胆嚢の病気・
――食事・栄養療法――
最新の治療法と、食習慣による予防の重要性
胆嚢の手術はかつてはお腹を大きく切る開腹手術が一般的でしたが、最近は腹腔鏡を用いてお腹に小さな孔をあけるだけで済む手術が普及しています。胆石にしても、薬で溶かしたり、体外から強い衝撃波を当てて石を砕いたり、内視鏡に電気メスやレーザー発生装置を取り付けて石を取り除く内視鏡的治療など、患者の負担の軽い治療法が主流となっています。
しかし、高脂肪食が引き金となっておこるコレステロール胆石やコレステロールポリープなどは、食習慣や生活習慣を改めなければ根本的な治療とはなりません。
ここでは、胆嚢の病気を予防すると共に、すでに胆石をもっている人では発作を未然に防ぐような食事・栄養療法について考えてみましょう。
高脂肪・低食物繊維の 欧米型食生活を改める脂肪を減らし、 n―3系脂肪酸を適量
胆嚢の病気では、何といっても脂肪のとり方が問題となります。高脂肪食はコレステロール胆石やコレステロールポリープを作るだけではなく、脂肪の消化吸収を助けるために胆嚢が活発に収縮して胆汁を排出しようとするので、すでに胆石をもっている人では疝痛発作をおこしやすくなります。
卵・肉・牛乳などの動物性高脂肪食を制限すると共に、食用油の使用を大幅に控え、煮る・焼く・蒸すといった油を使わない調理を心がけることが大事です。もちろん、欧米型の食事だけでなく、油の多い中華料理や、天ぷらやウナギなども胆嚢の大敵です。
一方、脂肪酸の中では魚油のEPA(エイコサペンタエン酸)にコレステロール胆石の予防効果があることが、筑波大学臨床医学系消化器内科の安部井誠氏らの研究で確認されています。ハムスターに、胆石の形成を促す餌と共にパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、EPAの各種脂肪酸を与えたところ、EPAのみが胆石の形成を抑えました。
EPAをはじめ、DHA(ドコサヘキサエン酸)やα―リノレン酸などのn―3系脂肪酸には、リノール酸やアラキドン酸などの過剰なn―6系脂肪酸が体内で引き起こす炎症(図1)を鎮める消炎作用があり、胆嚢の炎症にも効果が期待できます。EPAやDHAを含む新鮮な魚介類、α―リノレン酸の多い紫蘇油や亜麻仁油などを適量とるといいでしょう(表)。
砂糖や果物のとり過ぎ 甘い菓子類や果物など、糖分の多い食品のとり過ぎにも注意が必要です。
糖分を多くとると、コレステロールをつくる原料となるアセト酢酸が肝臓内で増え、結果的に胆汁に含まれるコレステロールが多くなります。
特に、果物の果糖は体内に吸収されやすい上、最近の果物は人工的に操作して糖度を高く改良しているので、とり過ぎは禁物です。缶詰やジャムなどの加工食品ではさらに糖分が多くなります。
水溶性と不溶性の食物繊維を バランス良く
胆嚢の病気が増えている背景には、脂肪摂取量の増加に加え、食物繊維の摂取量が減少していることも大きく影響しています。食物繊維には水溶性と不溶性とがあり、それぞれに胆嚢の健康に役立つ働きがあります。
水溶性の食物繊維は、余分な脂肪を吸着して便に排泄する作用があり、体内のコレステロールを減らすのに役立ちます。
"腸肝循環"といって、胆汁は回腸から再吸収されて肝臓で再利用されます。このとき腸内に食物繊維が存在すると、胆汁を吸着して体外へ連れ出します。すると、肝臓では新たに胆汁をつくる原料としてコレステロールを使うので、コレステロールが効率よく代謝されるようになります。
腸肝循環では、胆汁とともに腸へ排泄されたダイオキシンなどの有害物質も再吸収されてしまいますが、水溶性の食物繊維や食用炭の「ポイダス」等をとっていれば、有害物質が再吸収される前に吸着し、便とともに体外に排泄することができます(図2)。
大腸へ流れた胆汁に悪玉菌が作用すると、一次胆汁酸から発がんを促進する二次胆汁酸が生じます。水溶性の食物繊維には、腸内でビフィズス菌などの善玉菌を増やして悪玉菌の増殖を抑える働きもあり、これが結果的に二次胆汁酸の生成を防いでくれます。古漬けやキムチなどの乳酸発酵食品も、腸内細菌叢のバランスを整えるのに役立ちます。
一方、不溶性の食物繊維は保水性が高く、大腸で便のカサを増やして便秘を防ぐ作用があります。便秘は腸の内圧を高めて胆汁の流れを妨げ、胆石発作をおこしやすくするので、便通を整えることも非常に重要です。
