生理痛・

――月経困難症・月経前症候群――

 多くの女性が、生理痛(下腹や腰の痛み)や生理にまつわる不快症状(頭痛、ムクミ、吐き気、眠気、イライラ、うつなど)を、大なり小なり経験しています。学校や会社を休む、家事ができないなど、日常生活に支障を来すほど重い症状に悩まされている人もいます。
 食事・栄養を中心に、生活習慣の見直しで生理痛を解決しましょう。
子宮内の血流低下が原因 日常生活に支障を来すほどのひどい生理痛や不快症状が、生理の約1週間前からあらわれて生理が始まると軽快する場合を「月経前症候群(PMS)」、生理前から生理中も続く場合を「月経困難症」といいます。
 子宮には、栄養や酸素を胎児に十分に送るために毛細血管が網の目のように張りめぐらされ、子宮は血液のプールになっています。
 月経前症候群も月経困難症も、この子宮内の血液の流れが悪くなることが原因と考えられ、子宮内の血流低下を招く要因としては、
・ホルモンバランスの失調
・欧米型の食生活
・糖代謝がうまくいかない
・ビタミンB群やマグネシウムの不足
・骨盤のズレと不正姿勢
・運動不足――などがあります。
まずは食生活の改善から 血流を良くして生理痛を改善するには、毎日の食生活が大きなポイントとなります。
〈熱源は、麦・雑穀ご飯でしっかり確保〉
 生理痛を訴える女性は、同時に冷え症のケースが多くみられます。冷えは血液の循環を妨げたり、体内の酵素活性を低下させてホルモンバランスを乱し、子宮や卵巣の機能を低下させます(図1)。
 糖質・脂質・蛋白質を体内で熱に変えるには、ビタミンB群、クロム、亜鉛、マンガンなどが必要で、これらは穀類の胚芽部に多く含まれます。熱源は、麦・雑穀ご飯(麦2〜5割に、二分搗米または発芽玄米)で確保しましょう。
 動物性食品は一般には体を温めると考えられていますが、肉食をすると赤血球が固まって血液が粘っこくなり、血行が阻害されて、かえって冷える元になります。
〈低血糖を招く白米・白砂糖は厳禁〉
 生理に伴うイライラやうつ症状を和らげるには、脳細胞のエネルギー源となるブドウ糖を十分に確保することが大切です。麦・雑穀ご飯はブドウ糖の供給源としても優れています。
 白米などの精製穀類は、糖の代謝に必要なビタミンB群が取り去られているため、ブドウ糖が脳で有効に利用できません。
 特に白砂糖は厳禁です。生理前に無性に甘い物を食べたくなる女性がいますが、白砂糖のとり過ぎは一時的高血糖のあと低血糖症を招き、脳に必要なブドウ糖が不足してイライラを募らせます。
〈大豆製品を組み合わせて、必須アミノ酸を100点満点に〉
 必須アミノ酸のトリプトファンからは精神安定作用のある神経伝達物質セロトニンがつくられ、生理時のイライラ解消に役立ちます。穀類+豆類の組み合わせは、互いに不足する必須アミノ酸を補い合い、必須アミノ酸がパーフェクトで揃うので、主食の麦・雑穀ご飯には必ず、納豆や味噌などの大豆発酵食品を加えましょう。
 大豆にはホルモンバランスを整えるイソフラボンも含まれ、生理痛に優れた効果を発揮します。
〈子宮を収縮させるリノール酸のとり過ぎに注意〉
 月経困難症の女性は、子宮を収縮させるプロスタグランジンという局所ホルモンの量が多いことが分かっています(図2)。
 このプロスタグランジンは植物油に多いリノール酸(n―6)系列の脂肪酸からつくられ、一方、シソ油や亜麻仁油などα―リノレン酸(n―3)系列の脂肪酸にはそれを抑える働きがあります。
 油は全体量を控えると共に、リノール酸系列とα―リノレン酸系列の摂取比率は2対1〜1対1が理想的です。
 なお、経口避妊薬のピルにはプロスタグランジンを抑える効果がありますが、安易な使用は副作用を招く恐れもあります。

キーミネラルはマグネシウム

 生理痛には、今お話した子宮の収縮・痙攣からくるものと、ムクミからくるものとの二つのタイプがあり、微量栄養素ではどちらもマグネシウムが関係しています。
〈ムクミ〉マグネシウムが不足すると細胞膜の"ナトリウム・カリウムポンプ"の働きが円滑にいかず、ナトリウムが細胞内にどんどん入り込んできて、細胞内にたまったナトリウムは浸透圧の関係で細胞内に水を呼び込み、細胞はパンパンにふくれてしまいます。
 血管壁の細胞にムクミがおこると、子宮内の血行が阻害され、生理痛がおこります。
 また、手足や顔もむくみやすくなり、生理でムクミがおきる人は基本的にマグネシウム不足が原因で、これが生理時のホルモンの変動で助長されると考えられます。
〈痙攣〉マグネシウム不足はまた、細胞内へのカルシウムの流入を招き、細胞内に過剰にカルシウムが入り込むと細胞が収縮し放しになってしまいます。子宮内膜血管系の攣縮が引き起こされる結果、痛みが生じると考えられます。
 マグネシウムは未精白穀類、豆類、海草類、緑黄色野菜に多く、高脂肪・高蛋白食や精製加工食品の多い現代型食生活では不足が心配されます。さらに、飲酒や肉体的および精神的ストレスでも非常に失われやすいので、積極的な摂取を心がけたいものです。

