がん

――食事・栄養療法――

 前回お話ししたように、肺がん、大腸がん、乳がんなどの欧米型がん急増の最大の原因は、高脂肪・高蛋白・低繊維に偏りがちな欧米型食生活です。
 本誌が提唱する"麦・雑穀ご飯(麦2〜5割に、米は発芽玄米か二分搗米)を主食に、納豆、具沢山の味噌汁(野菜、海藻、豆腐、芋など)"の根本的食生活改善こそ、がん予防の鍵です。
 がん闘病中の方はさらに、免疫力を高めたり、活性酸素を消去するための食事・栄養療法が重要になります。

生活習慣改善でがんの70%は防げる

 欧米型の食生活に加え、残留農薬や食品添加物、タバコの煙、車の排ガスなど、食物からも空気からも発がん物質が容赦なく入り込んでくる現代、健康な人の体内でも毎日3000〜6000個の変異細胞(がん細胞の一歩手前の細胞)がつくられているといわれます。
 しかし、実際に発がん死に至るのは統計上は約4人に1人です。がん細胞が腫瘍になる前に、免疫を担当する白血球ががん細胞を殺したり、細胞自身の自殺(アポトーシス)が促されたり、酵素が傷ついた遺伝子を修復したりするからです。
 私たちの体に備わっているこうしたしくみを"自然治癒能力"といいます。
 がんになってしまう人は自然治癒能力が弱っていると考えられ、言い換えれば、自然治癒能力を高める工夫をすれば、がんは予防できるということになります。
 今、がんは発がんや発がん促進にかかわる要因を退け、免疫力を高める生活を心がければ70%は防げるといわれ、国立がんセンターでは、がんを防ぐ12ヶ条として、食生活を中心とした生活習慣の改善をかかげています(表)。

闘病中はギリギリの少食に

 以上の注意点に加えて、がん闘病中の食生活にはさらに慎重さが求められます。
 がんは、活発に細胞分裂して急速に大きくなっていく性質があり、分裂・増殖のための栄養を確保するのに専用の新生血管をつくってしまうほどです。そのため、患者が体力をつけようと食事を多めにとっても、逆に栄養の大部分をがんが横取りしてしまう危険性があります。
 こうなるとがんは増殖の勢いを増し、毒素を放出して血液成分を破壊・悪液質化し、かえって正常な組織は栄養不良になって、体はやせていってしまいます。
 そこで、がんの勢いを抑える一つの方法として、蛋白質、糖質、脂質などの三大栄養素の摂取は最小限にし、ギリギリの少食(極限は断食ですが、信頼できる医師のもとで行わないと危険)に徹すれば、がんの方が先にまいって分裂増殖できなくなり、内部から崩壊し始めるチャンスが生まれます。
 その一方で、がんと闘うための免疫力を強化したり、活性酸素を消去するために、ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素群や植物性生理活性物質(ファイトケミカル)は積極的に確保していく必要があります。

免疫力を高めるには

 免疫の主役となって働くのは白血球です。白血球は全身をパトロールして、自分と同じ遺伝子をもつ「自己」か、自分とは違う遺伝子をもつ「非自己」かを見極め、体内の異物(非自己)を排除する、いわば警察官のような役目をしています。遺伝子に異常を来した変異細胞やがん細胞は当然「非自己」と認知され、腫瘍として増殖する前にどんどん抹殺されます。
 しかし時には、白血球がボケてがん細胞を見逃してしまったり、がんと見抜いて戦っても、がん細胞の増殖の勢いの方が強くて白血球が負けてしまうこともあります。こういう時にがんになるのです。
 白血球の中でも一番数が多いのはリンパ球のT細胞です。T細胞は骨髄で生まれ、胸骨の後ろにある胸腺で約100日間かけて分化・成熟し、一人前のT細胞に成長します。つまり、胸腺は警察官(白血球)を訓練する警察学校にあたるわけですが、この胸腺は10〜15歳までが成長のピークで、その後は徐々に退化していきます。高齢者の胸腺が産生するT細胞の数は子供の15分の1程度と推測され、高齢になるにつれてがんを発症する人が増えるのは、胸腺が衰えてまともなT細胞が生み出せなくなることも一因と思われます。
 しかし、わずかでも残っている胸腺がフルに働いて優秀なT細胞をつくり出してくれれば、がんになる危険性はぐっと減らせるはずです。
 そこで、がん対策には、胸腺の老化防止に役立つ亜鉛やセレンの十分な確保がとても重要になります。

