肝炎・

――その80%はウイルス肝炎――

拡大する肝炎||今年度よりC型肝炎緊急対策がスタート||

 日本では年間、肝硬変と肝がんで4万5千人以上の人が亡くなり、その95%はB型とC型の慢性肝炎からの移行です。
 急増する肝がん(図1)に対し厚生労働省は今年度より、・国民への普及啓発、・健診制度を活用した肝炎ウイルス検査、・治療法の研究開発と診療体制の整備、・予防||を主な柱とする総合的な肝炎対策をスタート。対策の中心は肝がんの8割を占める「C型肝炎」で、今年度から40〜70歳の住民検診に導入されたHCV(C型肝炎ウイルス)検査により、検診が全員にゆきわたる今後5年間で新たに13万8千人のキャリア(持続感染者)が確認されると試算されています。
 その一方で、「B型肝炎」やC型肝炎は、ワクチンの普及や検査体制の進歩で輸血感染の恐れがほとんどなくなり、新たな感染者は激減していくとみられていました。
 ところが、グローバル化で日本では殆ど見られなかった「E型肝炎」や成人後感染でも慢性化する「欧米型B型肝炎」、また非加熱血液製剤や安全と思われていた加熱血液製剤(旧ミドリ十字社のフィブリノゲン)による「薬害C型肝炎」、さらに薬の副作用による「薬剤肝炎」や「アルコール肝炎」の増加||等々、肝炎は肝がんなどの急増だけではなく、新たなタイプの拡大・急増も問題になってきています。

沈黙の臓器・

 体の生化学工場 肝臓は体の中で最も大きい臓器で、体重の約45〜50分の1を占めています。障害が肝臓の8割に及んではじめて機能不全になるといわれるほど予備能力が高く、少々の障害では音を上げないところから「沈黙の臓器」と呼ばれています。再生能力も高く、7割近く切り取ることができるといわれています。それだけに、肝臓のトラブルはなかなか気がつきにくいのです。
 肝臓は体の「化学工場」ともいわれさまざまな代謝を司っています。「肝腎(心)要」の喩えのごとく、まさに肝臓は生命活動の元となる新陳代謝の中枢なのです。その働きには多種類の酵素が関与して、1万種以上の化学反応を行なっているといわれています。
 主な働き(図2)としては、
・栄養素の代謝・合成・貯蔵 腸管から吸収された食べ物の栄養素は門脈から肝臓に運ばれ、肝臓ではそれらの栄養素をさらに体に適合した形に加工・再合成して貯蔵し、必要に応じて血液を通して全身に送り出す(表1)
・胆汁の生成 脂肪の消化吸収や、脂溶性ビタミンや鉄やカルシウムの吸収に必要な胆汁を合成する
・解毒・排泄 老廃物や毒物、薬物などを分解したり抱合して無毒化し、尿や胆汁から排泄する
・血液の貯蔵と凝固物質の産生
豊富な血管に血液を貯蔵し、造血に必要な鉄やビタミンB12の貯蔵、血液の凝固溶解に必要な物質の産生||などがあげられます。
 他にも、・各種ビタミンの活性化や貯蔵、・生体防御、・女性ホルモンなど不要になったホルモンの処理||など、肝臓は実に多種多様な働きをし、人工肝臓を作るとなると、東京全域にわたるほどの一大化学工場になると予想されています。

肝炎とは 原因の8割は肝炎ウイルス・ 急性肝炎と慢性肝炎

 肝炎は、・ウイルス、・アルコール、・薬物、さらに、・免疫異常(自己免疫疾患)、・胆道疾患(胆道炎など)||などが原因で、肝臓の細胞が壊れたり、肝臓の働きが悪くなる病気です。日本人の肝炎の約80%は肝炎ウイルス原因で、約15%がアルコールと薬剤が原因とみられています。
 いづれの原因でも、原因がある程度以上加わると免疫反応が起き、多くの場合肝機能異常を示すGPT、GOT(肝細胞に含まれる酵素で、肝臓に障害が起きて細胞が壊れると血中濃度が高くなる)といった値が上がってきます。
 一時的に炎症が起き6ヶ月以内に治癒するのが「急性肝炎」。そのうち約1〜2%が急激に肝細胞が壊死し進行が早いと発症から1週間程度で意識がなくなり、死亡に至る「劇症肝炎」になります。
 この状態が6ヶ月以上続くと「慢性肝炎」となり、細胞の変性壊死と再生がくり返されるうちに肝臓に線維がたまってきます。
 慢性肝炎からさらに10年、20年と経過すると「肝硬変症」、「肝臓がん」になったりします(図3)。
ウイルス肝炎と新しいタイプ 肝炎ウイルスの主なものにはA型、B型、C型、D型、E型があり、経口感染と血液感染に二分されます(表2)。
〈一過性の経口感染型〉
 飲食物を通じて口から肝臓に入り、胆汁と一緒に腸管に出て、便に排泄されます。体内にとどまる時間は短く、慢性化はまずありません。
 A型は、子供の頃に感染しやすく、35歳で半数、60歳以上では8〜9割の人が免疫を持っています。特に貝類に用心です。
 E型は、日本にはウイルスが存在せず、渡航者が持ち込む「輸入感染症」と考えられていましたが、最近になって、国立感染症研究所の保存血清900人分の調査では国民の5%が感染歴を持つ可能性が示唆され、また渡航歴のないE型感染者の劇症例や豚の感染が判明し、詳細の解明が急がれています。

