安保徹理論に学ぶ 番外編

──「病気になるメカニズムと治し方」講演録──
(NPO法人 日本綜合医学会 東京大会)
付録「山口康三学会頭との一問一答」
安保徹先生講演録 「病気になるメカニズムと治し方」

 04年11月14日に開かれたNPO法人日本綜合医学会東京大会で安保徹先生の大講演が行われ、その講演録発行の運びとなりました。
 この大会の運営実行委員長を本誌の仙石主幹が務めたということもあり、本誌では6回に渡り安保先生の著作の紹介を続けてきましたが、今回は本誌の協力もあって実現したこの講演録の要旨紹介をさせて戴きます。
 この講演録そのものを購入したい、購入して普及したいという方は、NPO法人日本綜合医学会出版委員会または自然食ニュース社e-健康ショップまでお問い合わせを。
安保
 今から100年ぐらい前の人類はですね、どういうことに苦悩して医学研究が進んでいったかというと、感染症だったと思います。天然痘とかですね、結核とか、破傷風とか、赤痢とか、マラリアとか、いろんな種類の感染症があって、で、なんとかその感染症の発症原因、微生物に辿り着こうってですね、パスツール、あるいはコッホ、北里柴三郎、あと野口英世とか、一生懸命病気の原因を追及していた時代が100年前です。
 で、その時代ってのは、だんだんいろんな、特に流行する病気、人類がすごい大多数の患者が死に
至るっていうような感染症の謎はですね、原因は、微生物の感染によるものであると。で、その微生物の同定がどんどん解明されて、ワクチンの開発とか、その後50年ぐらい経ってから抗生物質が開発される。
 で、そうやって進んでいる間に、いろんな先進国を中心に人類はですね、豊かになって衛生状態も良い、あるいは、いろんな食べ物もひもじい思いをしなくてすむっていうような流れで、感染症はすごく少なくなって、で、ある意味では、命を落とすような感染症はすごく少なくなったわけです。
 で、今残った病気っていうのはどんな病気かっていうと、がんだったり、膠原病だったり、あるい
は胃潰瘍だったり潰瘍性大腸炎だったり、アレルギー疾患だったらアトピー性皮膚炎とか、気管支喘息とか、あるいは高血圧症とか糖尿病とかですね。感染症みたいに流行するとか、あるいは1回の流行で多数の人が命を落とすっていうような流れの病気ではない病気が残ったわけです。
 で、こういう残った病気に対して、今、医学とか医療はどうやって対処してるかっていうと、ほとんどですね、原因不明っていって、原因を追及する流れが成功してないわけです。
 ですから例えば高血圧症になっても、糖尿病になっても、たいてい対症療法です。アトピー性皮膚炎でも、気管支喘息でも対症療法をやって、で、その場をしのいでいるわけです。
 ですからお医者さんはですね、いつ治るっていうような、そういうことを患者さんにはいえないわけです。患者さんもある意味では、慣れてきてですね、あまり治る希望もないで病院にいってるっていうような流れだと思います。
 やっぱり病気っていうのは原因を追及しないとですね、本当に根本的に治すことはできないと思います。

 病気の成り立ち

安保
 で、1つの流れは遺伝子、あるいは分子の研究なんですけど、遺伝子、分子の研究は細胞の中の伝達経路とかですね、あるいは、その中に記憶されて残って、同じ個体をつくるための遺伝子とか、すごく面白い謎がどんどん解けてるんですけど、この分野の研究が盛んになったからっていって、本当に病気の謎が解けるかっていうのは、なかなか疑問が多いわけです。何でかというと、遺伝子の異常で起こるっていうような流れでですね、病気の謎が解けるとは思えないわけです。
 何でかというと、私達生命は30数億年ぐらいの歴史を経て進化してきて、で、やっぱり繁栄を続けてですね、なんか複雑になったから遺伝子が間違いを起こすとか、あるいは遺伝子からつくる分子が不完全だって流れで破綻を来たしてるようには思えないわけです。
 じゃあ、何で病気になっているかってのをわからないままだとですね、やっぱりさっきいったように、対症療法の流れに入るしかないですけど、私はやっぱり病気の本当の原因はあると思います。
 で、その原因はですね、私達が30数億年かけて進化で獲得した適応力を超えた生き方をするかどうかにかかっていると思います。
 すごい無理な生き方を続けて、私達が健康を維持するってのは不可能です。やっぱり病気になります。
 私達は大脳が発達して、いろんなことを考えることができますけど、いつもこの発達した頭で、悲観的なこと考えておびえてたら、やっぱり健康は維持できない。大体無理した人、悩んでる人は、顔色悪くて、いかにも病人のなり始めっていうような形です。
 ですから私は意外と病気の成り立ちってのは身近なところにあってですね、私達が適応力を超えた生き方を選んでしまったから病気になる。そう考えれば、かなりの病気の謎が解けてくると思います。

