急増する食中毒

対策編
――根本的食生活改善で腸を元気に――

O157の教訓
||"超清潔志向"と "食の欧米化"が 抵抗力を弱めた||
外遊びと、納豆を多食する子は 感染または発症しなかった〈中村明子・共立薬科大学 客員教授の調査〉

 1996年に起きた病原性大腸菌事件は堺市を始め、全国7校の学校給食で集団被害を出しました。
 堺市の場合、約5万人の児童が同じ汚染給食を食べ、このうちO157に感染したのは1%の550人、さらに入院するほど重症になったのは50名でした。
 同じ汚染給食を食べても、a全く感染しない、b感染しても症状が出ない(健康保菌者)、c発症しても軽い下痢ですむ、d溶血性尿毒症などの合併症で重度の症状や死に至る||とさまざまです。
 この差はどこからくるのか。事件以来、学校給食の現場を歩かれた共立薬科大学の中村明子客員教授は、以下の非常に興味深い調査結果を得ています。
・重症患者の子供は神経質で、超清潔志向の環境で育てられた。
・下校時に1時間以上、屋外で遊んでいる子は感染または発症しにくい。
・1週間に3回以上納豆を食べている子は感染または発症しにくい。
 この調査結果について中村客員教授は「外遊びする子は日頃から雑菌にさらされ抵抗力をつけている。また、納豆は体内で腸内細菌叢を活発化して外から入った菌を排除あるいは毒素を産生させないようにしている。納豆菌の殺菌力も感染予防に役立っている」と話されています。
〈発症率が著しく低かった保育園 ||外遊びに、玄米和食給食〉
 1998年8月にO157の集団感染が発生した福岡市の保育園では、感染者26人のうち発症したのはただ1人で、それも下痢の軽い症状でした。
 この保育園での発症率がきわめて低かったことに注目した保健所の調べでこの園では、
a園児を冬でも裸で砂場で泥んこ遊びをさせ、
b給食は「玄米ご飯の和食」中心にしていたことがわかりました。
 給食メニューは他園と比べ、
・野菜類の摂取品目が倍
・海草、魚介類、ごまなどの種実類が多い
・納豆、ぬか(ぬかみそ)漬け、梅干しなど伝統的発酵食品を毎日摂取
・大豆、海草を使った料理が多い
・卵料理がない||という特徴があり、実際の献立例を見ても、
「玄米雑穀ご飯」玄米、もち玄米、もちきび、押し麦の雑穀ご飯
「ひじき納豆」2週間で13回。昼・夕交互に毎日
「野菜料理」和え物、煮物、酢の物が毎食2品以上
「メイン料理」2週間で魚料理16回、肉4回、鶏2回
「漬け物」漬け物(ぬか漬け)または梅干し毎回給食
「大豆・海草料理」冷奴、大豆の甘煮、納豆の和え物、高野豆腐の冷やしあんかけ、厚揚げの昆布巻き、豆腐のごまだれ、大豆のトマト煮、海の幸サラダ、わかめスープ、わかめの酢味噌||と際立って伝統的和食メニューを多用しています。
 この保育園のメニューに九州大学大学院農学研究員の宮本敬久先生は、「納豆や漬け物、ヨーグルト(おやつに出る)などの発酵食品の摂取が、園児の大腸内の常在細菌を活発化し、その結果O157の発症が抑えられたことが考えられる」とコメントしています。
 なお、腸内細菌研究の大家である光岡先生は「成人の腸内細菌の種類は、だいたい4才から6才ぐらいまでに決まってしまう。乳児期はなるべく母乳で育てる」ことが大事だと話されています。

根本的食生活改善で 腸を健康に 腸内細菌叢の乱れなど

 腸の健康の悪化が原因 腸内細菌は食中毒菌に対して、バリアになり、たくさんの腸内細菌がびっしりと腸内に占めていると、外から食中毒菌が入ってきても増殖を許さないで追い出してしまいます。
 腸内細菌叢のバランスを崩し、腸の健康が悪化する主な要因には次のことが指摘されています。
a食生活の欧米化||悪玉の腸内細菌が増えやすい。
b超清潔志向||腸内細菌叢の種類や数が少なくなる。
c抗生物質の乱用||悪玉・善玉含めて腸内細菌の減少や、菌交代現象(長期の使用で善玉悪玉両者の菌が消失した後、抗生物質耐性の悪玉菌が増える現象)を起こす。
 例えば、抗生物質や抗菌剤の乱用で腸内細菌の種類と数が減少したお腹(大腸)にO157などが入ってくると、空っぽのお腹にO157などが棲みつきやすくなります。
d過労やストレス||全身的な免疫力が落ち、腸管免疫も低下し、また大腸の蠕動運動が低下して便秘をもたらす結果、腸の健康が著しく低下する。
e冷たい物の過食||胃腸の働きや腸内免疫の低下を起こす。

