突然死a

――働き盛りを襲う突然死――
働き盛りの8人に1人が突然死

 昨年11月、高円宮さまが47歳の若さでスカッシュの練習中に急逝したのに続き、その2日後には二つのマラソン大会で50代の3人が死亡、今年1月には44歳の雑誌編集長が記者会見中にくも膜下出血で死亡するなど、働き盛りを襲う突然死が改めてクローズアップされています。
 突然死とは、「発症から24時間以内の内因性の死」のことで、30〜60代の壮年期死亡の約8人に1人が該当するといわれます。
 死因は、心筋梗塞などの心血管疾患が約6割、くも膜下出血や脳出血などの脳血管疾患が約2割を占め、循環器疾患だけで8割近くにも達することが、東京都監察医務院の調査で明らかになっています(図1)。

突然死をもたらす要因〈心臓病〉

 心臓が原因の突然死の中では急性心筋梗塞が最も多く、この他、狭心症や不整脈、心筋症などがあげられます。
 心臓が停止する直接の原因は、心室細動という不整脈が大部分です。
 心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が、動脈硬化や血栓によって血流が妨げられると、心臓の筋肉が酸素不足になり、息苦しさや胸の痛みなどがおこります。これが、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患です。
 血流が途絶えて心筋の一部が働かなくなると、心臓を拍動させるための電気信号がうまく伝わらなくなり、致死的な不整脈である心室細動に陥ります。
 心室細動では、血液を全身に送り出す心室が不規則に細かく震え、心臓は一瞬にしてポンプ機能を失ってしまいます。心臓停止から数分以内に除細動(心臓に電気ショックを与えて不整脈を正常に戻す)を行わないと死に至ります。
〈脳卒中〉
 脳卒中には、a脳の細い血管が破れて出血する脳出血、b脳を包む軟膜とくも膜の間で脳動脈瘤が破裂するくも膜下出血、c脳の血管に血栓がつまり、血流が途絶えて脳細胞が壊死する脳梗塞――の3つがあります。
 働き盛りの世代の突然死につながりやすいのがくも膜下出血で、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は30〜40代にかけてあらわれ、50代以降に発作をおこす危険が高くなります。
 脳出血やくも膜下出血の発作が命にかかわることが多いのに対し、脳梗塞ではすぐに命を落とすことは少ないとされています。しかし、一命をとりとめても後遺症や痴呆症を引き起こすなど、QOL(生命・生活の質)を著しく低下させる恐れがあります。
〈肺塞栓症〉
 足の静脈などにできた血栓が肺の血管に詰まる肺塞栓症も突然死の一因になります。
 長時間足を動かさないでいると血流が悪くなって血栓ができやすく、飛行機での長旅が原因のロングフライト症候群(エコノミークラス症候群)や、手術後、長期間寝たきりでいることなどが引き金となります。術後の合併症としておこる肺塞栓症は、発症すると約10%が1時間以内に突然死するといわれています。
 肺塞栓症による死亡者は年々増加傾向にあり(図2)、背景には、食生活の欧米化などで血栓リスクの高い人が増えていることが指摘されています。
"死の四重奏"に、
ストレス過多〈基礎疾患〉
 京都大学病院第三内科の野原隆司医長は、「突然死は、基礎疾患があるところに引き金がひかれて起きる」と説明しています。
 基礎疾患としては、a高血圧、b高脂血症、c糖尿病、d肥満があげられます。これらは動脈硬化や血栓などの原因になり、それぞれは軽度であっても、2つ、3つと重なると、心筋梗塞や脳卒中をおこす危険が高まることから、"死の四重奏"と呼ばれています。
〈直接の引き金は交感神経の緊張〉
 直接の引き金となるのは、自律神経の交感神経の緊張です。交感神経は、血圧や心拍数を上げて体の活動力を高める神経で、緊張状態が続くと、血流を阻害して血栓の形成を促したり、活性酸素を過剰に作り出して血管壁を障害したりします。
 睡眠時は自律神経の副交感神経が優位になるので血圧は下がっていますが、起床後は日中の活動に備えて交感神経が活発に働き、血圧が上昇します。それに伴って、早朝には心臓突然死や脳卒中がおこりやすくなります(図3)。
 交感神経は、過労や睡眠不足、精神的ストレス、急激な温度差、過度の興奮などでも緊張状態になり、高血圧や高脂血症、糖尿病、肥満などの基礎疾患を抱えている上に、過労やストレスの多い中高年男性は突然死予備軍といえます。
〈精神的ストレス〉
 「過労死110番」に寄せられる相談でも、くも膜下出血や心筋梗塞など、働き盛りの突然死に関する事例が6割に達するといわれ、ストレスやプレッシャーのかかる管理職世代は要注意です(図4)。
 特に、真面目で几帳面、負けず嫌い、猛烈に働くといった「A型性格」の人は、自律神経の交感神経系の支配が強く、温和でマイペースな「B型性格」の人に比べて突然死しやすいと指摘されています(血液型とは関係ありません)。
突然死は、こんな状況で
おこりやすい 突然死が最も多いのは就寝中ですが、単位時間当たりの危険率をみると、入浴や排便、スポーツ時の方が危険率が高くなります(表1)。
 入浴中の突然死は冬に集中しており、寒い脱衣所や浴室と熱い湯船との温度差が血圧の急上昇を招きます。特に、42℃以上の「高温浴」では、自律神経の交感神経が緊張し、血圧・心拍数共に上昇します(図5)。
 また、「全身浴」は、水圧によって末梢の血液が心臓に集まり、こうした心臓や血管への負担が突然死の引き金になるので、みぞ落ちから下だけつかる「半身浴」を心がけます。
 さらに、汗をかくと血液が濃縮されて粘りやすくなる上、高温浴では血液を固める血小板の働きが活性化され、血栓を溶かす線溶能の働きが弱くなります。こうしてできた血栓がもとで、翌朝、脳梗塞や心筋梗塞の発作をおこす恐れもあります。
 スポーツ中の突然死は年間130件ほど発生しており、急性心筋梗塞や狭心症、心室細動など、心臓疾患が原因の8割を占めます。
 体を動かすと心臓が必要とする酸素の量が増えるため、冠動脈が動脈硬化で狭まっていると血液の供給が追いつかなくなります。さらに、激しい運動で大量に汗をかくと、血液の粘度が高まって血栓ができやすくなります。
 年代別では、スポーツをする機会の多い10代が22%と最多ですが、次いで50代が16%、40代が13%を占めます。
 競技別では、実数ではランニングが多いのですが、40〜59歳では剣道やスキー、60歳以上ではゴルフや登山の率が高まります(表2)。
 車の運転中の突然死も意外に多く、居眠り運転や脇見運転として扱われた中にも、突然死によるものが相当数含まれているとみられます。
 運転中は精神的緊張が高まって交感神経が刺激され、一時的に血圧や心拍数が上がりやすくなります。死亡者の6割は、高血圧や糖尿病、虚血性心疾患、脳血管疾患などの病歴をもっていたことが明らかになっており、危険因子のある人は要注意です。
 突然死を防ぐには、日常生活の中でこうした危険な場面に細心の注意を払うと共に、"死の四重奏"といわれる危険因子を改善し、動脈硬化や血栓を防ぐ食生活を心がけ、交感神経の緊張を和らげて自律神経のバランスを整えることが大事です。対策編については次号で。