安保徹先生の著作に学ぶ・ 『こうすれば病気は治る

―心とからだの免疫学―』を読む

 国債過剰発行の日本は、30兆円にも及ぶ医療費を、"大幅に減らす"という荒っぽい方針を立てて実行していかないと、終戦後の日本、敗戦後賠償金取り立てに苦しんだドイツ、ソビエト崩壊後のロシアのハイパーインフレや預金封鎖の手しかない状況になりかねない。
 医療費の7割が生活習慣病での医療費だそうですから、これを根本的食生活改善と安保免疫学の普及で激減させるしか道はないように見えます。
 何としても一人でも多くの国民が安保免疫理論を学び、病気をしない毎日を送るようになってもらいたいという願いから、今秋11月14日の綜合医学会で安保先生の大講演が行われるのを機に、先月号に次いで安保先生の別著、『こうすれば病気は治る|心とからだの免疫学|』(新潮選書)をご紹介します。
 いわゆる書評ではなく、是非、本を購入して繰り返しご愛読願いたいという気持ちからの本の紹介ページです。

キャッチフレーズ

 世界的免疫学者が解明する、病気の本当の原因とその対処法! 人はなぜ病気になるのか。肩こり・腰痛・アトピー性皮膚炎から、高血圧・糖尿病などの生活習慣病、そしてガン・膠原病まで。世界的免疫学者がその発症のしくみをついに解明。根本的な治療法は何か? どうすれば防げるのか?
 私たちの体の自律神経支配と免疫システム、特に白血球の役割をやさしく解説し、病気に打ち克つ方法を伝授する画期的免疫学。

「はじめに」より

 私たちの健康状態を知るには、自律神経の働きを理解することである。私たちの体の調節は、基本になるほど、単純化している。
 その基本の基本が自律神経であり、それは交感神経と副交感神経から成っている。興奮の体調を準備してくれているのが交感神経で、リラックスの体調を準備してくれているのが副交感神経である。たった二つの系の揺れで、すべての体調がつくられているのである。
 基本的で単純な系の特徴は、すべてを網羅できることにつながる。
 交感神経は興奮の体調をつくっているので、いってみれば、この体調のときは元気が出る、やる気十分という感じである。しかし、それが行き過ぎてしまうと、いつも疲れている、血圧が高い、血糖値が高い、夜眠れない、不安だ、などの症状が出てくる。
 逆に、副交感神経はリラックスの体調をつくっているので、この体調のときは、ゆったりして、気持ちが落ちついた状態になる。食事もすすむ。しかし、これが行き過ぎると、少し動くだけで疲れる、やる気が起きない、神経が過敏になっていろいろなことが気になる、朝起きるのが大変、などの症状が出てくるのである。
 このようなことを理解していると、薬に頼らなくても自分を健康な状態に戻すことができる。具体的にいえば、交感神経緊張ぎみの人は、働き過ぎを止めたり、心の悩みから脱却することである。逆に、副交感神経が優位過ぎる人は、食べる量を少し減らす、運動する、きびきびした日常生活を送るなどに注意すればよいのだ。
 本書では、この自律神経の働きをわかりやすく解説し、さらに自律神経と白血球の連動のしくみも明らかにする。ここまで理解が進むと、日常の不快な体調はもちろんのこと、多くの難病からでさえすぐに脱却できるのである。

見所、読みどころのポイント紹介
人はなぜ病気になるのか

 医学は日々進歩しており、新薬の開発も盛んである。しかし、病院や医師への不信感は募るばかり、医療ミス、薬漬け医療などへの批判も増えている。
 私は免疫学の立場から、さまざまな病気の概念をもう一度捉えなおしてみた。「人はなぜ病気になるのか」。この究極の問題を考えるとき、白血球とその自律神経支配の関係から解き明かしてみると、すべての謎をすっきりと説明することができる。それは現代医療が陥っている間違いを明らかにするものでもある。
 分子生物学や遺伝学の研究が進み、病気は遺伝子異常によって発症するという考えが広まっている。しかし、多くの病気は私たちの生き方に無理が続き適応障害を起こした結果と思わざるを得ない。そして、その結果生じる不快な症状は、病気から治るための反応の意味合いが強いのである。
 健康で長生きしたいという願いは万人共通のものだ。では、病気にならないためにはどうすればいいのか。そして、もし病気になってしまったら、どんな治療をすればいいのか。現在受けている治療は適切なものなのか。本書では、そんなさまざまな疑問について具体的に解説していきたいと思う。

免疫システムの進化のもとは

 上陸する前の生物の免疫系はどこにあったかといえば、ほとんどすべて消化管のまわりであった。皮膚の下にもあったようである。えらは上部消化管である。ある意味では、粘膜免疫といわれるように、消化管をとりまいている粘膜が免疫の始まりなのである。考えてみれば、免疫力を高めるといわれているキノコや海藻類などの機能性食品は、消化管の免疫系を刺激するものばかりである。キノコ、麦、酵母の主成分であるβグルカンをマウスに飲ませると、あっという間に腸管のまわりのリンパ球が増える。

症状の理解

 さまざまな異物の侵入に対して、白血球は炎症を起こして治しているのである。ひどい鼻水や発熱など、どんな炎症も、当事者にとってはとても不快なものだが、炎症は治るためのプロセスであるという、その意味を理解することは非常に大切だ。
 不快だからといって、炎症をすべて止めようとし過ぎると、治る道筋が見えてこない。現代医学では、対症療法がとても盛んになって強力な薬もできているので、間違いが起こりやすい。せっかく治るステップなのに、その治癒反応である症状を全部止めてしまうのは危険なことなのである。
 そこのところを医者自身がきちんと理解しておかなくてはいけないのだが、患者の方も、症状がすごくつらいから全部止めてほしいと言い過ぎると、結果的に治癒反応を抑えることになって、やがて出口のない情況に突入してしまうのである。高熱が出れば、誰しもつらい。それをとにかく抑えてほしいと思うのは人情としてはわかるのだが、この点は、一般の方たちも認識しておかなければならない重要なポイントである。医学や医療の進歩は、医者ばかりが関わるものではなく、患者自身の意識レベルの向上とも関係している。

体と自律神経の関係

 私たちは仕事に追われて無理を重ねたり、あるいは深刻な悩みを抱えこんでしまうこともあると思う。そういうときには、交感神経が非常に緊張しているので、顆粒球の過剰反応が起こる。このことが病気と関連してくるのである。顆粒球は、その顆粒にいろいろな物質を処理する加水分解酵素を持っているだけでなく、活性酸素の供出も行なって細菌などから体を防御している。その活性酸素が過剰に出ると、組織破壊を起こしてしまうのである。
 組織破壊によって引き起こされる病気にはいろいろなものがある。例えば、胃潰瘍や潰瘍性大腸炎、痔などだが、ほとんどの場合、組織は偶然に壊されているのではなくて、この顆粒球が集まり過ぎたために起きているのである。このしくみの解明によって、病気についての考え方が全く変わった。
 これまでは、病院で、「あなたは胃潰瘍です」「潰瘍性大腸炎です」と病名を告げられたとしても、あまりにも漠然としており、どうしてそんな病気になってしまったのかを考えても、原因がわからないことが多かったのではないだろうか。しかし、ストレスを受ける↓交感神経の緊張↓顆粒球の増多↓活性酸素による組織破壊、というプロセスがはっきりすることによって、病気の成り立ちが明確に見えてきたのである。そこがはっきりすれば、治療の方針もすぐに立てることができる。最も重要なのは、最初の引き金になってしまうストレスを減らすことなのだ。