生理痛・

――子宮内膜症・子宮筋腫――

 ひどい生理痛の背後には、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が潜んでいることもあります。
 これらは女性のライフスタイルの変化や、食生活の欧米化、環境汚染などに伴って増えている女性特有の現代病で、生理痛や腰痛、貧血などを伴うだけでなく、不妊症の原因にもなります。

急増する子宮内膜症

 子宮内膜症は先進国を中心に増加傾向にあり、97年の厚生労働省の調査では、治療を受けている患者は約12万8千人、医療機関にかかっていない人も含めると患者数は100万人とも300万人ともいわれます。20〜30代の若い女性に多く、この年代の女性がかかる病気のトップを占めています(図1)。
 子宮内膜症は、子宮にしかないはずの子宮内膜組織が子宮以外の場所、例えば卵巣や腹膜などにできて増殖する病気です。正常な子宮内膜は受精卵の着床に備えて増殖し、受精が行われないとはがれて血液とともに体外に排出され月経となりますが、これと同じことが子宮以外の場所でもおこってしまい、出口がないので体内にたまって炎症をおこしたり、周辺の臓器と癒着をおこしたりします。
 激しい生理痛が特徴的で、日本子宮内膜症協会が患者324人に行ったアンケート調査では、10人に1人は救急車を呼んだ経験があり、4人に1人は転げまわるほどの痛みで鎮痛剤も効かないと訴えています。生理時以外の下腹部痛、腰痛、性交痛、排便痛などの症状もあり、患者の30%には不妊症も認められます。
 子宮以外の場所で子宮内膜組織が増殖するしくみとしては、
・生理時の血液が逆流し、血中に含まれていた子宮内膜細胞がたどり着いた先で増殖する
・本来は子宮内膜ではない細胞が、子宮内膜に似た組織に変化する――などの説がいわれ、いずれにしても女性ホルモンのエストロゲンの過剰な刺激が、子宮外の子宮内膜組織の増殖を促していると考えられています。
・また、今月号巻頭インタビューに御登場いただいた西原克成先生は、人類が直立二足歩行するようになった結果、背骨が内臓を支えられなくなり、飛んだりはねたりすると子宮が踊って、子宮内膜細胞が腹腔内に散らばると説明しています。この古くなった子宮内膜細胞を見つけ出して消化するのが白血球の役割で、白血球の消化力を高めるには、鼻呼吸をはじめ、十分な休養と睡眠(骨休め)、保温・適温の保持、偏食をせずしっかり咀嚼、正しい姿勢、腹式横隔膜呼吸――等をすすめられています(巻頭インタビュー参照)。若年化する子宮筋腫 子宮筋腫も近年増えている婦人科系・br> セ患の一つで、成人女性の20〜40%が子宮筋腫をもっているといわれます。30〜40代の中年女性に多くみられますが(図2)、最近は
20代の女性にも増えてきています。
 子宮筋腫は、子宮の筋肉の層にできる良性の腫瘍で、転移・がん化はせず、閉経すると自然に小さくなっていくので、命にかかわる病気ではありません。
 しかし、筋腫ができる場所によっては、過多月経やそれに伴う貧血・めまいをおこしたり、子宮が攣縮したり、筋腫がねじれて急激な腹痛をおこす恐れもあります。子宮内膜症との合併も多く、この場合は生理痛が強くなります。筋腫が骨盤の神経や血管を圧迫すると腰痛に、直腸や膀胱を圧迫すると便秘や頻尿に、卵管を圧迫したり受精卵の着床を妨げると不妊・流産の原因となります。
 子宮筋腫は、・初潮前にはほとんどみられない、・女性ホルモンの分泌が活発な30〜40代に多い、・閉経後は自然に縮小・消失する――などの理由から、子宮内膜症同様、女性ホルモンのエストロゲンが深くかかわっていると考えられています。

