安保徹先生の著作に学ぶ・ 『医療が病いをつくる 免疫からの警鐘』を読む

医師・医療従事者必読の良書「医療が病いをつくる」(免疫からの警鐘)

 昔から良書刊行で定評のある岩波書店からも安保徹先生の本が出版されました。従来の直接大衆に呼びかける本に比べ、より医療専門知識に富んだハイレベルな読者向けの本です。ご縁のある医師をはじめ医療従事者へのプレゼントに最適な本だなと思えます。経済的に恵まれ、その高収入のぬるま湯につかっているうちに、自分が患者の病気を治せないどころか、自分の誤診や間違った投薬、医療ミスで患者を死の淵に追いやるほどになっても我関せずを決め込んでいる医師も、その八割の方々の初心は病苦に悩む患者を救いたいという尊い心だったといわれます。その心を
封印してしまうのが医師に徹底的にたたき込まれる現代医学の医学観です。
 患者から直接断片的に言われても、プライドが邪魔をして医師の心に届かないことが考えられますが、この安保先生の本を読んでもらえば、その初心を思い起こしてもらえ、治せる医師になってもらうことが期待できます。
 国民の大多数が健康に暮らすには、食に関する意識改革抜きには道は開けませんが、同時に医療改革抜きでもうまくいくわけがありません。
 それにはまず医師の2割に初心に帰って、安保先生の説かれる医学観に気づいてもらいたいものです。それには我々のようにいち早く安保先生の説かれるところに目を覚まされた国民の側からの周囲の医師に対するこの本を媒介させる働きかけが有効であると思われますので、その志のある方は、まずご自分がこの本の通読に挑戦して戴きたいと思います。
 以下のページは書評ではなく、この本を買って読む気になって戴くための紹介手引きです。そして、11月14日の日本綜合医学会東京大会の講演会に出席され、安保先生のご講演に耳を傾けて戴きたいと思います。

本書
「はじめに」より

 今日、患者からの医療不信が言われている。長い時間待たされての三分間診療、医者の専門バカ、薬漬け医療、医療ミス、偏差値教育を受けてつくられる若い医者など、問題点が指摘されている。
 しかし、私が大学で会う医者の卵たちは少なくとも八〇%以上は将来の希望に胸をふくらませていて、心身両面から患者を救いたいという夢をいだいている。
 ではなぜ、現在活躍中の医師たちがこうした医療不信に巻き込まれてゆくのであろうか。初心を忘れ、現実の医療体制に負けてしまったせいであろうか。そうではないように思う。
 私は、これまで取り上げられてこなかった大きな問題点があると思う。それは治療の中にいくつかの根本的な間違いがあって、熱心に治療するほど病気を悪くしている現実があるからではないか。これでは、せっかく医者が良心的に活動しても結果は裏目に出てしまうことになる。
 人の心とからだとは白血球の自律神経支配を媒介として密接につながっていることを明らかにした新しい免疫学である「心とからだをつなぐ免疫学」の知見は、正しい治療とそのメカニズムを解き明かすことにより、患者だけでなく医師をも救うことになると期待している。
 本書の中では、白血球の大切さとその自律神経支配が述べられてゆくが、なぜこの二つにこのように固執するのであろうか。それは、白血球は多細胞生物である私たちに今でもあまり変わらず残された、単細胞生物時代の自分自身であるからである。進化に伴っていろいろな細胞や臓器が上乗せされても変わらなかったのは白血球である。
 また、自律神経系は生体のエネルギー系と連動している。つまり、自律神経系の変化は個体がエネルギーを消費する(交感神経優位)ことやエネルギーを蓄積する(副交感神経優位)ことそのものを反映している。そして、遺伝子や生体を構成する分子群はエネルギー系によってその働きが支えられているからである。
 本書の断片をつまみ食いするのではなく全体を読み通していただければ、単なる医療批判ではなく新しい医学観を知り身につけることができると期待している。

