『もう肉も卵も牛乳もいらない!」』を読む

第三回 牛乳は本当に完全食か?

著者の思い 

 この本はアメリカ人・元牧場主、家畜肥育場経営者のエリック・マーカス氏が、その肉食ゆえになった脊髄腫瘍と半身不随で死の寸前まで行ったとき、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読み、自分の歩んできた道の間違いに気がついて、「食糧供給システムの危険な現状を広く知らしめることを残された人生の究極の目標」と定め、その一環として書き下ろした本です。日本国民必読の書として本誌愛読者の皆様におすすめです。
 原著の題は『VEGAN(純菜食主義者)』で、「この食事の摂り方が私たちの身体的ニーズ、深い思いやり、地球上で生き延びていく力ともっとも調和する生き方である。植物食品中心の食事法への移管は思うよりずっと簡単で、より優しく、健康で、幸福な生き方への扉を開いてくれる」というイントロダクションから始まります。
 前2回では、アメリカからの牛の輸入再開要求が突きつけられているという緊急の情勢を踏まえて、先に第5章の狂牛病の章のご紹介からさせていただきました。日本の非効率的ではあるにしても科学的な全頭検査も、「世界の非常識」という横車にぐらついて、はじめは生後20ヶ月まで検査不要で手を打とうとしていたのが、弱腰を見抜かれて生後30ヶ月までは検査不要として輸入再開を今秋には認める方向になったと報道されています。日本では全頭検査にしたために、20ヶ月台での狂牛病が2頭見つかっているにも関わらずです。アメリカからの牛
肉はたとえ自由に入ってきても信用できないと言わざるを得ない決着の仕方です。 さて今回は第4章の牛乳批判の章のご紹介です。

頭から牛乳は 良いものとの前提

 まず、アメリカの大学の栄養学講義での牛乳のすすめ方のスタンスの実情が紹介されます。
 「栄養学の学生たちは入学時から強烈な洗礼を浴びる。ある大学の栄養学の標準的な教科書は、はっきり「牛乳は、どんな年代層に対しても、最も栄養のある食品である」とうたっている。また「大半の専門家は牛乳こそ食事の中で最も大切な単一の食べ物であると、意見の一致をみている」ともされている。
 こうした教育を受けていれば、乳製品が他のあらゆる動物性食品同様、いくつかの退行性の疾病に関係しているのに、多くの栄養士がいまだに牛乳を老若男女を問わない必須食品としてすすめているのも不思議はない」 1980年代、どこの栄養学部でも乳製品が非常に重要と教えていました。教室でもそう聞かされ、学術雑誌の広告もそううたい、教科書さえもが牛乳を飲むのは良いことだと教えていたのです。

