全身を蝕む

歯周病

 日本には歯周病の人が多く、5歳以上の約73%、45〜54歳では9割近くもの人が歯周病にかかっていることが、厚生労働省が6年ごとに実施している「歯科疾患実態調査」(1999年)で明らかになっています。
 歯周病は単に口の中の病気にとどまらず、全身の健康に影響を及ぼします。生活習慣病や慢性病の予防・改善にもつながる歯周病対策について考えてみましょう。
歯周病とは 私たちの口の中には、約300種類、500億〜1兆個もの細菌が棲みついていて、そのうちの約20種(ジンジバリス菌、アクチノミセテムコミタンス菌、インターメディア菌など)が歯周病の原因となります。
 口の中の食べかすなどを栄養源として菌が増殖し、歯の表面に歯垢(プラーク)をつくると、歯垢の中の菌が出す毒素によって歯肉(歯茎)に炎症がおこります。これが「歯肉炎(図1)」です。
 さらに炎症が広がって、歯と歯茎のすき間に歯周ポケットができると、そこが菌の温床となって、歯を支えている歯槽骨を溶かし出します。この状態が「歯周炎(図2)」で、歯肉炎と歯周炎を総称して「歯周病」と呼んでいます。
 重度の歯周病になると、歯茎がブヨブヨして膿が出たり、歯がぐらついて、最後には抜け落ちてしまいます。歯周病は中高年が歯を失う最大の原因といわれています。
咀嚼や噛み合わせに影響 歯周病で歯を失うと、食物をよく噛めないために栄養の吸収が悪くなり、免疫力や抵抗力が低下して、全身の健康状態に影響を及ぼします。
 よく噛めないと唾液が出にくくなり、唾液中の消化酵素や抗酸化物質、解毒物質などが少なくなって、アレルギーやがんなどにもなりやすくなります。
 歯を失うと老化やボケもどんどん進みます。九州大学歯学部の研究では、痴呆の進行した人ほど残存歯数が少なく、義歯の使い方も下手で、噛む力が弱くなることが明らかになっており(図3)、日本咀嚼学会理事長の斉藤滋先生の研究では、咀嚼は大脳の神経活動を活性化することが確認されています。
 また、歯がぐらついたり抜けたりすると噛み合わせが悪くなり、それが元で肩こり、腰痛、膝痛などにもつながります。噛み合わせが悪いと脳にストレスがかかり、不眠症や自律神経失調症を招くという指摘もあります。
全身を蝕む歯周病菌 さらに、歯周病菌が歯周病だけでなく、さまざまな病気の引き金にもなることが、最近の研究で明らかになってきました。

〈糖尿病〉

 糖尿病の人は歯周病にかかりやすく、また逆に、歯周病を治すと糖尿病が好転するという臨床報告が出ています。
 歯周病と糖尿病との関連については、免疫細胞が歯周病菌を攻撃する際に放出する生理活性物質が、インスリンの働きを弱めたり、膵臓のインスリン産生細胞を傷つけるのではないかと考えられています。

〈心臓病〉

 歯周病の人は狭心症や心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが1・5〜3倍高まることが、米国のノースカロライナ大学の18年間の追跡調査で明らかになりました。
 心筋梗塞や動脈瘤の病巣部から、実際に歯周病菌が検出されたという報告も出ています。
 また、炎症の指標となる血液中のCRP(C反応性蛋白)が高いと心筋梗塞の危険が高まりますが、米国のバッファロー大学の研究では、重度の歯周病患者の4割近くでCRPが大量に検出されました。

〈がん〉

 国立がんセンターの研究では、食道がん細胞から歯周病菌が高率で検出され、口腔から下りてきた歯周病菌によって食道粘膜に炎症が起こり、発がんに至るのではないかと考えられています。

〈早産〉

 歯周病の妊婦が低体重児(2500g以下)を早産(37週未満)するリスクは、歯周病のない妊婦の約7倍に上ることが、ノースカロライナ大学の研究で明らかになっています。
 血液に乗って羊水の中に入った歯周病菌を免疫細胞が攻撃し、その際に放出される生理活性物質が、胎児を包んでいる羊膜を傷つけたり、子宮の収縮を促して陣痛を早めるのではないかと考えられています。

