便秘が大敵となる "痔"

 痔は直接命にかかわる病気ではありませんが、排便が苦痛になるなどQOL(生活の質)が著しく損なわれ、慢性的な出血から貧血などもおこしやすくなります。痔瘻では、がん化の危険性もいわれています。
 食生活や排便習慣など、生活スタイルの見直しが不可欠です。
日本人の3人に1人は痔 痔は、二本足で立つ人間の宿命的な病気だといわれます。四つ足動物では心臓と肛門が地面から同じ高さにあるのに対し、人間の場合、肛門周辺の血液が重力に逆らって心臓に戻りにくく、うっ血しやすくなります。
 そこに、冷えやストレスなどからくる血流障害や、便秘・下痢などの便通異常が加わることで、痔を発症しやすくなるのです。
 日本人の3人に1人は痔主といわれます。昔は和式トイレでいきむことが肛門に負担をかけ、また近年は肉食過多や食物繊維不足で便秘が増えていることが指摘されています。
 子供や若い女性の中には、学校や外出先で排便を我慢してしまう人も多く、こうした誤った排便習慣から痔を患う人も増えています。若い女性に目立つ極端なダイエットも便秘の原因になります。
 この他、デスクワークや車の運転で長時間同じ姿勢で座ったり、重量あげなどの腹圧のかかる運動、妊婦がお腹が大きくなったり出産の際にいきむことも、肛門に負担をかけて痔を誘発します。痔の3タイプ 痔には大きく分けて次の3種類があります(図1)。
・いぼ痔(痔核)
 慢性的な便秘で強くいきまないと排便できない状態が続くと、肛門周囲に網の目のように張り巡らされている静脈がうっ血して一種の静脈瘤を形成し、排便の際に出血するようになります。これが痔核(いぼ痔)です。
 痔核には内痔核と外痔核があります。内痔核が悪化すると、排便時に痔核が肛門の外に飛び出す「脱肛」、さらには脱出した痔核内に血栓ができて肛門内に戻らなくなる「嵌頓痔核」をおこし、激しく痛みます。肛門周囲の血管内に血栓ができて腫れあがる「血栓性外痔核」も激しい痛みを伴います。
 痔核は痔の中で最も多く、患者の半分以上を占めています。
・切れ痔(裂肛)
 便秘でカチカチに硬くなった便が肛門を傷つけたり、水様性の下痢便が勢いよく肛門を通過すると、肛門が切れたり裂けたりして裂肛(切れ痔)になります。
 出血は痔核より少なく、トイレットペーパーにつく程度ですが、慢性化すると傷が深くなって潰瘍化し、肛門が狭くなる「肛門狭窄」をおこします。こうなるとますます排便しにくく便秘がちになってしまいます。
 裂肛は20〜30代の女性に比較的多くみられます。
・あな痔(痔瘻)
 直腸と肛門の境目の小さなくぼみに下痢などの軟らかい便が入り込むと、便の中の大腸菌などが感染して化膿し、膿がたまります。これを「肛門周囲膿瘍」といい、肛門周囲の腫れ、痛み、発熱などの症状があらわれます。
 膿が出たあとに、直腸や肛門とつながるトンネル(痔管)ができてしまったものが痔瘻(あな痔)です。痛みはあまりありませんが、下着が膿で汚れたり、複雑な痔瘻を10年以上放置するとがん化する恐れもあるので要注意です。
 クローン病や潰瘍性大腸炎などの腸の炎症がある人は肛門周囲に細菌感染をおこしやすく、ほぼ半数が難治性痔瘻や肛門周囲膿瘍を併発するといわれています。便通・血行を良くする
食事・栄養療法 痔の予防・改善には、便通を整えることと、血液循環を良くすることが肝心で、それにはまず食生活の見直しが第一です。
●動物性食品、油、砂糖を控える
 肉や卵などの動物性食品、油、白砂糖のとり過ぎは、腸内環境を悪くして便秘や下痢をもたらします。また、血液の粘性を高めて血流も悪くするもとになります。
 油は、植物油に多いリノール酸などのn―6系脂肪酸を減らし、n―3系のシソ油やエゴマ油、亜麻仁油、魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を適量とるようにすると、血流障害が解消され、痔の炎症も鎮まります。
 白砂糖の代わりには、羅漢果液や黒砂糖を用いると良いでしょう。羅漢果液の優れた抗酸化作用は痔の炎症を鎮めるのに役立ち、黒砂糖に含まれるオリゴ糖のラフィノースは、腸内でビフィズス菌などの善玉菌の繁殖を助け、便通を整えます。
●食物繊維はよく噛んで
バランスのよい摂取
 食物繊維には、大腸で便のカサを増やして便に軟らかさを与えると共に、大腸を刺激して排泄を促す働きがあります。様々な食品からバランスよく(図2)、1日25〜30gはとりたいものです。
 主食のご飯は、二分搗米または発芽玄米に麦を2〜3割程度混ぜた麦ご飯がベストです。副食には、納豆や具沢山の味噌汁(海藻類、野菜類、芋類、キノコ類、豆腐など)を欠かさずとりましょう。
