腎臓病・

――増えている腎臓病――

 腎臓は、血液を濾過して老廃物を尿に排泄したり、体内の水分やミネラルバランスを調節する重要な臓器です。腎臓の機能が低下すると、体内に老廃物や余分な水分がたまって健康が脅かされ、ついには腎不全から、人工透析を余儀なくされてしまいます。
 透析患者数はここ10年間で2倍以上に増えており(図1)、透析にかかる医療費総額は年間約1兆円といわれます。
 腎臓病が増えている背景について探っていきましょう。
腎臓の仕組みと役割 腎臓は、握り拳大の空豆のような形をした臓器で、腰の少し上に背骨を挟んで左右1個ずつあります(図2)。
 主な働きは次の三つです。
・尿をつくる
 体内で生じた老廃物は血液と共に腎臓に流れ込み、毛細血管が糸球状になった「糸球体」で濾過されます。濾過された原尿は「尿細管」に送られ、そこでブドウ糖・アミノ酸・ミネラル・水分など、体に必要なものが再吸収されて、残ったものが最終的に尿として排泄されます。
・体液の濃度を調節する
 細胞内外の水分やミネラル(ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなど)のバランスを調節し、体液の濃度を一定に保つ役割もあります。
・ホルモンをつくる
 血圧の調節にかかわる「レニン」や、骨髄での赤血球の産生を促す「エリスロポエチン」などのホルモンを分泌します。また、カルシウムの吸収を助けるビタミンDを活性化するホルモンも、腎臓でつくられます。

代表的な腎臓病

 このように、腎臓は私たちが生きていく上で重要な役割を担っており、腎臓の機能低下が進むと命にかかわります。
 腎臓のトラブルには次のようなものがあります。
〈腎臓病の中で最も多い――慢性腎炎〉
 腎臓におこる炎症をまとめて腎炎と呼びますが、一般には糸球体腎炎のことをさし、急性と慢性があります。
 急性腎炎は、溶血性連鎖球菌などの感染が引き金となって扁桃炎などが引き起こされ、このときに菌が放出する毒素によって腎臓の糸球体に炎症がおこります。子供に多く、きちんと治療すれば1年以内には完治します。
 一方、症状が1年以上続くものを慢性腎炎といい、腎臓病の中でも最も多い病気です。急性腎炎から移行するものと、自覚症状のないまま発症して慢性化するものとがあり、発症にはアレルギーと同じような免疫反応の異常が関係していると考えられています。
 原因となる抗原はまだ分かっていませんが、・卵や牛乳などの食物、・インフルエンザ菌、また、・自己抗体といって、自分の体が持っているものが抗原になっているという説もあります。
 慢性腎炎などが進行して糸球体の破壊が進むと、大量の蛋白が尿中に漏れ出し、低蛋白血症をおこします。それに伴い、強いむくみや高脂血症があらわれた状態をネフローゼ症候群といいます。
〈急増している――糖尿病性腎症〉
 糖尿病の急増に伴い、近年目立って増えているのが、糖尿病の三大合併症の一つである糖尿病性腎症です。糖尿病患者約690万人のうち80万人が糖尿病性腎症とみられています。
 糖尿病性腎症がもとで新たに人工透析を受けるようになった患者数は、98年に初めて1万人を超え、慢性腎炎に代わって透析原因のトップとなりました。
 糖尿病で高血糖の状態が続くと、全身の細い血管にダメージが広がってきます(細小血管症)。腎臓の糸球体は毛細血管が精妙に組み合わさった非常にデリケートな構造をしているので、特に影響を受けやすくなります。
 また、ブドウ糖が腎臓の組織の中にまで入り込んで蛋白と結びつき、組織そのものを変性させてしまうことも糖尿病性腎症の引き金になります。
〈全身性の病気に伴う――腎硬化症、痛風腎など〉
 糖尿病性腎症の他にも、全身性の病気に伴う腎障害として次のようなものがあります。
・腎硬化症 高血圧が長く続くと、糸球体を形成する毛細血管に動脈硬化がおこってきます。
・痛風腎 痛風の合併症として、過剰な尿酸が尿細管に沈着することで腎機能が低下します。
・膠原病に伴う腎疾患 膠原病は、全身の組織に炎症と変性がおこる自己免疫疾患の総称です。全身性エリテマトーデスなどの膠原病の症状の一つとして、腎臓に障害がおこる場合もあります。
〈透析が必要になる――腎不全〉 腎臓の働きが著しく低下した状態が腎不全です。
 外傷や手術、心筋梗塞など、何らかの原因によって急激に腎機能が低下した状態を急性腎不全といい、これは原因が改善されれば腎臓の機能は元に戻ります。
 一方、慢性腎不全では、腎臓の機能低下が数ヶ月〜数年かけて徐々に進行していきます。あらゆる腎臓疾患が原因となりますが、特に慢性腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症などが進行して慢性腎不全に至るケースが多くみられます。
 腎臓には予備能力があるため、機能が50%程度まで落ちても自覚症状はあらわれません。50%以下になると、夜中に何度もトイレに起きる夜間頻尿がおこるようになり、30%以下になると、貧血、むくみ、高血圧、不整脈などがおこってきます。10%以下になると、体内に大量に老廃物が蓄積され、吐き気、けいれん、呼吸困難、心不全、意識障害などをおこすようになります(尿毒症)。こうなると人工透析に頼らなければ生きていけなくなってしまいます。
 人工透析になると、透析のために長時間拘束されたり、食事や水の摂取に厳しい制限が加わるなど、患者のQOL(Quality Of Life生命・生活の質)は著しく低下してしまいます。また、微量ミネラルのバランス異常もおこりやすく、それによる健康障害も心配されます。