本書
「おわりに」より

 脈をじっくりとったり圧痛点を探して病気を知る診断法から、検査まかせの診断学に移ってしまった。また、専門化細分化した科の医者が、病気を局所の破綻として理解し薬を出して対症療法を行なう治療学になってしまった。
 しかし、本書で紹介したように、生体反応のほとんどは全身反応としての広がりを持つものであり、その局所的破綻も全身と関連している。二一世紀を迎えたいま、このような対症療法から抜けだし、原因療法を行なう医療に脱皮する時期に来たのではないか。
 この考えに賛同し、実際の治療にも応用している医師の福田稔、川田信昭、加藤信世の諸氏は次々に難病と診断された患者を軽快させている。慢性関節リウマチ、橋本氏病、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、尿毒症、腰痛、肩こり、妊娠中毒症、重症のつわり、癌と挙げると数限りない。
 私自身は、この本の考え方とともに刺絡療法もとり入れている。刺絡療法の師は浅見鉄男先生である。
 このような東洋医学的な治療は強力であるが、しかしそれ以前に消炎鎮痛剤やステロイドを始めとした間違った処方からの脱却が必要である。どのようなよい試みも、消炎鎮痛剤、ステロイド、抗癌剤などの起炎症作用、免疫抑制作用や寿命短縮作用の前には無力である。
 病気の治療には個体の持つ組織修復能を利用することが大切である。ありきたりの言い方をすれば自然治癒力の利用である。
 激しい腰痛の場合、骨の変形や椎間の突出(椎間板ヘルニア)などを伴っているが、正しい治療をすればこれらは二、三週間で治癒する。そのためには、破壊された組織に血流を豊富に送り込むことにつきる。血流は組織をその時点からちょうどよい形で組織修復を誘導し治癒に導いてくれる。
 血流を豊富にするためには軽い運動から始めて、可動する部分を動かすことである。痛みがとれたら今度はそのまわりの筋力をつける運動に移る。
 この逆が、腰痛時にコルセットをして可動性のある部分を長い間固定してしまったり痛み止め(NSAID)を投与し続けて血流を止めることである。
 これでは治る病気も治らず、患者も困るし医師もほとほと困っている。患者も医師も現代医学の被害者とも言える。だれも好きで病気を悪くしようとする人はいない。
 前記した考えに従えば、患者が医者から逃げ出すような今日の医療状態から患者と医師をともに救うことができる。また、治療以前に正しい生活をして、自分の身は自分で守るという考えが一番大切である。
 普通の学問も医学も時代の子である。現代は、いわゆる科学的な思考を進めようという時代を反映して、医師も医療も人間を臓器別に分けたり、分子論で人体を個別に理解しようとしている。一見、明確な理解が得られているような気がするが、病気はあまり治らない。
 人体構成の学問(遺伝学、分子生物学)に加えて人体を動かすエネルギー系を理解しようとする学問の両面からのアプローチが同じ比重で必要なのではないか。
 医学と言っても、いろいろな人がいろいろな考えで人間やその病態を把握しようとしている。本書で提示したような考えがいろいろな人の批判を受けて、つぶれるか、または成長してゆく必要がある。
「目次」より
第1章
心とからだをつなぐもの1
白血球の自律神経支配
白血球分画の読み方
白血球とは何か
口も腸もない生物
自律神経系と白血球系のサイクル
気圧から自律神経へ
顆粒球とリンパ球の協同作業
白血球パターンと性格
血液型と性格
性格や行動を決めているもの
心と運動と白血球
神経系、内分泌系、免疫系の連携
第2章
なぜ病気になるのか27
病気の最大の原因は?
癌の原因は働き過ぎと心の悩み