キービタミンはB群とE

●ビタミンBの不足もムクミをおこし血流を悪くします。また、免疫力が低下すると体はむくみやすくなりますが、Bは免疫機能にも重要です。
●ビタミンBはホルモンの合成に必要で、生理痛の直接の原因となるホルモンの失調を防ぎます。
 さらにマグネシウムの吸収を良くする働きもあります。
 イギリスの研究では、1日50〜100mgのビタミンBをとった女性は、とらなかった女性に比べて月経前症候群の諸症状の改善率が約2倍、うつ症状の改善率も約70%高かったと報告されています。
 ホルモンの合成には、亜鉛、マンガン、ビタミンEなども必要で、ホルモンが分泌されるときの酵素反応にはカルシウムが必要です。
●ビタミンB12や葉酸は、貧血の改善に重要です。鉄や銅と共に不足に注意しましょう。血液量の多い生理では貧血を併発しがちで、めまい、倦怠感、集中力低下などもおこしやすくなります。
●ビタミンEは毛細血管を広げて血行を良くし、子宮の筋肉の収縮を和らげます。
 また、ビタミンEには、体内の天然の麻酔物質エンドルフィンの分泌を促したり、子宮を収縮させるプロスタグランジンの分泌をコントロールする作用もあります。

その他、生理痛に重要なビタミン・ミネラルetc.

●亜鉛、セレン、カルシウムは、生理痛に関係するといわれる有害金属の解毒に働きます。
 海外の研究では、月経前症候群の女性(56人)は健康な女性(14人)に比べて毛髪中の鉛濃度が34%高く、特に生理前のうつ症状がひどかった2人の鉛濃度は14倍にも達していたと報告されています。水銀、カドミウム、スズなどもホルモンのアンバランスを招くことが指摘されています。
 亜鉛は有害金属の解毒に働く蛋白質のメタロチオネインの合成に不可欠で、セレンやカルシウムは体内で有害重金属と拮抗して毒性を抑え込む働きがあります。
 なお、カルシウムには精神安定作用、セレンには炎症(痛み)を緩和する作用もあります。また、第二次性徴期に亜鉛が不足すると、子宮や卵巣の発育が遅れ、生理痛や生理時の不快症状がおこりやすくなるともいわれます。
●パントテン酸、ビタミンC、マグネシウムは、ストレスに強い体をつくります。ストレスは脳の視床下部に影響を及ぼしてホルモンの変調を招きます。
●植物成分も上手に活用しましょう。コケモモのアントシアノサイドには子宮の筋肉を弛緩させる作用があり、セリ科のアンジェリカ、マメ科の甘草の根(多年草)にも生理痛を和らげる効果が報告されています。イチョウ葉エキスは子宮内の血流改善に役立ちます。
●漢方薬も生理痛に優れた効果が報告されています(図3)。自分にどの漢方薬が合うかは、漢方に詳しい婦人科医や最寄りの漢方薬局にご相談下さい。

日常生活の注意

●体を冷やさない
 子宮などは腸の延長器官と考えられています。お腹を冷やさないためには、夏でも冷蔵庫で冷やしたものは徹底してとらないようにします。果物は朝だけ少量摂取、食間にチョビチョビとる水分も体温以上、できたら40℃程度の温湯にし、ごくごく少量の自然塩(濃度は0・6%位が理想)を溶かして飲むと良いでしょう。
 刺激物となるカフェイン含有食品(コーヒー、コーラ、お茶など)は生理痛には大敵で、強い利尿作用が冷えや血行阻害の原因になります。
 5本指靴下やレッグウォーマーを履いて足を冷やさないようにしたり、カイロで腰を温めるのも効果的です。半身浴や足湯もおすすめです。
●適度な運動とストレス対策
 ストレッチ体操やマッサージで腰の鬱血を解消したり、ウォーキング、ラジオ体操など、毎日の適度な運動で血行を良くすることも大切です。ただし、生理中の激しい運動や重労働は女性の体を壊し、不妊症になる危険性もあるので要注意です。呼吸法を伴うヨガや気功など静的な運動はストレスにも有効なのですすめられます。
 生理中はのんびりと過ごし、テレビや映画、読書なども刺激的な内容のもの、感動の深いものは避けた方が無難です。リラックスするには、アロマテラピーなどを活用するのも良いでしょう。
 なお、ひどい生理痛の背後には、子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患が潜んでいることもあります。次回は、これらの病気についてお話しします。