血管ボロボロ、動脈硬化やアルツハイマーも招く血中ホモシステイン

血中ホモシステインこそ動脈硬化の真の悪玉
――多くの生活習慣病の発症にも関連――

 動脈硬化をおこす危険因子として、ホモシステインという、肝臓などでつくられてしまうアミノ酸分子が最近、新たに注目を浴びるようになってきました。
 人体の構成に必要な蛋白質は、主として肝臓で、食べ物由来の種々のアミノ酸を材料として生合成されますが、ヒトの蛋白質を構成する重要アミノ酸であり、硫黄をもったメチオニンというアミノ酸の肝臓内での代謝中に、このホモシステインは生成されます。
 ホモシステインは葉酸やビタミンB12の働きで、体内で、再びメチオニンに戻ったり、ビタミンB6の働きでシステインという類似のアミノ酸に変換されたりして、処理されます。
 従来、動脈硬化の危険因子としては、高コレステロール・高血圧・高脂血症・喫煙・糖尿病・肥満などが指摘され、新聞・テレビなどをはじめとするマスコミでも繰り返し指摘され、大抵の人がこのことを常識レベルで知るようになってきました。
 しかし、最近になって、実は心筋梗塞の発作をおこした人の2割程度にしか、高コレステロール血症がみられないことがわかり、コレステロールは動脈硬化の真の犯人とは言えないのではないか、それ以外に怪しい犯人がいるのではないか?と真犯人捜しが行われてきました。
 そして、最近になって、その真犯人と目され、にわかに注目を浴びるようになってきたのが血中ホモシステインです。
 また、この血中ホモシステインのレベルが高いと、糖尿病、アルツハイマー、リウマチ、また早産など様々な病気に関連することもわかってきました。海外のある研究では、血中ホモシステイン値が高いと循環器疾患になる危険性は22倍。別の研究では死亡率が9倍も高くなるという報告があります。

ホモシステインとは?

 ヒトを含む動物の体の大部分を構成しているのは蛋白質だということは先刻ご承知のことと思いますが、自分の蛋白質は全て新陳代謝の流れの中で自前でつくっているわけです。その材料となるのが種々のアミノ酸で、この多くは食べ物の蛋白質が消化されることによって分解されてできたアミノ酸、またはそれがいくつかまとまったペプチドです。
 蛋白質を構成するアミノ酸であるメチオニンが生体内工場といわれる肝臓での代謝中に、硫黄をもったアミノ酸であるホモシステインが生成されるのです。
 その代謝の過程で、もしビタミンB6が不足してしまうような事態になりますと、ホモシステインからシステインへ分解する代謝の流れがうまくいかず、肝臓でホモシステインが余ってしまい、結果的に血中に流入するホモシステインが上昇してしまうわけです(図)。
 そして、血液を固める血小板を凝集したり、単球(白血球の一種)の吸着を進めたりして、動脈硬化を促進してしまうのです。
 これが過剰な血中ホモシステインが動脈硬化をもたらす機序(メカニズム)というわけです。
 ホモシステインの血中濃度が高いと、動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中のリスクが高くなることが、1990年代に入ってから続けて報告されており、関心を集めているわけです。
 肝臓にビタミンB6が不足するのは、こういうわけで危険と言わざるをえませんが、肝臓の中で、葉酸やビタミンB12が不足してもホモシステインからメチオニンがつくられる代謝の流れが低下して血中ホモシステイン値が上昇してしまいます(図)。
 血中ホモシステイン濃度の基準値は男性で8・2〜16・9μmol(マイクロモル)/・(リットル)、女性で6・4〜12・2μmol/・とされていますが、この基準内でも人によってはホモシステインが原因で動脈硬化をおこす心配はないとは必ずしも言えないということですから、油断はできません。何とかしてできるだけ低値に落ちつくようにしたいものです。
 女性では閉経後に高値となりやすいと言われますし、腎不全があるとホモシステインの排泄障害もおこるので血中のホモシステイン濃度は高くなりやすいとも言われています。