麦飯、豆類、野菜・海藻などが豊富な昔ながらの和食は、水溶性と不溶性の食物繊維をバランス良く摂取するのに最適です(図3)。
規則的な食生活 胆石患者には食事時間が不規則な人が多いといわれます。朝食を抜いたり、遅い時間に夕食をとったりして食事の間隔が長くなると、胆嚢内で胆汁が濃縮されすぎ、胆石や胆嚢炎をおこしやすくなります。胆嚢に溜まった胆汁を定期的に使うには、1日3回、規則的な食事を心がけましょう。
暴飲暴食は厳禁です。一度に大量に食べると胆嚢が強く収縮し、それだけ胆嚢に負担がかかります。胆石をもっている人は疝痛発作をおこしやすくなります。
アルコールやカフェイン飲料、炭酸飲料、香辛料などの刺激物の過剰摂取も、胆嚢を強く収縮させるので控えるべきです。胆嚢の健康に役立つ
微量栄養素 ビタミンCは特に重要です。ビタミンCには肝臓で胆汁酸の合成を助ける働きがあり、コレステロールの代謝を促進して、コレステロール胆石や胆嚢ポリープの形成を抑えます。ビタミンC不足の動物にコレステロールの多い餌を与えると胆石になりやすいことが確認されており、米国のサンフランシスコ大学のJ・サイモン助教授らの研究では、ビタミンC不足で女性が胆嚢の病気にかかる危険性が増すことが明らかになっています。
アミノ酸のタウリンも胆汁酸の合成を促進する働きがあり、動物に胆石の形成を促すような餌を与えても、タウリンを補うと胆石が抑えられることが報告されています。
ビタミンEも重要です。動物に大量のコレステロールや脂肪を与えても、体内のビタミンE濃度が適切なら胆石を防ぐことができ、一方、ビタミンE不足の動物は低脂肪の餌でも胆石ができやすいことが報告されています。
コリンやイノシトールには、コレステロールを胆汁酸に乳化させるレシチンをつくり出し、コレステロールが胆嚢に溜まらないようにする働きがあります。
ビリルビンカルシウム胆石を防ぐには、カルシウムの沈着を防ぐ作用のあるマグネシウムが役立ちます。
この他、胆嚢の炎症を鎮めるには、抗酸化ビタミンACEや、抗酸化酵素を活性化させる亜鉛・銅・鉄・マンガン・セレニウムなどのミネラル、ポリフェノールやフラボノイドなどの植物性抗酸化物質が役立ちます。
こうした微量栄養素を総合的かつバランスよく補うには、食事からだけでは十分とはいえず、"総合サプリメント(栄養補助食品)"の摂取がすすめられます。薬効の高い
漢方・民間療法 熊の胆嚢を乾燥させた熊の胆は、胆嚢疾患に効果のある漢方薬として昔からよく知られ、その主成分のウルソデオキシコール酸は、実際に胆石溶解剤として臨床に用いられています。塩分濃度の高いものを塩分濃度の低い水につけておくと中の塩分が溶けだしてくるのと同じ原理で、ウルソデオキシコール酸を飲むと胆嚢の中はコレステロール濃度の低い胆汁で満たされ、コレステロール濃度の高い胆石が徐々に溶けてくるのです。
ブナ科のカシの一種であるウラジロガシは、「体の石を追い出す」として、古くから四国地方で胆石や尿路結石、腎結石などに使われてきました。有効成分はカテコールタンニンで、葉や小枝を煎じたお茶を飲むと、胆石を防ぐだけでなく溶かす効果も確認されています。ウラジロガシは消炎作用も強く、胆嚢炎を鎮める効果も期待できます。
ショウガ科のウコンも胆嚢の健康に役立ちます。煎じ汁には胆汁の合成を促してコレステロール代謝を促進する作用が、精油には胆石を溶かす作用があるといわれています。 胆嚢をいたわる 胆石をはじめとする胆嚢の病気は肥満体型の人におこりやすいので、昔ながらの和食を基本とした低脂肪・高食物繊維の食生活と、適切な運動で肥満を解消することが大事です。
激しい運動は禁物。運動がきっかけとなって胆石が動き、発作を引き起こす恐れがあります。特にゴルフや野球のように上体をひねる運動、縄跳びのように振動の多い運動は避けます。胆石をもっている人は、ウォーキングや水中歩行などがおすすめです。
胆石の激しい痛み(胆石疝痛)は過労や睡眠不足などのストレスがあるときにおこりやすいといわれています。消化器官は、日中は活動して夜間は安静にするのが自然のリズムです。夜更かしや朝寝坊はそうした本来のリズムを乱し、胆嚢に負担を与えます。規則正しく、ゆとりのある生活を心がけましょう。