急増一途の糖尿病

1620万人!
予備軍は5年前の200万人増880万人
日本人の6人に1人、 予備軍含めて1620万人が糖尿病の疑い

||「平成14年糖尿病実態調査」結果||

 昨年11月に厚生労働省が実施した「平成14年糖尿病実態調査」の速報が、今年8月に出されました。
 速報によると、治療中を含めて糖尿病の疑いがある人は全国約1620万人、中でも糖尿病予備軍の「耐糖能異常」は、第一回目の5年前(「平成9年糖尿病実態調査」)に比べ200万人増の約880万人と、依然として糖尿病が増加し続けている実態が浮きぼりになりました(図1)。
 糖尿病では合併症が命取りになることはよく知られていますが、国立循環器病センターの原納優先生は「予備軍の段階ですでに動脈硬化を起こしやすい」といわれています(99年1月号(x301))。
 広義の予備軍(表1)を含めると実に2000万人以上と推定される糖尿病。増え続けている糖尿病に対しては、予備軍の段階で食生活をはじめとする生活改善を徹底することが重要です。
※平成14年国民栄養調査に応じた20歳以上の一般男女(1万67人)のうち、糖尿病実態調査質問票に解答した5792人を対象に血液検査の他、身体状況、栄養・食生活状況などを調査。

侮れない糖尿病予備軍 「高インスリン血症」の 怖さ 糖尿病予備群と

 耐糖能異常糖尿病(DM。diabetes mellitus)と正常の間の、いわゆる糖尿病予備軍は、
a血糖値が糖尿病により近い「耐糖能異常(IGT。impaired glucose tolerance)」
b空腹時血糖が少し高目の「空腹時耐糖能異常(IFG。impaired fasting glucose)」
c空腹時血糖は正常で、2時間値血糖が高目の「境界型(BL。border line)」に分類されています(表1)。
 「耐糖能」とは血糖の処理能力(血糖を一定以上に上げないようにする能力)のことで、一般概念としての「耐糖能異常」は血糖の処理能力が低い場合をいいますが、糖尿病予備軍の中の糖尿病により近い人(IGT)にもこの言葉が用いられています。

予備軍に多い

「高インスリン血症」は
高血圧や動脈硬化、肥満を招く 血液中には絶えずブドウ糖(グルコース)が供給されて、身体各部の細胞にエネルギー源として利用されています。
 食後は食物が消化され、ブドウ糖が腸から吸収されて一時的に血糖が上がります。この時、糖の処理能力(耐糖能)が正常なら、一時的に上がった血糖は食後2時間もたつと元に戻ります。
 ところが糖尿病では、筋肉細胞や脂肪細胞に吸収されることで血糖を下げるホルモンの「インスリン」の分泌不足や作用不足で、血中のブドウ糖を細胞内に送り込んで細胞内のミトコンドリアでエネルギー化することができず、血糖が絶えず高い「高血糖」になります。
 高血糖になると、体の中で重要ないろいろな蛋白質(血中のヘモグロビンはもとより、代謝を司るさまざまな酵素や、コレステロールを含むリポ蛋白など)に糖がからみついて蛋白質を変性させ、これがいろいろの合併症を招くわけです。
 一方、境界型や糖尿病の初期ではインスリンの効き(インスリンの感受性)が悪くなり、同じ量のインスリンが出ていても血糖値があまり下がりません。この状態を「インスリン抵抗性」がある、または「インスリン抵抗性」が高いといいます。インスリン抵抗性があると、体は高血糖にならないようにインスリンを長時間にわたってダラダラと分泌し、血糖値を一定の濃度に保とうとします。このため、血中のインスリン濃度が徐々に上がり、この状態を「高インスリン血症」といいます(図2)。
 高インスリン血症になると、過剰なインスリンが腎臓に悪さするとナトリウムの再吸収を高めて高血圧に、また大血管の動脈硬化が起きやすくなり、中でも心臓の冠状動脈硬化が原因で起きる虚血性心疾患になりやすくなります(図2)。原納先生はこのメカニズムについて「インスリンは、余分な血糖を貯蔵用の脂肪に変えて血糖を下げる働きをする他に、蛋白質や脂質の代謝や血圧にも作用しているので、過剰に分泌されたインスリンが動脈硬化を促進するように働いていると考えられる」といわれています。
 また、血中のインスリン濃度が高いと、食欲中枢(摂食中枢)が刺激されてよく食べるようになり、食欲が抑えられなくなって、ますます肥満になるという悪循環も起きてしまいます。肥満になると、インスリン感受性ホルモンであるアディポネクチンの分泌が低下し、インスリンの効きが悪くなります。
 動脈硬化や肥満は共に糖尿病の危険因子でもあり、予備軍の段階でこうした症状があらわれると、悪循環的に糖尿病の進行や合併症の危険性を高めてしまうので、予備軍の人は本格的な糖尿病を防ぐ意味合いからだけではなく、動脈硬化や肥満を防ぐためにも食事や運動などの生活改善が非常に重要なのです。