〈その他〉

 歯周病の人は骨粗鬆症や関節炎にもなりやすく、また、お年寄りが口腔内細菌を気管へ吸い込むと誤嚥性肺炎をおこしやすいことが指摘されています。口腔内細菌のもつ内毒素が頭痛や微熱の引き金になることもあります。
歯周病は生活習慣病 このように、口の中だけでなく全身をも蝕む歯周病を予防・改善するには、単にブラッシングを徹底するだけでは不十分です。歯周病は、がんや糖尿病などと同じように、食生活やストレスなどが原因でおこる生活習慣病の一つで、生活習慣全般を見直すことが必要です。
 平沼歯科クリニックの平沼一良院長は、歯周病の原因について、
a歯垢や細菌などの口腔内の起炎物質に加え、
b歯ぎしりや噛みしめなどによる歯の支持組織の破壊、
c食事・栄養のアンバランス、
d精神的ストレス――が互いに影響し合って発生すると指摘。中でも精神的ストレスの影響は大きく、歯周病の多くは、精神的ストレスによる歯ぎしりや噛みしめに耐えられなくなった支持組織が破壊され、歯がぐらついて最後には抜け落ちるという経過をたどると説明しています。
 そして、その精神的ストレスを改善するためには、まず栄養療法で全身的なバックアップを図り、活力・気力を養うことが重要だと強調しています。
歯周病から全身まで治癒する
 食事・栄養療法 平沼先生は、歯周病の治療・予防に、ビタミン・ミネラル・繊維質などの微量栄養素をサプリメント(栄養補助食品)で補う「ニュートリション・セラピー(栄養療法)」を取り入れ、歯周病だけでなく、がんや糖尿病などの生活習慣病の予防・改善にも大きな成果をあげています。
 サプリメントは微量栄養素が総合的にバランスよく含まれているものがすすめられますが、歯周病対策には特に次のような栄養素が効果を発揮します。
●歯茎の腫れや出血を防ぐには、コラーゲンの合成を促して毛細血管を強くするビタミンCと、その働きを助けるフラボノイドが役立ちます。血液凝固に働くビタミンKも重要です。
●歯周組織の健康を保つには、コエンザイムQ10(ユビキノン)が役立ちます。
 歯周病の人は歯肉や白血球の中にコエンザイムQ10が不足しているといわれ、コエンザイムQ10を補うと7割に効果があったと報告されています。
 エネルギー代謝が円滑に行われないと、中間生成物のクエン酸が歯肉の中にたまって炎症をおこしたり、歯根膜をおかしますが、コエンザイムQ10にはエネルギー代謝をスムーズにする働きがあります。
●歯槽骨の破壊を防ぐには、カルシウム、マグネシウム、ビタミンD、Kに加え、穀類と豆類の組み合わせで良質の蛋白質を確保することが大切です(3頁・食事指針参照)。
●ストレスに対抗するには、"抗ストレスビタミン"と呼ばれるパントテン酸やビタミンCが重要です。
 ストレスは歯ぎしりなどによる歯のぐらつきを招くだけでなく、不規則な食生活や治療意欲の減退から、悪循環的に歯周病を悪化させてしまいます。
●歯周病菌の増殖を抑えるには、ビタミンA、B群、C、E、亜鉛、セレンなどをしっかりとって、免疫力を高める必要があります。
 なお、お茶に含まれるカテキンには優れた殺菌作用があり、食後にお茶で口をすすぐと歯周病予防に役立ちます。
●歯垢を防ぐには、砂糖をやめ、食物繊維をしっかりとることが重要です。
 砂糖は歯垢の堆積を増やすばかりでなく、免疫力を低下させて歯周病を促進してしまいます。
 未精製の穀類や豆類、野菜類など食物繊維の多い食物を、一口最低30〜50回噛んで食べれば、繊維質が歯ブラシの役目をしてくれる上に、唾液が歯をきれいに洗ってくれます。よく噛むことで、歯茎の血行を良くするマッサージ効果も認められています。
生活習慣の改善と工夫で
 歯周病対策 この他、日常生活では次のような点から歯周病対策を心がけましょう。
●禁煙
 喫煙者は歯周病になりやすいことが知られています。
 大阪大学歯学部の埴岡隆助教授の研究では、喫煙者は歯周ポケット内の酸素が少なく、嫌気性の歯周病菌が増殖しやすい状態にあることが明らかになっています。
 また、タバコを吸うと歯のすき間などにタール類が付着し、これが食べかすを吸着するため歯周病菌の温床になりやすいことも指摘されています。
●歯科での歯の掃除
 歯垢に唾液のカルシウムなどが加わって固まった歯石はブラッシングではとることができません。東京歯科大学の奥田克爾教授は、「少なくとも年に1回は歯科衛生士に掃除してもらうこと。歯医者は悪い歯を治すところというイメージが強いが、これからは口の中を掃除してもらうところと考えるべき」と強調しています。
●乳酸菌歯みがき
 ユニークなブラッシングとしては、名古屋の開業医・今井龍弥医師は、歯周病の改善に、すり鉢で粉末にした整腸剤(新ビオフェルミンS、強力わかもとなど)、あるいは無糖ヨーグルトを歯ブラシにつけて磨く"乳酸菌歯みがき"をすすめています。
 口から肛門までを一つの消化器官と考えると、腸の病気を治す整腸剤の乳酸菌が口腔の病気である歯周病にも効くのではないかとして考案された方法で、実際、歯茎の腫れや出血、口臭の改善など、7割の患者に成果がみられたと報告されています。
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◎参考文献
・『ニュートリション健康法』
平沼一良著、ダイヤモンド社刊
・『病気を治す栄養成分Book』
永川祐三著、主婦と生活社
・『栄養療法辞典』
M・ウァーバック著、オフィス今村刊
・他