 納豆や味噌、豆腐などの大豆製品には、腸内善玉菌のエサとなって腸内環境を整える大豆オリゴ糖も豊富です。納豆のナットウキナーゼには、痔の大敵となる血栓を強力に防ぐ働きもあります。
 野菜類では、玉ネギやゴボウ、アスパラガスなどに含まれるフラクトオリゴ糖が整腸作用を発揮します。玉ネギ・ニンニクなどのイオウ化合物をはじめ、野菜類にも血栓を防いで血流を良くする働きがあります。
 バナナも食物繊維とオリゴ糖が豊富なのでおすすめです。
 但し、食物繊維もとり過ぎは禁物。難消化性の食物繊維のとり過ぎは腸に負担をかけます。食事はすべからく少食でよく噛んで、これが大事です。
●水分補給
 便秘の予防や、血液の粘りを防いで血流を良くするには、水分を十分にとることも大事です。冷たい水のガブ飲みは避け、チビチビと水分をとるのがコツです。起床時にコップ数杯の水を飲み、立ったりしゃがんだりの動作をくり返すと、朝の排便が促されます。便秘・軟便対策には、アロエ茶、ドクダミ茶、梅肉エキスなども役立ちます。
 なお、水分補給に牛乳はおすすめできません。日本人には乳糖不耐症が多く、下痢をおこしやすくなります。アルコールの飲み過ぎも下痢の原因になります。また、アルコールは末梢血管を広げ、静脈が集まっている痔核を大きくさせてしまいます。
●香辛料は控えめに
 激辛ブームも痔の増加に拍車をかけています。唐辛子などの香辛料は消化吸収されないまま排泄され、肛門を刺激してうっ血を招いたり、痔の炎症を悪化させます。
●炎症・血行対策と微量栄養素
 痔の炎症を鎮めるには、抗酸化ビタミンACEや、抗酸化酵素を活性化させるセレン・亜鉛・銅・マンガンなどのミネラル、ポリフェノールなどの植物性生理活性物質が役立ちます。
 ビタミンCやビタミンP(柑橘類に含まれるヘスペリジンやソバのルチンなど)には、毛細血管を強化してうっ血を防ぐ働きがあります。ビタミンEは血行を良くすることでうっ血を予防します。
 慢性的な出血から鉄欠乏性貧血になることもあるので、鉄分をしっかり補うことも大切です。
 カルシウムとマグネシウムは、腸の筋肉の蠕動運動を促して便通を整えます。マグネシウムに過敏な体質の人は便がゆるくなることがあるので、サプリメント(栄養補助食品)を用いる際には量を加減すると良いでしょう。
肛門に負担をかけない
日常生活●正しい排便習慣を身につける
 便秘の解消法として毎日決まった時間にトイレへ行くことがすすめられていますが、便意もないのに無理にいきんで出そうとするのは逆効果です。肛門に大きな負担をかけ、血圧も上がってしまいます。便意のあるときに自然に出るにまかせて、トイレに長居は禁物です。
 便意があったら我慢しないでトイレに行くこと。直腸に便がたまると大脳に情報が送られ、大脳から「排便せよ」という指令が発せられます。ところが、大脳からの指令を無視し続けていると、やがてこうした排便反射が起こらなくなってしまいます。
●清潔を保つ
 肛門を清潔に保つには、紙で拭き取るだけでは不十分です。痔を患っている人は特に、排便ごとに洗面器にお湯を張ってお尻を洗う座浴が理想的です。肛門の血行を促し、うっ血を防ぐ効果もあります。
 温水洗浄式便座や携帯型温水洗浄器などの利用もおすすめです。ただし、利用者の中には温水を当てることで排便を促している人も多いといわれ、これに頼りすぎると温水の刺激がないと排便できない依存体質になってしまうので要注意です。
 同じ理由で、下剤や下痢止めの常用も依存性があるので厳禁です。
●ストレス対策
 ストレスを受けると腸の蠕動運動をつかさどっている自律神経のバランスが乱れ、「けいれん性便秘」や「過敏性腸症候群」になりやすくなります。
 爪もみ療法などの自律神経免疫療法に取り組んで、自律神経のバランスを図りましょう。
●適度な運動に予防体操
 運動不足では排便の際の腹筋が弱くなり、また、大腸本来の運動リズムも乱れます。積極的に体を動かして腸の働きを活発にしましょう。
 肛門を上に引き上げるようなイメージで、2〜3回肛門を締めたり緩めたりする肛門体操は、肛門括約筋を鍛え、脱肛を防ぎます。
●出血を軽視しないこと
 痔では慢性的な出血から貧血になることも多く、腰の下に枕を入れるなどして、お尻の位置を心臓より高くして休むことがすすめられています。
 なお、血便が続く、急に便秘になった、便秘と下痢をくり返す――といった症状がある場合は、大腸がんや直腸がんの恐れもあるので、専門医の診察を受けてみるべきです。