活性酸素の消去には

 また、発がんの3段階、aイニシエーション(開始)、bプロモーション(促進)、cプログレッション(増殖)では、いずれも活性酸素が悪さをしているので、これに対抗する抗酸化物質をしっかりとることも大切です。
・ビタミン 活性酸素対策の中心となって活躍する抗酸化ビタミンACEのベータカロチン、ビタミンC、Eをはじめ、
・ミネラル 体内に備わっているSODやグルタチオン・ペルオキシダーゼ、カタラーゼといった抗酸化酵素の活性に必要な、亜鉛、銅、マンガン、セレン、鉄、
・植物性抗酸化物質 植物自身が紫外線で発生する活性酸素から身を守るために葉中にたくさんたくわえている、フラボノイドやポリフェノールなどのファイトケミカル――を十分に確保しましょう。

がん予防に1日800gの野菜を

 アメリカでは、植物に含まれる機能性成分をがん予防に積極的に利用しようと、国立がん研究所を中心に「デザイナーフーズプログラム」がすすめられました(図1)。
 上位にランクしたニンニク、玉ねぎなどのユリ科植物や、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、芽キャベツなどのアブラナ科植物は、ともに抗酸化作用に優れたイオウ化合物を多く含んでいます。
 また、カロチノイドを含む緑黄色野菜(にんじんのベータカロチン、トマトのリコぺン、ブロッコリーのルティンなど)や、フラボノイドを含む食品(大豆のイソフラボン、玉ねぎのケルセチン、緑茶のカテキンなど)が多くあげられたのも特徴的です。
 野菜類は活性酸素の消去だけでなく、免疫力アップにも優れた効果を発揮します。
 帝京大学薬学部の山崎正利教授の研究では、野菜・果物・海藻類は白血球の働きを強めてTNF(抗腫瘍因子)の産生を高めることが確認されており、野菜のTNF活性はインターフェロン製剤に匹敵するものだと報告されています(図2)。
 アメリカがん研究財団は、がん予防には1日5種類以上、800gの野菜・果物の摂取をすすめています。野菜スープやジュースなどにして、汁も身も丸ごととるのがおすすめです。

その他、抗がん作用がいわれる食品・栄養成分

〈セレン大量療法〉免疫力を高めたり活性酸素を消去する作用だけでなく、セレン自身にがん細胞の増殖を阻害する働きがあると考えられ、がんの抑制には短期間のセレン大量摂取がいわれています。
 セレンはとり過ぎると中毒症状を起こしますが、毒性があるからこそがんもまいるのかもしれません。セレン中毒は、息が硫黄臭やニンニク臭がしたり、脱毛や爪の変形などで分かるので、これらの症状に注意しながら行うことが大切。残留性はなく、摂取量を減らせばすぐに体から出て行きます。
〈ビタミンA、葉酸〉粘膜細胞の新生・保護に働くビタミンAや葉酸は、粘膜を強化して発がん物質の侵入を防いだり、前がん状態の細胞を修復して、食道がんや胃がん、肺がんなど、粘膜のがん予防に役立ちます。
〈ビタミンC〉抗酸化作用の他、発がん物質のニトロソアミンの生成を抑え、胃がんや大腸がんを予防する働きがあります。
 また、1日10g(1万mg)という大量摂取で、末期がん患者の2割近くに1年以上の延命効果があるといわれています。
〈ビタミンD〉がんが新生血管をつくって分裂・増殖することはすでにお話ししましたが、ビタミンDは血管造成を抑え、がんを縮小させるのに役立つといわれます。
〈軟骨成分〉フカヒレやサメ軟骨、魚の煮こごりなど、軟骨成分に含まれるコンドロイチン硫酸も、新生血管の生成を阻害します。
 また、軟骨など結合組織に含まれる蛋白質のコラーゲンには、免疫力を強化する働きがあります。
〈キチン・キトサン〉カニやエビなど甲殻類の殻に含まれる動物性食物繊維のキチン・キトサンには、免疫力を高めるN―アセチルキトオリゴ糖やキトオリゴ糖といった成分が含まれ、がんの増殖や転移の抑制、がんの縮小に役立つと報告されています。
〈きのこ類〉きのこ類には免疫力を高める成分が豊富です。干し椎茸、舞茸、アガリクス茸などに多く含まれるβグルカンは、白血球の活性を強めると報告されています。椎茸に含まれるレンチナン、かわら茸のPSKは、実際に抗がん剤として利用されています。
〈南米紫イペ〉南米アマゾン原産のノウゼンカズラ科の樹木、紫イペの樹皮成分を試されるのも良いでしょう。
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 その他、がんと闘うための民間療法、代替療法については次回ご紹介します。