腎臓病がおこる背景には
――遺伝子に合わない食生活が病気を招く――

 腎臓病がおこってくる背景にはさまざまな要因が考えられますが、糖尿病や高血圧など生活習慣病に伴う腎臓病が急増していること、また、腎炎の一因にアレルギーのような免疫反応の異常が関係していることなどから、やはり食生活の問題を切り離して考えることはできないでしょう。
 本誌では常々、"命のもとは食べ物"であり、卵・牛乳・油・砂糖・肉など、"体に合わないものは食べない"よう提案しています。これらはすべて、アレルギーの引き金となる食品です。
・動物性高蛋白食の害
 人間はよく雑食性といわれますが、爪や歯の形態が獲物をとって食べるのに適していないこと、ゴリラやボノボなどの類人猿がほぼ植物食であることなどから、本来は植物食性の動物であることが分かっています。
 この遺伝子に逆らって、卵・牛乳・肉などの動物性高蛋白食品をたくさん食べても、植物食性動物出身の人間の消化液ではうまく消化することはできません。未消化のポリペプチド(蛋白質がアミノ酸に分解される途中の物質)が腸から吸収されると、体はこれを異物とみなし、過剰な免疫反応をおこして攻撃(血中での消化・分解)にかかります。このあおりを食っているのがアレルギーです。腎炎の発症にも同様のメカニズムが働いている可能性が考えられます。
 また、十分に消化されなかった蛋白質は、腸内で腐敗して様々な毒素を生み出します。これが腸から吸収されると、血液にのって全身にまわり、全身の細胞や組織、免疫システムを傷めつけるもとになり、腎臓にも悪影響を及ぼします。
・高脂肪食の害
 油のとり方では、その摂取量と共に、リノール酸(n―6)系列とα―リノレン酸(n―3)系列の脂肪酸のバランスが問題になります。日本人の脂肪の摂取量は昭和30年代の約3倍にものぼり、中でも目立って増えているのが、リノール酸系の植物油です(図3)。
 リノール酸系列の脂肪酸からは、血の巡りを悪くしたり(虚血)、炎症をもたらしたりするプロスタグランジンやロイコトリエンなどの物質がつくられ、その結果、高血圧やアレルギー、がんなどが引き起こされます。当然、腎臓の血管に動脈硬化をおこしたり、炎症を引き起こす原因にもなります。
・白砂糖の害
 砂糖のとり過ぎもアレルギーや自己免疫疾患をおこしやすくなるといわれています。
 なお、免疫の異常を招くという点では、口呼吸の習慣をもつ人も危ないといわれています。
 体に合わない食べ物、遺伝子に逆らった食生活が腎臓に打撃を与えていることを理解した上で、次回は生活習慣の注意も含めて、腎臓病の食事・栄養療法について述べたいと思います。