神経痛

 神経痛は、全身に網の目のように張り巡らされている神経系(図1)に沿って、顔から腰、手足の先まで体中のあらゆる部位に時として激痛が走ります。
 医療機関では主に鎮痛剤などの薬物療法や、神経を遮断する神経ブロック療法、外科手術などを組み合わせた治療が行われますが、これはあくまでも対症療法に過ぎません。
 ここでは食事・栄養療法を中心に、神経系の健康を保つ方法について考えてみましょう。

神経の役割と神経痛

 神経には、脳と脊髄からなる「中枢神経」と、その中枢神経を体の隅々に連絡する「末梢神経」があります。
 末梢神経はさらに、感覚を伝える「知覚神経」と、体を動かす「運動神経」、心臓の拍動など意志とは無関係に働く「自律神経(交感神経と副交感神経)」に分けられます(図1)。
 うっかり指を傷つけたりした時、その刺激(情報)は知覚神経を通って中枢神経に伝えられ、脳で初めて"痛み"として認識されます。すると脳から運動神経に命令が下り、指をひっこめるなどの動作がとられます。つまり、神経系は体の内外の変化に適切に対応するための調節器官で、痛みは身を守るために必要な感覚なのです。
 しかし、神経系そのものに異常が生じると、本来の防衛目的とは無関係に激しい痛みがおこり、精神的にも肉体的にも大きなダメージを受けてしまいます。これが神経痛です。
 痛みに対抗しようとして自律神経の交感神経が緊張すると、血管が収縮して血液の流れが悪くなり、全身の神経細胞に酸素や栄養が行き届かず、老廃物も蓄積しやすくなります。これが新しい痛みの原因となって、"痛みが痛みを呼ぶ"という悪循環に陥ってしまいます。
代表的な神経痛 神経痛は一つの病名ではなく、痛みをおこしている神経の部位や引き金となる疾患によって病名が変わります。
〈動脈硬化が引き金になる――三叉神経痛(顔面神経痛)〉
 風にあたる、食事をする、会話、笑う、洗顔――等が刺激となって顔面に鋭い痛みが走ります。原因不明とされていましたが、近年になって、動脈硬化で蛇行した血管に圧迫されて顔面の三叉神経が過敏になっていることが分かってきました。腫瘍や脳の炎症、帯状疱疹の後遺症などで痛むこともあります。
〈肋間神経痛〉
 肋骨に沿って痛みが走ります。帯状疱疹の後遺症や糖尿病の合併症、アルコール中毒、脊髄の疾患などに伴っておこります。
〈座骨神経痛〉
 腰から大腿、ふくらはぎ、爪先にかけて痛みが走ります。大部分は老化に伴う脊椎の変形や椎間板ヘルニアによる座骨神経の圧迫でおこります。腫瘍、インフルエンザ、糖尿病などでおこる場合もあります。
〈帯状疱疹後神経痛〉
 帯状疱疹は、子供の頃に感染した水疱瘡ウイルスが神経細胞の中に潜んでいて、体力や免疫力が低下したときに再び暴れ出し、痛みを伴う湿疹が出る病気です。ウイルスが神経系に炎症をおこすと、湿疹が治った後も慢性的な神経痛が残ります。
〈糖尿病性神経障害〉
 糖尿病の三大合併症の一つで、手足のしびれや痛み、麻痺がおこり、壊疽を招くもとにもなります。糖尿病では神経系の働きに重要なビタミンB群やマグネシウムが尿中に排泄されやすく、さらに、高血糖が原因の血栓で毛細血管がつまると神経細胞に酸素や栄養が行き届かなくなってしまいます。
〈手根管症候群〉
 手のひらの手根管というトンネル内を通る正中神経が、手の使いすぎ、ホルモンの乱れ、骨病変、腫瘍、人工透析などに関連して障害されると、手指のしびれやこわばり、夜間痛を伴う手根管症候群がおこります。
〈頸肩腕症候群〉
 老化や使いすぎがもとで頸椎周辺の神経が障害されると、首、肩、腕、手にかけて痛みやしびれ、麻痺があらわれる頸肩腕症候群がおこります。

