胃の病気b

――対策編――

 胃炎・胃潰瘍の治療には一般に、制酸剤などの薬物療法やピロリ菌の除菌療法などが行われます。しかし、薬剤治療は副作用の心配もあります。
 ここでは食事・栄養療法を中心に、胃の病気を予防・改善する方法を探っていきましょう。

薬物療法と

 ピロリ菌の除菌療法〈制酸剤〉
 胃炎・胃潰瘍の治療には、胃酸の分泌を抑えるHブロッカーなどの制酸剤や、胃粘液の血流を促す薬剤などが用いられますが、薬をやめると再発する率が80%と高く、薬に頼るだけでは根本的な解決にはなりません。
 新潟大学医学部の安保徹教授は、胃潰瘍初期の胃酸分泌はそもそも生体の保護反応としておこるものなので、制酸剤の長期使用は胃の内部環境を壊し、本格的な難治性の胃潰瘍を招きかねないと注意を促しています。

〈抗生物質による除菌療法〉

 一方、00年11月から保険適用となったピロリ菌の除菌療法(抗生物質2種類、胃腸薬1種類)は、再発率5%という優れた成果をあげています(図1)。症状の重い人や、再発をくり返している人には除菌がすすめられます。
 ただし、除菌すると10〜20%の人が逆流性食道炎になるとの報告もあり、また、抗生物質はピロリ菌を殺すだけでなく、善玉腸内細菌も殺してしまう可能性も指摘されています。除菌する場合は、酵素や乳酸菌の健康補助食品でのフォローが大事です。さらに、むやみな除菌は耐性菌の出現を招く恐れもあり、メリットとデメリットを把握した上で、除菌には慎重に取り組みましょう。

〈除菌療法が再発しにくいのは〉

 制酸剤をやめると再発しやすく、ピロリ菌を除菌すると治癒率が高い理由について、熊本大学医学部の岡嶋研二助教授は次のように説明しています(図2)。
 「胃粘膜を鍋に入れて煮立たせた状態をイメージすると、鍋の下で胃粘膜を煮込む炎が活性酸素による炎症で、煮込まれて過敏になった胃粘膜にわずかな胃酸でも作用すると、潰瘍ができて痛みや胸やけなどがおこる。
 制酸剤は酸の分泌を抑える、つまり鍋に蓋をするだけで、鍋の下で燃えている炎はそのままなので、薬をやめると蓋がとれてすぐ再発する。
 ところが、ピロリ菌を除菌すると、胃粘膜が炎で煮込まれることがなくなり、正常な胃粘膜の状態が回復する」。
 炎症の引き金になる活性酸素を体内で作る要因には、ピロリ菌だけでなく、精神的ストレスや解熱鎮痛剤などの薬剤、暴飲暴食などもあります(図2)。新潟大学の安保徹教授と福田医院の福田稔先生は、これらはすべて自律神経の交感神経の緊張を招く因子であり、その結果、顆粒球の増大による活性酸素の炎症を引き起こしたり、血流を阻害して胃粘膜を酸から守る粘液の分泌を減少させると指摘しています。
 つまり、胃炎・胃潰瘍を根本的に予防・改善するには、a自律神経の交感神経の緊張を和らげ、b活性酸素の炎症を鎮め、c血流障害を解消することがポイントとなるわけです。
 食事・栄養療法 まずは、食事・栄養面から胃炎・胃潰瘍対策を考えてみましょう。

〈一般的な食事上の注意〉

●暴飲暴食や不規則な食習慣は、身体的ストレスとなって自律神経のバランスを狂わせ、胃炎や胃潰瘍の原因になります。
●吐き気や腹痛などの症状が激しいときは、まず絶食して胃を休め、症状の回復に伴って、流動食、お粥、普通食へと戻します。
●消化・吸収を良くするには、細かく刻んだりやわらかく煮るなど調理法を工夫し、ゆっくりよく噛んで食べることが第一です。
●丈夫な胃粘膜をつくるには、主食の麦ご飯(麦2〜5割に、二分搗米または発芽玄米)に納豆・味噌汁・豆腐などの大豆製品を組み合わせ、良質の蛋白質をしっかり確保しましょう。
●油は胃の中にとどまる時間が長く、胃もたれ・むかつきの原因となるのでとり過ぎは禁物です。特に、紅花油などに多いリノール酸系の脂肪酸は虚血・炎症をもたらすもとになるので極力避け、それを抑えるα|リノレン酸系のシソ油やエゴマ油、亜麻仁油などを適量とると良いでしょう。
●肉・卵・牛乳などの動物性食品も血流を阻害します。牛乳・乳製品は、乳化脂肪で胃粘膜を保護する効果があるといわれますが、一時的に胃酸を中和するだけで、その後は逆に胃酸を多く分泌させて胃潰瘍を治りにくくするとの指摘もあります。胃のために敢えて牛乳を飲む必要はありません。
●アルコールは、血行を良くし、食欲を増進させ、心身をリラックスさせますが、飲み過ぎると胃酸分泌を増やしたり、胃粘膜を傷つけるもとになります。空腹時を避け、適量(お湯に割った焼酎でも湯呑み半分位まで)を守ることが大切です。
●香辛料や塩分、カフェイン飲料や炭酸飲料などの刺激物も胃粘膜を障害するのでとり過ぎに注意しましょう。極端に熱いものや冷たいものも禁物です。

