食品を植物性食品で置き換えるほど、より健康になれるはず」とキャンベル教授はいっています。
 「私は今や純菜食のヴィーガン食が理想の食事と考えています。ヴィーガン食、とくに低脂肪のそれは病気のリスクを大幅に減らすのです。さらにヴィーガン食には欠点が見当たりません。ヴィーガンはベジタリアンと非ベジタリアンのどちらと比べても、どんな観点からも同等もしくはそれ以上の健康を享受しているようです」
 米国では、食事は今や死に至るがんの主因(原因の35%)と目されています。
 乳がんは米国では非常に大きな脅威ですが、研究では食事によってリスクが減ることが示唆されています。米国では乳がんによる死亡率がメキシコの3倍、日本の4倍、そして中国の5倍に上ります。こうした率はそれぞれの国の食事に含まれる動物性食品の量に密接にかかわっています。
 1996年のある調査も、栄養が乳がんに果たす役割について調べています。64の食品カテゴリーを調べた上で、乳がんに関わる4つの食品カテゴリーが洗い出されました。肉、赤身肉、飽和脂肪、そして総脂肪です。中でも赤身肉の関連が最も深かったのです。
 1996年に行われた別の調査では、野菜をたくさん食べる女性ほど、やや乳がんになりにくいとの見解も出されました。

米国のがん調査

 2000年1月、米国立がん研究所は、より大規模で綿密に設計された米国での調査結果を発表し、そこでは実際に食事法によって前立腺がんのリスクを大幅に減らすことができることを明らかにしました。
 果物の摂取と前立腺がんのリスクの間にはつながりが見いだせなかったのですが、野菜の影響は大でした。
 野菜を日に少なくとも三盛り食べる人は、日に一盛りも食べない人に比べて、前立腺がんのリスクが48%も低かったのです。加えて、アブラナ科の野菜、たとえばブロッコリーやキャベツは、他の野菜よりもより大きな予防効果を発揮することが分かりました。
 植物に含まれる抗がん作用因子を特定するのは思いのほか難しかったのですが、反面、動物性食品に含まれるがんのリスクを増やす物質の特定は順調に進んでいます。1980年代と90年代を通じて、生化学者らは動物性食品は発がんを促したり、その進行を早める多くの化合物を含むことを発見しました。
 研究者が今とくに注目しているのはフリーラジカルで、これは料理した肉類によく見られる分子群です。1980年代初頭に見つかって以来、その働きが分かるにつれて科学界の関心はつのる一方です。

肉食と フリーラジカル
〜凶悪なHA〜

 フリーラジカルは生物学の辻強盗のようなもので、健康な細胞から酸素分子を盗もうとして体内を徘徊し、細胞膜を破って侵入する。フリーラジカルにやられた細胞のDNAは傷つくことがあります。こうした細胞が分裂すると、傷ついたDNAのためにがん細胞になることもあります。
 凶悪なフリーラジカル群の多くはHAと呼ばれるアミンです。HAは肉を料理したときに生まれます。ある研究グループはさまざまなファーストフード店から買った肉のHAを調査しました。その結果ハンバーガー店によって、突然変異を促す力は10倍以上も違っていることが分かったそうです。他のフリーラジカルと同じく、HAの生成は料理の温度と回数が増えるほど増加します。肉を常食する人々は発がん率が高いのです。
 「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に発表された成人6000人を対象とした調査では肉を食べる人はベジタリアンの2倍もがんで死ぬ確率が高いとされています。食事以外のライフスタイル要因を調整してもやはりベジタリアンががんで死ぬ率は肉を食べる人より40%も低いのです。

発ガンの スイッチ ON・OFF

 キャンベル教授のチャイナ・ヘルス・プロジェクトは肉類だけでなく、すべての動物性タンパク質にはがんを促す可能性があることを示しています。キャンベル教授は他の研究の成果も併せて考え、発がん現象は動物性タンパク質によって「スイッチ」が入り、植物性タンパク質によって「スイッチ」が切られると表現しました。
 「身体が1度必要なタンパク質(食事全体の8
%から10%)を確保すると、過剰なタンパク質は前がん性病変と腫瘍の栄養になり始めるようだ」
 平均的なアメリカ人の食事は必要量の2倍以上のタンパク質を含んでおり、その多くは肉、卵、乳製品によっています。
 マーカスさんはキャンベル教授に肉類、牛乳、そして卵の安全な摂取量とはどれくらいかを聞いてみた。
 「リスクは最初の一口から始まり、食べるごとに増えていくと思います。人によって反応は違いますが、最も安全な食事は完全なヴィーガン食です」

肉食過多でも ガンにならない 人がいるのは?

 マーカスさんはさらに聞いた。「それではなぜ長年肉類を食べていて、がんにならない人がいるのですか?」
 キャンベル教授いわく「同じ質問は喫煙についても成り立ちます。50年間さんざんたばこを吸いながら、がんにならない人もいます。リスク閾値の問題です。リスク閾値とは何らかの物質を実際に病気になるまでどれくらいとることができるかを表します。リスク閾値が低い人にとっては、わずかな量の動物性食品でもリスクは劇的に高まるはずです。一方、動物性食品の害に対して、大きな抵抗力を持つ人もいます。問題はもちろん、自分のリスク閾値をあらかじめ知るのが難しいことです。家系の病気歴を振り返ることによってある程度は分かります
が、それでも閾値は個人ごとに大きく違います」

長年の 間違った教育

 キャンベル教授は、こうした見解をなかなか出版できなかった。そんなにも大きな抵抗に遭う理由の一端は、栄養学者の多くが、肉と乳製品が重要な食品と考えられていた時代に教育を受けたためです。多くの重要なポストは、過去数十年間にわたって信じ続けられてきたことを疑おうとしない人々によって占められているのです。また栄養学の権威の多くがさまざまな家畜生産、酪農業界などの団体から補助金その他の資金援助を得ていることも、微妙な現実です。
 それでもこのようなキャンベル教授の栄養とがんとの関係についての発見は、1980年から95年の間になされたものです。現在、ようやく、こうした発見に基づいて米国でも政府レベルの勧告がされ始めました。

最も がんリスクが小さい ヴィーガン食

 キャンベル教授はいう。
 「今やヴィーガン食はがんのリスクを減らす上で最も効果的な方法であると結論する強い根拠があります。もし完全なヴィーガンになるのがためらわれるのなら、少なくとも食事の大半をヴィーガン食にすることが理にかなっています。こうすれば、食物の大半は、がんのリスクを減らしこそすれ増やすことはないのですから」と。