神経系の健康を保つ食事・栄養療法

 このように、神経系を障害する要因には、
・動脈硬化、ヘルニア、腫瘍などによる神経の圧迫
・帯状疱疹やインフルエンザなどウイルス感染に伴う神経系の炎症
・神経系の働きに必要な栄養素の不足――等があります。
 神経系のトラブルを防ぎ、神経の働きを健康に保つために、食事・栄養面では次のような点に気をつけましょう。
●神経系の働きに重要な
B群、カルシウム、マグネシウム
 神経系の健康に最も重要なのがビタミンB群です。B1は神経細胞のエネルギー源となるブドウ糖の代謝に不可欠で、B6は興奮の抑制に働く神経伝達物質の合成に関わり、B12は神経細胞の合成や傷ついた神経線維の修復に働きます。
 かつて日本では、B1の豊富な胚芽部を取り去った精白米を食べるようになったことで、末梢神経障害を伴う脚気が大流行しましたが、栄養状態が向上したといわれる現代でも、日本人には「潜在性ビタミンB1欠乏症」が多いことが報告されています(図2)。
 甘い物のとり過ぎ、喫煙、飲酒、ストレスなどで体内のビタミンBは相当消費されてしまいます。さらに、B1のほとんど含まれていない精製加工食品の普及と、こうした現代型食生活をしている人は要注意です。
 現代型食生活ではまた、神経の興奮を鎮める作用のあるカルシウムとマグネシウムのバランスも崩れがちです。食品添加物に含まれるリンの過剰摂取、白砂糖や、肉・卵などの酸性食品のとり過ぎは、骨からカルシウムが溶け出すのを促し(脱灰)、余分に溶け出たカルシウムが神経細胞に蓄積すると神経系が過敏になって、ちょっとした刺激でも神経痛をおこしやすくなってしまいます。
 カルシウム濃度を調節する働きのあるマグネシウムも、ビタミンB群同様、精製加工で失われやすく、また同様に飲酒・ストレスで大量に消費されます。
 ビタミンB群やカルシウム・マグネシウムをバランス良くとるには、主食は白米ではなく麦・雑穀ご飯(麦2〜5割に、二分搗米または発芽玄米)にし、納豆や味噌汁などの大豆製品を必ず加え、さらに野菜・海藻類を豊富に取り入れた日本型食生活が最適です。
 発芽玄米には神経細胞の興奮を鎮める働きのあるギャバ(γ―アミノ酪酸、図3)も豊富です。
●脂肪酸のバランスを適正に
 紅花油などの植物油に多いリノール酸系列(n―6系列)の脂肪酸からは、血行を悪くしたり(虚血)、炎症をおこす物質がつくられ、神経痛の痛みを増強させます。リノール酸のとり過ぎで動脈硬化が進行することも神経痛の一因となります。
 一方、亜麻仁油やシソ油などに多いα―リノレン酸や、魚油に多いDHA、EPAといったn―3系列の脂肪酸には、リノール酸系列(n―6系列)の作用を競合的に抑える働きがあります。
 リノール酸は穀類や豆類などの種実類から十分とれるのでわざわざ油としてとる必要はなく、ドレッシングや野菜炒めなどにα―リノレン酸の多い油(シソ油やエゴマ油、亜麻仁油など)を少量用いると良いでしょう。
●その他、神経痛の予防に役立つ栄養素
 神経系の過剰な炎症を鎮めるには、ビタミンACEや、抗酸化酵素の活性を高めるセレン・亜鉛・銅・マンガン・鉄、植物性生理活性物質のポリフェノール・フラボノイド・カロチノイドなど、抗酸化物質を十分に摂取することも大切です。
 ビタミンEは血行の促進にも役立ち、神経細胞への酸素・栄養の供給や老廃物の代謝をスムーズにします。
 適量のセレンや亜鉛は胸腺や扁桃腺群の老化も防いで免疫力を高め、ウイルス感染が引き金となる神経痛を予防します。
ストレス対策も重要 神経痛は、精神的ショックを受けたり気分が落ち込んだときに症状が強くなったり、再発することがあり、医療機関でも神経痛の治療に抗うつ薬が用いられることがあります。
 これは、私たちの体に備わっている痛みを抑える疼痛抑制系の神経が、うつ状態では十分に機能しなくなるためです。痛みに対する恐怖や不安が交感神経を刺激するのも、神経痛の悪化につながります。
 何かに熱中しているときには痛みを忘れていることがよくあるものです。趣味や生きがいを持ち、常に前向きな気持ちで楽しく生活することを心がけましょう。
 リラックス効果を得るには温泉もおすすめです。温泉の効能によく"神経痛"を見かけますが、実際、入浴で神経痛の痛みが軽くなる例は多く、これには血行が良くなって代謝が改善されるという相乗効果もあります。
 ストレッチ体操やダンベル体操、少し汗ばむ程度のウォーキング、温水プールでの水中歩行、気功・ヨガなど静的な運動も血行を促進するのに役立ちます。激しい運動は神経にふれるので危険です。
 この他、鍼や灸を試してみるのも一考です。ショウガなどを使った間接灸なら跡もつかず自分一人でも出来ます。