〈ピロリ菌退治に役立つ食物〉

 ウーロン茶、紅茶、緑茶、ココア、シナモン(桂皮)、梅肉エキス、ニンニク、モズクなどにピロリ菌抑制効果が報告されています。これらを積極的に利用するのも一法です。
 また、ピロリ菌は主に乳幼児期の不衛生な飲食で経口感染しますが、初乳に多く含まれるラクトフェリンという蛋白質にはピロリ菌の増殖を抑える効果があることが、東海大学医学部の古賀泰裕教授らの研究で明らかになっています。
 一方、少食療法で知られる甲田医院の甲田光雄院長は、ピロリ菌は酸性を嫌う性質(健常者の胃液はpH1・5〜1・7だが、ピロリ菌の培養はpH7・4の状態にする)があるので、断食療法などで胃液を濃くしておけばピロリ菌は棲めなくなると指摘しています(ただし、胃潰瘍患者は胃粘膜が強い胃酸にさらされるので、完全断食は不可)。

〈活性酸素対策と 胃粘膜を守る栄養療法〉

 活性酸素の炎症を鎮めるには、抗酸化ビタミンACEや、抗酸化酵素を活性化するセレン・亜鉛・銅・マンガン・鉄などのミネラル、植物性生理活性物質のポリフェノールやフラボノイドなどを十分にとることが大事です。
 特に、ビタミンACEには次のような効果が報告されています。
●ビタミンAには胃粘膜の状態を正常に保つ働きが、ビタミンAの前駆物質であるβカロチンには胃の炎症を鎮める働きがあります。
 国立がんセンターの研究では、ニンジンやカボチャなどの黄色野菜をよく食べる人は萎縮性胃炎になりにくく(図3)、血中βカロチン濃度が最も高いグループは、最も低いグループに比べ、萎縮性胃炎のリスクが0・4に抑えられることが分かりました。
●ピロリ菌感染者は胃液中のビタミンCが著しく低く、除菌するとビタミンC濃度が回復したことが、スコットランドの研究で報告されています(図4)。
 また、ピロリ菌に感染したネズミにビタミンCを与えたところ、与えなかったネズミでは菌が10万個いたのに対し、ビタミンC投与群では1000個に減っていたことが、国立国際医療センター研究所の山本達男部長らの研究で確認されています。
●ピロリ菌に感染すると胃壁のビタミンEも大幅に減少することが報告されています。ビタミンEには血流を良くする効果もあり、胃粘膜細胞へ酸素や栄養を速やかに供給して粘液の分泌を助けます。
●この他、キャベツから発見されたビタミンU(別名キャベジン)に、傷ついた胃粘膜の修復を早める効果が報告されています。熱に弱いので、キャベツジュースなどにして生でとるのが一番です。アルファルファやレタス、セロリ、アスパラガスなどにも含まれています。
●サプリメントを利用する場合は、これらのビタミン・ミネラル・植物性生理活性物質が総合的にバランスよく含まれているものを選びましょう。
 なお、加齢と共に衰えていく消化・吸収力を補うには酵素入りの総合サプリメントがすすめられます。ただし、重症の胃潰瘍を患っている間は、サプリメントの酵素は除いた方が良いでしょう。
 その他の注意 食生活とともに、日常の生活習慣を見直すことも必要です。
 喫煙は体内で活性酸素の暴発を招いたり、血管を収縮させて血流を阻害したり、タールやニコチンなどの有害物質が唾液に溶けて胃に流れ込んで粘膜に悪影響を及ぼしたりします。ぜひとも禁煙を心がけて下さい。
 この他、過労やストレスなどの生活習慣の歪みはすべて、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスを狂わせ、胃炎・胃潰瘍の発症を招くもとになります。
 本誌336号(01・12)の福田稔先生のインタビューを参考に、爪もみ療法や半身浴、ウォーキングなど、自律神経のバランスを整え、血行を促進する「自律神経免疫療法」を実践されると良いでしょう。