腸内細菌叢のバランスを崩す 食生活の欧米化〈高脂肪・高蛋白食〉

 腸内細菌は、善玉菌と悪玉菌に分けられ、そのバランスによって免疫力と抵抗力の強さが決まります。そのバランスを崩すのが、食生活の欧米化です。
 高脂肪・高蛋白の肉や牛乳、卵は腸の環境をアルカリ性にし、善玉菌の活動を鈍らせ、悪玉菌を増加させます。
〈消化のよすぎる食べ物〉
 さらに、白砂糖など消化されやすいものだけ食べていると、腸内細菌の棲処である大腸まで届かないないうちに消化・吸収されてしまうため、善玉菌の餌にならないと国立感染症研究所の森下芳行先生は指摘されています。
 野菜や果物、魚などは、無農薬や汚染の少ないものを選び、なるべく皮ごと食べることです。
〈冷やした飲食物〉
 冷やした食べ物、飲み物は、腸管粘膜免疫を損ないます。
 水などもよく噛んでとるようにしましょう。
「根本的食生活改善」で
 腸内細菌叢を整える 腸内細菌叢を整え、善玉菌を優勢にするには、二分搗き玄米ご飯に納豆・具沢山の味噌汁・漬け物の「根本的食生活改善」が一番です。
〈食物繊維〉
 食物繊維は善玉菌の餌となり、また腸内の浄化作用があります。麦を入れた二分搗き玄米ご飯、発芽玄米ご飯、雑穀ご飯や、根菜類や海草などを摂取するよう心がけましょう。
〈オリゴ糖〉
 善玉菌の代表であるビフィズス菌が最も好む糖類です。豆腐や納豆などの大豆加工品をはじめ豆類に多く含まれ、またゴボウや玉ねぎ、アスパラガス等の野菜にも比較的多く含まれています。
〈漬け物や納豆などの発酵食品〉
 ぬかみそ漬けや納豆、味噌などの発酵食品を毎食必ずとり入れて、乳酸菌やビフィズス菌などを直接、摂取しましょう。
〈納豆の強力な予防作用〉
 納豆をたくさんとる人は、とらない人に比べ、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が約10倍も増えているという報告もあります。
 納豆菌が生成するジコピリン酸などの抗菌物質は時間がたっても効果を持続し、その効果は腸内でも持続します。O157は経口伝染病の腸チフスに匹敵するほど非常に強い感染力を持っていますが、納豆菌はO157に対して強い阻害作用を示します(図)。
 このように、納豆菌には腸内で善玉細菌を増やす一方で、ブドウ球菌、赤痢菌、チフス菌などの病原菌に強い抗菌作用を発揮して、食中毒の予防に役立ってくれます。
〈梅干し・酢の物〉
 酢の殺菌作用もよく知られています(表1)。生魚など食品の酢洗い、酢の物料理の他、手やまな板なども酢洗いするなど、酢の殺菌効果を上手に利用しましょう。
 毎食必ず1品、酢の物、また梅干しや梅肉和えなど梅干しを使った料理を加えましょう。唾液や胃酸など消化液の分泌も高めることでも、食中毒の予防に効果があります。
〈お茶のカテキン〉
 お茶のカテキンも強い抗菌作用があり(表2)、研究者の島村忠勝先生は「1〜2杯で殺菌効果は十分期待できるので普通に飲めばよい。但し、カテキンは牛乳蛋白のカゼインと結合すると効果がなくなるので、ミルクティーではとらないように」とアドバイスされています。
 なお、湯茶のがぶ飲みは胃酸が薄まります。お茶は食後1杯程度に止めましょう。

〈植物性のインターフェロン・ インデューサー〉

 植物由来のインターフェロン・インデューサーが腸を元気にしてくれることは今月の巻頭インタビューをお読み下さい。
 この他、
 生活面での予防 戸外の作業・運動・遊び 自然界にいる菌は大部分が病原性のない菌で、人間はそれらと共存・共生しながら免疫力をつけています。
 外遊びが減り、子供が菌と接する機会が少なくなったことも食中毒が増えている要因の一つです。戸外での運動、遊びを日常生活の中にとりいれることが大切です。ガーデニング、庭木の手入れ、外を掃くなども土壌由来の菌とふれ合うよい機会となります。
 よく噛む 唾液そのものに殺菌力があり、よく噛むことも食物の解毒につながります。よく噛むと胃酸(塩酸で強い殺菌力がある)などの分泌も高まります。
 予防の三原則 最後に食中毒の直接の予防としては「細菌をつけない・増やさない・殺す」の予防三原則があります(表3)。