無理をしても 楽をし過ぎても 病気になる

安保 だけど、実は無理したり悩んだりしている人ばっかり病気になってるわけじゃなくて、のんびりして楽しても病気になっている人は意外とたくさんいるんですよね。
 で、そういうもう1つの病気の謎はどうやって理解したら良いのかというと、今度はですね、さっ
きいった30数億年かけて獲得した適応力を、今度は十分に使ってあげないってことで病気になってるんじゃないかってことなわけです。
 私達は筋肉が発達して、それに付随した立派な骨格持っていろんな肉体労働でも激しいスポーツでもできるんですけど、この適応力をですね、もし使ってあげない、特に重労働から解放されて楽ができる、交通機関が発達して、ほとんど自分の力で歩かないっていうような流れに入った時にですね、私達は筋力が低下します。
 筋力が低下すると、どういう破綻になるかというと、私達はですね、動くのが大変で疲れやすくなるわけです。疲れやすい。思い当たる人もいると思いますけど、疲れやすいのは、大変です。つまり自分の体重を運ぶだけのですね、筋力がなきゃ疲れやすい。
 で、頑張って、もし体を動かした時、何が起こるかというと、今度は筋肉が疲労起こしてですね、腰痛とか膝痛がでてくるわけです。無理して無理して激しい仕事をしても腰痛になるんですけど、楽して楽してふくよかさを移動するのが大変になった時も、やっぱり筋疲労起こして腰痛になるわけです。ですから、私達はですね、無理して無理しても病気になるけど、楽して楽しても病気になる。
 で、筋肉と骨は同じ血管支配で丈夫さが維持されてますから、筋力が低下してくるような生き方してると、骨も弱くなってきます。
このあと
● からだを守る白血球
──顆粒球・リンパ球の働き
● 白血球の自律神経支配
● アレルギー激増の理由
● つらい炎症は
治るためのステップ
● 薬で炎症を止めると
治癒の機会を失う
● すべての細胞は
マクロファージから
● ストレスと自律神経系
● 健康なからだとは
● 抗ストレスの実際
● 斎藤章先生の理論 
「生物学的二進法」
● 消炎鎮痛剤は
顆粒球を増やす
● 間違った治療から
早く脱却する
● 積極的に
病気に立ち向かう
● ストレスに負けない
からだと心の持ち方
 というテーマでお話が続き、最後に山口康三学会頭との一問一答が繰り広げられました。そのテーマは以下の通りです。
Q マクロファージの
先祖がえり
Q 白血球の数値が
下がったら
Q 子供のネフローゼ、
その他の病気について
Q 使ってはいけない薬は
Q 自己免疫力の
判断方法は
Q ストレスを
ためない方法
Q ステロイドを
離脱する方法
Q カテキンとカフェイン
Q 睡眠と免疫力の関係
Q 自律神経の
コントロール法
Q ヨーガ・呼吸法
Q これからの日本の
 医師・医学・医療の
あるべき姿について
 とても聞きごたえのある充実した大講演でしたが、このようにパンフレットになったものを読むと、とても親しみやすく安保先生のとなえる自律神経免疫療法を理解できるでしょう。是非手に入れられて座右の書としてご活用ください。
 例えば今、整形外科でですね、すごく骨粗鬆症とかっていうような病名がつけられて、で、問題にされてるんですけど、やっぱりあまり動かない、寝たきりになるっていうような生き方を続けてると、骨は弱くなって、骨粗鬆症になるわけです。何で骨粗鬆症になったかっていうと、そういう穏やかな生き方をやっぱり選んだからなわけです。穏やかな生き方には、ひ弱な骨がふさわしいから、なってると思います。(笑)
 ですから私達はですね、無理することも楽することも、その結果何が起こったとしても、やっぱりそれはなるべくしてなってるだけで、私達の体が間違いを起こしてるわけじゃなくてですね、体はそれに、生き方にふさわしい反応を示してるだけじゃないかと。
 むしろ病気になるのは、やたらに無理してる生き方を私達自身が選ぶか、楽な生き方を選んで、疲れてしまう、ひ弱になってしまう。楽な生き方の極限はですね、精神的にも影響が及んで、すごく気迫がない、無気力の世界に入ります。
 今、日本の子供達は兄弟が少ない。おいしいごちそうは食べられる。あんまり運動する機会がない。これはいい方をかえるとなかなかわかりにくいですけど、見逃しやすいですけど、実はリラックス過剰の生き方なわけです。
 お年寄りが腰痛になるのと同じようにですね、やっぱり子供達も筋肉がひ弱で、で、骨格が不十分で、で、疲れやすい。しゃがむと骨が弱くてですね、姿勢が崩れる。骨がどんどん弱くなると、顔の骨も連動して鍛えられてますから、たいてい噛み合わせが悪くなって、で、筋力が衰えると、口を閉じる力がなくてですね。猫背で首が前に出て、口を開くっていうようなそういう流れに入って、ほとんどクルクルパーかなっていうような感じの外見を呈してきますけど、やっぱり頭の内容もそれに近くなってると思います。(笑)
 こうやって見ると私達はですね、ほとんどの病気、多分98%とか99%のレベルで、やたらに無理して生きるか、あるいは人間の適応力にふさわしい、維持できるような生き方をしてないかで破綻してると思うわけです。