増加の背景に、現代社会特有の問題

 エストロゲンそのものは、骨にカルシウムをたくわえたり、正常な月経周期を維持するために必要なホルモンですが、過剰な刺激は子宮内膜症や子宮筋腫だけでなく、子宮がんや卵巣がん、乳がんなど婦人科系がんの引き金にもなるといわれます。
 エストロゲンが過剰になる原因としては、次のような現代社会特有の問題が指摘されています。
・女性のライフスタイルの変化
 まず第一に、初潮年齢の低下、出産年齢の上昇、少産化に伴う月経回数の増加があげられます。月経回数が増えれば増えるほど、長期にわたってエストロゲンの影響を受けることになり、それだけ子宮への負担も大きくなります。
 若い女性に子宮筋腫が増えているのも初潮年齢が低下しているためといわれ、日本人の初潮年齢は92年の調査では12歳3ヶ月と、世界的にもきわめて低い数字となっています。
・食生活の欧米化
 初潮年齢が早まった背景には、昔に比べて栄養が十分とれるようになったことの他に、食生活の欧米化で動物性食品を多くとるようになったことの影響がいわれています。
 肉・卵・牛乳などの動物性食品には、家畜に大量に与えられる成長促進ホルモン剤や女性ホルモン剤が含まれている可能性があり、それを食べた人間にも早熟化やエストロゲン過剰をもたらしている疑いが指摘されています。
 また、コレステロールはエストロゲンの材料になるので、動物性高脂肪食や油のとり過ぎはエストロゲンの分泌過多を招きます。
 さらに、欧米型の高脂肪食は肥満の原因にもなります。体脂肪からはエストロゲンが少しずつ血液中に溶け出すので、肥満女性は常に血中に余分なエストロゲンが放出されている状態になり、エストロゲンの影響を過剰に受けやすくなります。
・ダイオキシン汚染
 近年注目されているのが、ダイオキシンをはじめとする内分泌撹乱化学物質、いわゆる環境ホルモンの影響です。
 アカゲザルにダイオキシンを含む餌を4年間与えた研究では、ダイオキシン濃度の高い餌を与えた群ほど、10年後に子宮内膜症が多発・重症化したことが報告されています(米国のウィスコンシン大霊長類研究センター・ボーマン博士ら)。
 また、子宮内膜症の症状の重い患者は、軽症の患者に比べ、皮下脂肪中のダイオキシン濃度が78%も高いという報告もあります(東大病院分院の堤治教授ら)。
 子宮内では、女性ホルモンの分解とアレルギーを誘発するサイトカインという物質が分泌されており、ダイオキシンはサイトカインを異常に多く分泌させることで子宮内膜症を誘発するのではないかと考えられています。
 ダイオキシンは動物の脂肪組織に蓄積され、食物連鎖を通じて濃縮されていくので、魚・肉・牛乳などの動物性食品から多くとり込まれます(図3)。特に、汚染のひどい日本近海でとれる脂身の多い魚は要注意です。

食事・栄養療法

 以上のような理由から、子宮内膜症や子宮筋腫の予防・改善には、高脂肪食の摂取を減らすことが第一のポイントになります。
 食事・栄養面ではさらに、次のような点を心がけましょう。
〈ホルモンバランスを整える〉
 エストロゲンの過剰な刺激が子宮内膜症や子宮筋腫をもたらす一方、同じ女性ホルモンのプロゲステロンには、これらを防ぐ効果が報告されています。プロゲステロンは妊娠中に多く分泌されるので、出産年齢の上昇や少産化は、プロゲステロンの恩恵が十分に受けられないことにもつながっています。
 ビタミンB群のナイアシンは、エストロゲンやプロゲステロンの合成に不可欠で、両者のバランスを整えるのにも重要な役割をします。ビタミンE、亜鉛も性ホルモンの正常な分泌・合成を助けます。また、大豆フラボノイドのイソフラボンは、穏やかな女性ホルモン様作用によって、過剰なエストロゲンの作用を抑えます。
〈細胞分裂を正常にする〉
 本来は子宮内膜でない組織が増殖したり、良性といえども腫瘍が生じてくるということは、細胞分裂に異常がおこっていることを意味します。粘膜細胞の新生・保護に働くビタミンAや葉酸、ビタミンC、正常な細胞分裂を促す亜鉛の摂取を心がけましょう。
〈炎症を鎮める〉
 激しい生理痛の背後には、活性酸素による炎症がおこっていることが考えられます。抗酸化ビタミンACEや、抗酸化酵素の活性に必要なセレン、亜鉛、銅、マンガン、鉄などのミネラル、ポリフェノールやカロチノイドなどの植物性抗酸化物質(ファイトケミカル)をバランスよく総合的にかつ十分にとることが大切です。
〈貧血対策〉
 月経過多に伴う貧血には、鉄、銅、亜鉛、ビタミンB6、B12、葉酸、ビタミンCなど、赤血球の産生を助ける微量栄養素が重要です。赤血球のヘモグロビンは鉄と蛋白質で構成されているので、穀類と豆類の組み合わせで良質の蛋白質をつくる必須アミノ酸をしっかり確保することも大事です。
 過多月経や大量出血を防ぐには、血液凝固作用のあるビタミンKが役立ちます。
〈ダイオキシン対策〉
 食物繊維にはダイオキシンを物理的に吸着し、便とともに体外へ排泄する働きがあります。麦・雑穀類、野菜類、豆類、芋類、キノコ類、海草類などを豊富にとり入れた伝統的な和食で、食物繊維をしっかり確保しましょう。
 ほうれん草などに付着したダイオキシン類は、ゆでれば5分の1程度にまで減らせます。水洗い、ゆでこぼしなど、調理時に毒性を取り除くことも大切です。
 毎日の暮らしの中でダイオキシンを出さないようにすることも重要です。ダイオキシンの多くは塩素を含むプラスチックやビニールなどの焼却から発生するので、塩ビ製品は買わないようにする、買い物袋を持参し、過剰包装は拒否する、ゴミの分別を徹底する――といった消費者一人一人の努力が求められます。