〈慢性化が怖い血液感染型〉

 血液や体液から感染します。ごく一部は劇症化しますが、怖いのは持続感染による慢性化で、B型では約1割、C型では7割という高率で慢性化し、慢性肝炎から肝硬変、肝臓がんに移行します(図3)。
 B型では、母子感染や性感染もあります。慢性化の恐れがあるのは母子感染ですが、ワクチンによる予防対策の確立により新たな慢性患者は激減するとみられていました。最近になって、成人後感染で約1割が慢性化する欧米型B型肝炎が性感染で拡大していることがわかり、E型同様新たな対策を迫られています。
 C型は、無症状で慢性化しやすく、肝がんの8割がC型慢性肝炎が原因です。C型肝炎ウイルスが見つかったのは1988年、それまで非A非B型肝炎と呼ばれていました。母子感染や性感染はほとんどなく、戦後の覚醒剤の回し打ちや売血から感染が広がり、それがさらに輸血や注射針の使い回しで拡大したと考えられています。血液製剤による感染(薬害肝炎)も多く、C型肝炎の多くは医療行為の犠牲です。輸血による感染は現在ほとんどなくなりましたが、薬害肝炎などと併せて、これまで感染した人の肝硬変、肝がんへの急増、その対策が急務になっています。

〈発症には免疫反応が関与〉

 ウイルスは血液や汚染された飲食物を通して体内に入り込み、肝臓にすみつきます。しかし、肝炎ウイルスが直接、肝細胞を破壊することはありません。
 肝炎ウイルスが体に入ると、これを排除しようと免疫機構が働き、抗体を作って対抗したり、白血球が直接ウイルスを食べたり、インターフェロンを産生してウイルスを抑えたりします。この時、免疫はウイルスがすみついた肝細胞も一緒に破壊してしまうことで炎症が起こります。
 ですから、肝炎ウイルスが肝臓にすみついても、免疫が働かなければ直ちに肝炎になることはなく、また、免疫によって肝炎ウイルスが完全に排除されれば肝炎は治ります。
 アルコールや薬による肝炎も、それ自身が肝細胞を直撃する場合と、こうした免疫反応で肝炎を起こす場合とがあります。 症状が出にくいのが特徴 症状はどのタイプもほぼ同じです。肝臓は余力が大きく、少々のダメージでは音を上げないため、知らないうちに慢性肝炎が進行し、気がついた時は肝硬変や肝がんというケースも多く、特に40代以上の人はC型肝炎の検査がすすめられています(図4)。
 一般的に症状が顕著なのはA型肝炎です。B型、C型はそれに比べて軽く、特にC型肝炎は症状がないケースが極めて多いといわれます。
 急性肝炎では黄疸を伴うケースもあり、黄疸があらわれる前は発熱やだるい、頭痛など風邪に似た症状が出ます。こうした症状が長引くようでしたら、診断を受けてみることです。
 主な症状としては、
・発熱・風邪に似た症状
・全身倦怠感(だるい、疲れやすい)
・吐き気や嘔吐
・腹痛(まれに急性肝炎で出る)
・腹部膨満(肝硬変や重度急性肝炎では腹水がたまりお腹が張る)
・右下腹の圧迫感(肝臓の腫大がある時)
・こむら返り(ミネラルやビタミンの代謝機能が低下するとこむら返りしやすくなる)
・月経異常(ホルモン処理能力の減少による)
・皮膚の痒み(黄疸が出ている時は血中に胆汁量が増加、その成分の胆汁酸が痒みを起こす)
・白色便(急性肝炎で黄疸がある時や閉塞性黄疸があると、十二指腸への胆汁排泄がうまくいかなくなり白色便になる)
・茶褐色の尿(胆汁成分のビリルビンが大量に尿中に流れるため。黄疸の前兆として目安になる)
・黄疸(肝臓の機能が悪くなったり、胆汁がつまると、白目や皮膚が黄色くなる。胆汁の成分のビリルビンがその正体)
・手掌紅斑(手のひらの親指と小指の付け根の部分がピンクがかった赤色になる。女性ホルモンのエストロゲンの末梢血管拡張作用による)
 この他、肝硬変では吐血や下血、蜘蛛状血管腫、毛細血管拡張(酒ヤケ)、腹部静脈の怒張、女性化乳房、意識障害や羽ばたき振せんなどが起こります。意識障害や羽ばたき振せんは劇症肝炎でも起こります。