癌から逃れるには
癌の治療について
ストレスと皮膚の状態、容貌、
そして全身的な美しさ
脂肪肝になぜなる?
肩こりは病気のはじまり?
ストレスについて
いぼ、魚の目はなぜできる
不妊の原因
口呼吸と腎炎
糖尿病の病態
病気は過剰な副交感神経優位でも起こる
病気とは何か|永野氏からの手紙
第3章
治療医学にある問題点53
薬の開発と対症療法の進歩
腰痛、肩こりと痛み止め
胃潰瘍のメカニズム
胃潰瘍とヘリコバクター・ピロリ菌
アトピー性皮膚炎と
ステロイド外用剤の副作用
近年のアトピー性皮膚炎増加の理由
ステロイドホルモンは起炎剤にもなる
ステロイド依存からの離脱時の経過
気管支喘息
井穴刺絡との出会い
血中高コレステロール値の本当の原因
頭痛
薬漬け医療がなぜ起こるのか
アスピリン療法の危険性
パーキンソン病
潰瘍性大腸炎の難治化
クローン病
痔について
民間療法の花ざかり
第4章
生体反応の誤解が拡がるきっかけ99
なぜ斉藤章理論が
受け入れられなかったのか
消炎鎮痛剤が使われ過ぎる理由
ステロイドホルモンやサイトカインの
使用はなぜ危険を孕むのか
抗癌剤や免疫抑制剤の副作用の
知られざる側面
胃潰瘍の酸消化説は
なぜ息をふき返したか
医学知識の豊富さは
よい医療につながるか
なぜ臨床免疫学がさびれる一方なのか
医学の進歩と難病の変遷
「白血球の自律神経支配」の
発見について
第5章
外界刺激と生体反応119
気圧の年内変化と白血球
寒いと風邪をひく?
免疫系の年内リズム
気温、気圧の変化によって
なぜ免疫系はリズムをつくるのか
アルミニウム、カドミウム、
ストロンチウム、ゲルマニウム
蛍光物質は精神を安定させる
赤外線、紫外線、放射線
イオンと殺菌
フリーラジカル、活性酸素は
いつも悪者というわけではない
重金属中毒の本態
微量元素欠乏症
甘草について
他人のリンパ球移入で
末期癌が治ることがあるメカニズム
酒酔いの遅さ、早さ
西洋医学と東洋医学
顎関節症で知る
機能的疾患と器質的疾患の深い関係
第6章
生体反応と破綻147
自律神経が生まれた謎
生体の酸化・還元反応の原理
子宮は交感神経支配のみ
ステロイドホルモンの免疫生理学
プロスタグランジン
酢、すっぱい物、酸類に反応する生体反応
酸素と生体防御
迷走神経の切除
虚血後再灌流
多臓器不全のメカニズム
大手術と顆粒球増多
なぜタバコを吸うのか
癌患者の免疫能
第7章
病気をさらに知る171
扁桃と虫垂の類似
酸素ストレスと交感神経系は一体のもの
バッファロー・ハンプ
心身症の治療|絶食療法
白血球の日内リズムと二つのグループ
急性の腎炎、膵炎と顆粒球
心筋梗塞、脳卒中と顆粒球増多
傷負け体質
ケロイド体質
エイズの免疫状態
体内は弱アルカリ性、体外は酸性
赤血球、血小板の動き
スポーツの効用
健康と長寿について
膠原病、自己免疫病に対する
ステロイド治療の検証
自己免疫疾患は免疫抑制極限状態
膠原病や自己免疫病の病態の把握
患者の訴えから知る冷えの症状
ステロイド治療をしないと
膠原病や自己免疫病は
どのような経過をとるのか
ステロイドホルモンの生体作用
膠原病や自己免疫病の
新しい治療について
第8章
私の提唱する免疫学203
白血球数の正常値という無理解
白血球の寿命
リンパ球の分化と機能
T細胞
全身に分布するマクロファージ、
胸腺外分化T細胞の起源
NK細胞
肝臓の造血幹細胞
肝臓と生体防御
免疫臓器の進化
上陸による肝造血の消失
骨髄の生い立ち
新しいタイプのリンパ球とその過剰反応
古いタイプのリンパ球とその過剰反応
MHCそして妊娠の免疫学
顆粒球の独自性
老人の免疫力
時代と病気の悪性度