自律神経を理解する
─交感神経・ 副交感神経の働き─

安保
 で、こういう無理する、楽するをですね、もっと医学的に理解すると、自律神経の理解で、謎に辿り着くことができます。
 自律神経は、私達の調節系の中でも最も歴史が古くて、基本的な調節系なんですけど、興奮の体調をつくる交感神経と、リラックスの体調をつくる副交感神経で、頑張れたり休んだりしてるわけです。さっきいった無理する無理するって生き方はですね、頑張れる体調をつくる交感神経が、やたらに長時間緊張しっ放しの生き方っていいかえることができます。交感神経緊張の持続なわけです。
 交感神経は興奮の体調をつくりますから、脈は速く、呼吸は荒く、血圧は高く、血糖は高く。これはいろんな無理のきく体調なんですけど、こういう体調を1日中維持するっていうことは、もう病気の流れの世界で、高血圧症だったり糖尿病だったり、興奮して夜眠れない不眠症だったりするわけです。
 一方、リラックスの方の体調をつくる副交感神経は、休息、眠る、あともう1つ、私達がご飯を食べて消化して吸収して排泄する一連の消化器の機能をですね。全てリラックスの神経、副交感神経で動かしています。ですから私達は、物食べた時、満足そうにしてますし、イライラした人でもだんだん穏やかになる。かなり怒ってた人でも怒りはおさまってます。そのぐらいですね、消化器の働きが副交感神経。この理解はすごく大切です。
 今日のテーマ、さっき沼田先生がいったような食養の世界も、やっぱり圧倒的に大人の病気は無理して起こることが多いわけですから、交感神経緊張の持続、そこから脱却するっていうのは、良い食事をとってですね、体を休めて、で、ストレスに負けない体をつくるっていうような流れ。それを一番基本的に支えてくれるのは消化管を動かして、いわゆる食養でですね、その持続する交感神経緊張状態から脱却することだと思います。
 で、こうやって交感神経、副交感神経の働きがわかるとですね、体に悪いこととか良いことっていうような、漠然としたいい方をしないですむようになるわけです。
 さっきいったあんまり筋肉を使わないで、おいしいごちそう食べて、滅多なことで動かんっていうような生き方選んでる人達は、副交感神経の過剰優位な生き方って捉えれば良いわけです。
 副交感神経は呼吸も穏やか、脈も少ない、血圧は低い、血糖は上昇しない。これはもう休むための最高の内部環境なわけですけど、この内部環境が本来働くべき時も、そのまま低いレベルでいると気迫がない、無気力。子供だったら、学校にいく気力もない、不登校。あるいは頑張って学校にいってもすごいかったるくてですね、何か迫力がないわけです。するとやっぱり私達は自律神経の理解を持ってくるとですね、無理する病気の謎もわかるし、楽して破綻を来たす謎もわかるわけです。