思い込みが 解けだして 牛乳批判に

 このような実情は日本でも同様です。むしろアメリカのコピーが日本の栄養学を学ぶ場で実施されていると言えるでしょう。そして今は著者の同志であり、ベジタリアンとヴィーガニズム栄養学の専門家になったハヴァラ女史が、そういう洗脳状態から目覚めて、牛乳に対する批判を強めるようになった経緯を以下の如く紹介しています。
 登録栄養士のハヴァラ女史は、乳製品業界がどれほど巧みに栄養士をターゲットにしているのかを、身をもって知っています。
 彼女は、肉製品業界の主張に対しては、級友の大半に欠けていた猜疑心を持って接していましたが、乳製品の重要性はそっくり鵜呑みにしていたそうです。
 「牛乳の持つイメージ全体にすっかり捕らわれていたのです。卒業したら酪農協会に就職をしたいとさえ思っていました。教授たちも、牛乳が健康的な食品であるという考えを裏付けるばかりでしたから、これこそ理想的な職場だと思っていたのです」
 ハヴァラ女史が乳製品に疑いの目を向け出したのは大学を卒業してからでした。乳製品について調べてみると、さまざまな点で人間の身体のニーズにそぐわないことが分かったのです。
 「牛乳は多くの成人にとって、他の食品に例がないほどの問題を日常的に起こしている。牛乳関連の消化に関する問題は、おおむね乳糖が原因である。乳糖は乳製品のみが含む糖の一種だ。牛乳にも含まれるため、消化吸収するには、身体はラクターゼを必要とする。これは乳糖を分解する酵素で、この分解作用によって吸収が可能になる。多くの人々の身体はすでに子供時代に牛乳を適切に吸収するのに十分な量のラクターゼを作らなくなっている。こうした人々が牛乳を飲むと、腸の下部でバクテリアが未消化の乳糖を発酵させて、ガスと差し込みを
もたらす。この症状は人によって程度の差が激しい。
 5000万人以上のアメリカ人、これは6人に1人以上のアメリカ人が、牛乳を飲むことによるこの問題を抱えている。世界的な推計値はさらに高く、人類の3分の2は子供時代を過ぎると牛乳が消化できなくなるとされている。
 こうした症状を持つ人々の多くは、まさか乳製品が原因だとは、つゆ疑っていない。ある人はこう書いている。
 「私は、これまでの人生でずっと悩みのタネだったガス腹、ガス性の差し込み、そして下痢の原因が乳製品かもしれないなどと、まったく知りませんでした。牛乳!牛乳と言えば、「だれにとっても役に立つ」がキャッチフレーズだったのに。牛乳は政府の助成金のおかげで私の高校では235ミリリットルがわずか3セントと、だれにでも買えるようになっていました。実に皮肉なことに、友人はおなかが張るなら牛乳を飲めばいいと、善意のアドバイスをしてくれました。毎日、できるだけ毎食、私は牛乳につぐ牛乳をとっていました」
 牛乳アレルギーと診断されることは少ないが、実はこれはあらゆる食品アレルギーの中で最も一般的である。牛乳は、アレルギー源になり得るたんぱく質を25種類以上も含んでいる。フランク・A・オスキは、ジョンズホプキンズ医科大学の小児科医だった当時、米国人の子供の約50%は牛乳アレルギーである証拠があるが、その大半はその診断を受けていない、と話している。アフリカ系アメリカ人やアジア系アメリカ人の子供は、さらに牛乳アレルギーに対して敏感であるようだ。しかし牛乳に対する信頼はとても厚いので、子供が慢性的にアレルギ
ー反応を起こす一方で、親はその原因が牛乳であることを疑いもしない。
 牛乳の評判が高いのは、高いカルシウム含有量のためだ。実際、カルシウムに富む牛乳を善玉、骨粗鬆症を悪玉とするシナリオは定着している。しかし話はそれほど単純ではない。そして牛乳をカルシウム損失の万能薬として持ち上げるのは、おそらく見当違いだ。
 栄養士たちは牛乳こそ最高のカルシウム源であるという乳製品業界のメッセージを繰り返し浴びせかけられている。登録栄養士向けのある広告は「女性患者に牛乳を常飲するようにすすめてください」とうたい、さらに「2000万人の女性が骨粗鬆症を患っていることを考えれば、健康的な食事における牛乳の役割についての意識を高めるのは大切なことです」としている。
 乳製品業界が示唆する通り米国では骨粗鬆症の比率が非常に高い。この国の臀部の骨損傷率は世界最高である。しかし、米国人は世界でも最大級に乳製品を消費する国民でもあるのだ。どうにもつじつまが合わないが科学はようやくその理由に気づき始めた。今や高たんぱく質の食事はカルシウム損失を引き起こすことを示唆する証拠が集まり始めている。確かに全乳にはカルシウムが含まれている。そしてビタミンDも入っており、これも体内カルシウム吸収を助ける。しかし植物界にどれほど多くの良質なカルシウム源があるかを考えれば、牛乳にこ
の栄養素を依存する必要はないように思われる。カルシウム源向きの植物には、ケール、マスタード、カブの若葉、ブロッコリー、パクチョイ、キングサリ、ヒヨコマメ、カルシウム添加豆腐、カルシウム強化豆乳、カルシウム強化オレンジジュース、そして糖蜜などがある。
 学位と栄養士の資格を取った後も、ハヴァラは栄養学を学び続けた。牛乳を完全食として推奨することに疑いを抱き始めたのは、乳製品や肉類を排除しても十分な栄養を摂ることは至極簡単であることに気づいたときだった。彼女は大学の教授たちが強調していた動物性食品について考えを改め始めた。なにしろ植物界には脂質が少なく、ずっと栄養豊かな食品がたくさんあるのだ。ハヴァラは徐々にアメリカ式の食事法は根本的に誤っており、たいていの大学の栄養学部は誤謬を永続化していると理解し始めた。しかしハヴァラは他の栄養士らからの大
きな抵抗を思い知らされた。
 「何年もの間、同僚の大半はベジタリアンの食事法は危険で風変わりだと考えていました。彼らはベジタリアン食を自ら経験せずに、平気で文句を言っていたのです。私たちが栄養士として受けてきた教育を考えればベジタリアンとコミュニケーションをとるということは、ほとんど外国語を話すようなものでした。栄養士はアメリカ人とアメリカ式の食事法に沿った標準を吹き込まれているのだと、私は気づきました。彼らはアメリカの教育システムで学び、そこでは人々は常に肉類を中心とした米国式の食事を摂るものと考えられているのです。それ
は「これが人の食事法であり、人はそれを決して変えはしない。だから違う食べ方をすすめるのは正しいことではない」という考え方です。
 私はかつてヴィーガニズムは非常に極端なベジタリアン式食事法の形だと思っていて、必ずしも真剣に受け止めていませんでした。今ではよく考えられたヴィーガン食はアメリカ人が実践するとどんなものよりも、健康的だと信じています」

ヒトのカルシウム 吸収は脂肪が妨害
牛乳では うまくいかない理由は

東大名誉教授
星猛先生が解明
 牛乳だと、何故カルシウムがうまく吸収されないかについては、『自然食ニュース』の289号の星猛先生のインタビューが、より正確に詳しく説明してくれています。著者のマーカスさんもハヴァラ女史も、まだこの学説には出会えていないようですが、事実の積み重ねから牛乳は骨粗鬆症の解決策にはならない、むしろトラブルのもとだというところに気がついたのはご立派と言えましょう。