がん死の危険率は 正常の人の2倍!
||結腸がん死では4倍||

 一方、アメリカのジョンズホプキンス大学の最近の調査では、耐糖能異常(IGT)の人のがん死危険率は正常な人に比べて2倍近くにもなることがわかりました。
 がんの種類としては肺がん、結腸がん、膵臓がん、乳がん、前立腺がんが多く、特に結腸がん死の危険率は4倍以上(4・24倍)もの高率であると報告されています。
 正確な原因はまだよくわかっていませんが、インスリンというのは生物学的には成長因子であるので、インスリンが高いレベルになると、がん細胞の分化が促されるという見方がされています。
予備軍のうちから
根本的食生活改善と運動 原因は食生活と運動不足 国際糖尿病連盟の発表によると、加盟130ヶ国の糖尿病患者数は1億5090万人(平成12年資料より)と、糖尿病の増加は今や世界中で問題となっています。これには食生活の変化や、車社会となり人が以前より歩かなくなったこと(運動不足)やストレス、過食、肥満など、さまざまな原因があげられています。
 特に問題となるのが食生活です。人間はよく雑食性といわれますが、爪や歯の形態が獲物をとって食べるのに適していないことや、ゴリラやボノボなどの類人猿がほぼ植物食であることなどから、本来は植物食性の動物だということがわかっています。
 この草食動物型の遺伝子に逆らって、卵や牛乳・肉などの動物性高蛋白食品を食べても、草食動物型遺伝子がつくる消化液ではうまく消化できません。うまく消化されれば栄養になる動物性食品が、人間の草食動物型腸の中で腐敗すれば毒になります。
 遺伝子に合わない食生活が、糖尿病などの生活習慣病を呼んでいるのです。糖尿病は境界型の段階で心筋梗塞やがんになりやすいことを肝に銘じて、徹底的に食生活を改善する必要があります。
 高脂肪食が元凶
||脂肪と砂糖の危ない関係|| 糖尿病および糖尿病予備軍の食生活で最もポイントになるのは脂肪の摂取量です。欧米と日本の食事の一番の差は脂肪量だといわれています。日本の食事は伝統的に1日の脂肪摂取量が50g以下で、欧米型では同じカロリーで80gにもなります。
 インスリンは膵臓のランゲルハンス島(膵島)のベータ細胞から分泌されますが、ベータ細胞のエネルギー源は実は脂肪なのです。 今まではベータ細胞に糖(ブドウ糖)が入ってくるとインスリンが出ると思われていましたが、最近では、膵臓のベータ細胞に脂肪が行き渡って、そこに糖が入ってくるとインスリンが増えるといわれています。つまり、脂肪と糖分が両方あると、インスリンはダラダラと過剰に分泌されるのです。
 特に日本人は体質的(遺伝的)にベータ細胞が弱く、高脂肪食を続けていると、初めのうちはインスリンが出ていてもある時から極端に出なくなって、本格的な糖尿病になりやすくなります。
 また、脂肪は同じエネルギー源の糖質と比べるとカロリーが高い上に、食欲中枢への作用が弱く、糖質は満腹中枢を刺激して摂食(食欲)中枢を抑えるように働きますが、脂肪を食べても満腹中枢はなかなか満足せず、オーバーカロリーになりやすくなります。
 ケーキやアイスクリームなど砂糖と脂肪の固まりの洋菓子などは厳禁です。甘味がどうしても欲しいときは無脂肪の和菓子をほんの少量。特に黒砂糖を使ったものがすすめられます。