ホモシステインと動脈硬化
||予防の鍵はビタミンのB6・B12・葉酸||

 血中濃度が増加したホモシステインは、酸素や水と反応し活性酸素が発生します。これで酸化される過程がすすみ、その過程でさらにフリーラジカルが沢山生まれてしまい、そうなると、これが血管内皮を障害し、血管拡張物質の働きを抑えるので、血管の柔軟性を奪い血管を固くさせます。
 動脈瘤などがあれば事態はさらに深刻です。血中ホモシステイン濃度が高い場合、血小板が過剰に凝集し、血管内壁を埋めてしまう場合があります。こうなると血液はうまく流れることができませんので、固くなった血管は破裂する危険も生じてしまいます。心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まれば脳梗塞という、とても危険な状態を招いてしまいます。
 このようにして血栓症が引き起こされると血管壁の平滑筋細胞の増殖が引き起こされ、血管の肥厚・硬化がもたらされるのです。
 結局、肝臓でホモシステインがつくられる量がうまくコントロールできるかどうか、そしてそれが生まれたあとの血中での活性酸素対策がうまくいくかどうかが、ホモシステインによる被害が広がるかどうかの別れ道ということになるわけです。
 肝臓にビタミンB6と共に葉酸、ビタミンB12が十分にあることがホモシステインの産生量をコントロールすることに役立つのです。
 これらのビタミンを、毎回の食事で十分に摂りつづけることが、血中ホモシステイン値の低下につながり、心筋梗塞など虚血性心疾患の予防に有用であるとの報告がされるのは、こう考えてくると当然ということになります。
 ちなみに米国女性を対象にした調査(1998年のNurses Health Study報告)によりますと
・葉酸 158μg(マイクログラム)/日の摂取者に比べて、696μg/日の摂取者は虚血性心疾患のリスクは31%低下
・ビタミンB6 1・1mg摂取者に比べ、4・6mg摂取者では虚血性心疾患のリスクは33%低下
・葉酸・ビタミンB6同時同量摂取
虚血性心疾患のリスクは45%低下||という結果になりました。
 つまり葉酸、ビタミンB6の十分な摂取によって、動脈硬化を予防できる可能性が示されたわけです。

ホモシステインとアルツハイマー病
フラミンガムでの追跡調査研究

 一方、動脈硬化や脳卒中の既往症がある人では、アルツハイマー病のリスクが高いことも、最近報告されるようになっています。
 そこで、ホモシステインの血中濃度と、痴呆症やアルツハイマー病の発症に、関係があるかどうかを調べる研究もされるようになりました。
 この研究の対象は、米国マサチューセッツ州郊外のフラミンガムの地域住民を対象に、1948年から行われている追跡調査の一部です。この研究は、高コレステロール血症による心筋梗塞リスクの上昇をはじめて明らかにした、歴史的に有名なプロジェクトです。
 1986〜1990年にかけて、1092人の参加者(平均年齢76歳)に対して、ホモシステインの血中濃度を測定し、その後、2年に1回、平均8年間の追跡調査を行ったところ、111人が痴呆症になっているとの診断を受け、このうち83人が、アルツハイマー病だったのです。
 年齢が高い人ほど、ホモシステインの血中濃度も高い傾向があることもわかりました。
 そこで、同じ年代(5歳ごとのグループ)の中で、血中濃度が上位4分の1の人たちは2倍近くもリスクが上昇していました。血中ホモシステイン濃度の「高値群」が痴呆症になるリスクは、「比較群」より約2倍高かったのです。
 痴呆症のなかでもアルツハイマーに限って分析したところ、やはり「高値群」のリスクは約2倍高いという結果でした。
 こうした結果から、フラミンガム研究グループは、高ホモシステイン血症は痴呆症やアルツハイマー病の発生に対する、強力な危険因子であると結論しています。 フラミンガム研究グループによると、高ホモシステイン血症とアルツハイマー病を結びつけるメカニズムとして、高ホモシステイン血症による脳の微小血管障害、脳血管の内皮機能障害、酸化ストレスの増大など、全般的な「脳の老化」とのかかわりが考えられています。
 厚生労働省による第6次改定日本人の栄養所要量(平成12年度から16年度の間使用)によりますと、ビタミンB6の1日の栄養所要量は成人男性1・6mg、女性1・2mgとされ、許容上限摂取量は100mgです。葉酸は成人男性、女性とも200μgとされ、許容上限摂取量は1000μgです。
 また普通の食事からの摂取が不十分な場合、またはすでに虚血性心疾患などの動脈硬化性の疾患がある場合は、サプリメントによるこれらの補充も、当然のことながら有効です。
 フラミンガム研究では、ホモシステインの血中濃度は、B群ビタミン(葉酸やビタミンB12)を、サプリメントなどで多量に摂取することで、下がる場合があることも報告されています。
 サプリメント摂取という簡単な方法で、アルツハイマーを予防できる可能性もあるというわけです。
 実際にこれらのビタミンを多量に含む総合サプリメント摂取を含む根本的食生活改善でアルツハイマーと言われた方が、数週間であのボケはどこに行ったの?と言われるくらい良くなってきた実例はかなりあります。
 まだ、呆けていない内から、これらのビタミンを総合的かつバランスよく、また十分に含むマルチタイプの総合微量栄養素サプリメントをとりつづける習慣を身につけたいと改めて思う昨今です。