和食がベースの 根本的食生活改善に〈二〜三分搗米に麦を入れた麦飯〉

 ご飯は粉食のパンなどに比べて消化が遅く、血糖値はゆるやかに上昇します。
 特に二〜三分搗米に麦を入れた麦飯は食物繊維の量が十分量とれるので、血糖の急上昇を抑えてくれます。砂糖などの単糖類と違い、穀類(特に未精白穀類)や芋類、豆類などの複合糖質は食物繊維も多く、糖尿病予防に役立ってくれます(図3)。
 この麦飯ご飯を主食とした食生活なら、インスリンは少量で十分です。もともと日本人は体重で換算しても膵臓が小さく、インスリン分泌量も少ないのです。
 なお、麦入り分搗米ご飯でも血糖値が危険なほど上がってしまう人は、発芽玄米を生で、よく噛んで食べるという奥の手もあります。
〈脂肪のとり方〉
 動物性の高脂肪食は極力控え、エゴマや紫蘇油、魚油に多いαリノレン酸系の油を適量摂取。
〈動物性の高蛋白食を避ける〉
 高蛋白食を避け、牛乳、卵、肉などの動物性蛋白質は極力控えます。
 牛乳は、自己免疫疾患の1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)の原因になることがあります。
 お米の蛋白質と大豆の蛋白質は一緒にとればアミノ酸スコアが100点満点になります。麦飯・納豆の根本的食生活改善はこの面からもすすめられます。
〈重要な微量栄養素の十分な摂取〉
 活性酸素は万病の元といわれていますが、糖尿病や合併症にも活性酸素が関係しています。活性酸素を消去する抗酸化ビタミンのビタミンC、Eや、抗酸化ミネラルのセレニウムや亜鉛、また野菜類に含まれる植物性生理活性物質(ファイトケミカル)などの摂取が重要です。
 膵臓でアミノ酸からインスリンを合成するときには亜鉛が不可欠です。
 ビタミンBをはじめ三価クロム、亜鉛、マンガンは、糖を細胞に取り込む際にインスリンを助ける働きをするGTF(グルコース・トレランス・ファクター)をつくるのに欠かせません。
 インスリン様作用のあるセレニウムとバナジウムも、細胞全体に働いて、グルコースを取り込む細胞の酵素系を活性化してくれます。
 また、糖尿病では食事制限だけではなく、尿中に亜鉛やマグネシウムが正常の人の2倍以上も捨てられ、これが虚血性心疾患や、網膜症、感染症などの合併症の引き金になります。
 ビタミン・ミネラルの微量栄養素は、総合サプリメントで補って不足させないようにしましょう。
 体をよく動かす 最後に、筋肉細胞のインスリンの効きを良くするためにも、体は活発に動かすことが大切です。
 特に食事30分後の、10〜20分程度の運動は、ブドウ糖が筋肉細胞に入るときに働く糖輸送体のグルコーストランスポーター4の数を増やします。このことは、よりたくさんのブドウ糖を細胞内に取り込むのに役立つので、インスリンの感受性が良くなり、体が正常な代謝を維持できるようになります。