がん

――欧米型がんの急増と食生活――

 日本人の死因のトップを占めるがん。医療技術の向上にもかかわらず、がんの死亡数は年々増え続ける一方です(図1)。
 中でも、肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんなど、従来欧米に多かった欧米型がんの急増が目立ち(図2)、背景には食生活の欧米化の影響がいわれています。

欧米型がんが増えている

 昭和56年(1981年)に日本人の死因トップに踊り出て以後もがんは、医療技術の向上にもかかわらず上昇の一途をたどり(図1)、現在、年間3〜4人に1人はがんで亡くなっています。
 種類別にみると、もともと日本人に多かった胃がんや子宮頸がんが減少している一方で、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がんなど、従来欧米に多かったがんの増加が目立ちます(図2)。
 98年の厚生省の人口動態統計では、ついに肺がんが長い間トップだった胃がんを抜きました。
 こうした欧米型がんの急増の背景には、食生活をはじめとする生活習慣の欧米化の影響が指摘されています。
 もちろん、がんの発症には民族や家系など遺伝的要素も大きくかかわっていますが、ハワイやアメリカ西海岸などの日系二世、三世では、日本食を食べなくなるにつれて胃がんが減り、逆に欧米型の結腸がんなどが増えてくることから、発がんには生活習慣、中でも食生活が大きく影響していると考えられています。

動物性高蛋白食の問題
草食動物出身の人間は、卵・牛乳・肉の消化が苦手

 それでは、高脂肪・高蛋白・低繊維の欧米型食生活がなぜがんの急増を招いているのか。その原因を、まずは卵・牛乳・肉などの動物性の高蛋白食の問題から探っていきましょう。
 人間はよく雑食性だといわれますが、そもそもは草食型の遺伝子をもつ動物です。それは、人間の爪や歯の形態が、獲物をとって食べるのに適していないこと、また、ゴリラやボノボなどの類人猿がほぼ植物食であることからも明らかです。
 ですから、草食動物出身の人間は基本的に、消化器も消化液も草食動物型で、動物性の高蛋白食を上手に消化することができません。
 特に日本人の場合、鎖国や仏教の影響から、つい130年前の明治期まで四つ足動物をほとんど口にしなかったので、動物性蛋白質の消化が苦手な民族です。

高蛋白食は、発がんを促進する腸内腐敗物質を生む

 この遺伝子に逆らって卵・牛乳・肉を大量に食べ続けても、上手に消化できなかった動物性蛋白質は栄養とはならず、むしろ腸内悪玉菌の作用により、腸管内で腐敗して、アミン、アンモニア、硫化水素、インドール、スカトール、フェノール、メタンなど、多くの有毒物質・発がん促進物質を生み出します。
 血液は栄養だけでなくこれらの毒素も吸収して、全身の細胞に腸内腐敗物質を運びます。
 そして、細胞周辺でフリーラジカルや活性酸素を発生させて、遺伝子に突然変異をおこしたり、DNAの鎖を切断するなどの悪さをします。遺伝子に異常を生じた細胞は、無制限に分裂増殖したり、転移する性質を獲得し、がん細胞と化します。
 これを、発がんのイニシエーション(開始)といいます(図4参照)。
 イニシエーションの引き金となる物質にはこの他に、タバコの煙や車の排ガスに含まれる種々の化学物質、農薬、食品添加物などがあげられます。

蛋白質は"穀類と豆類"の組み合わせで確保

 このようなことから、がんの闘病中は特に動物性食品は完全に避けるべきです。蛋白質は植物性食品の組み合わせで確保しましょう。
 米と大豆の組み合わせは相性がよく、必須アミノ酸が理想に近いバランスで揃います。麦・雑穀ご飯(麦2〜5割に、米は発芽玄米か二分搗米)に、納豆、具沢山の味噌汁(野菜・海草・豆腐・芋など)――といったメニューが基本です。

高脂 肪食の問題
リノール酸のとり過ぎに伴う持続性の炎症も発がんを促進

 食生活の欧米化はまた、脂肪の大量摂取を招きました。
 日本人の脂肪の総摂取量は現在、昭和30年代の約3倍にものぼり、中でもリノール酸系の植物油(紅花油、ひまわり油、コーン油など)の増大が問題になっています(図3)。
 リノール酸は体内でアラキドン酸に変化し、過剰なアラキドン酸からは炎症をおこす物質(炎症メディエーター)がつくられます。
 遺伝子に異常を来した細胞は多くの場合、自殺(アポトーシス)したり、酵素によって修復されたり、免疫系によって抑え込まれたりしますが、このとき体内で持続性の炎症がおきていると、炎症組織に絶えず発生する活性酸素によって発がんが促進されることが、名古屋市立大学の奥山治美教授によって指摘されています(図4)。
 この段階をプロモーションといい、がんはさらにプログレッション(増殖)を経て進行していきます。
 例えば、マウスに針をさしたままにしておくと、やがてそこにがんができるのだそうですが、これは、針の先では周辺の細胞に慢性的に炎症がおきているからです。炎症で生まれる活性酸素は、核膜の酸化破壊を招き、中の遺伝子を傷つける確率がとても増えるのです。
 慢性胃炎の人が胃がんに、慢性肝炎の人が肝がんになりやすいのも同じ理屈からです。

油は極力減らし、とるなら α―リノレン酸系列を少量

 リノール酸↓アラキドン酸↓炎症メディエーターの亢進――という機序が欧米型がんの増加をもたらすのに対し、α―リノレン酸↓EPA(エイコサペンタエン酸)↓DHA(ドコサヘキサエン酸)というα―リノレン酸系列には、それを抑える作用があります(図4)。
 α―リノレン酸系列の脂肪酸は、野菜・海藻類や魚介類に多く含まれています。リノール酸の摂取量が増えているのに対し、魚嫌い・野菜離れからα―リノレン酸系列は不足しがち(図3)で、このリノール酸系列とα―リノレン酸系列とのアンバランスが、欧米型がん急増の一因になっていると指摘されています。
 油の摂取は極力減らすべきですが、どうしても使う場合はα―リノレン酸の多いシソ油、エゴマ油、亜麻仁油(フラックスオイル)をおすすめします。

低繊維食の問題

 食生活の欧米化につれて、以前は豊富にとっていた食物繊維の摂取量も少なくなり、必要量20〜25gのところ、現在では平均16g、若い世代では10g未満と、必要量の半分以下しかとっていません。
 食物繊維の不足から便秘になると、腸内に食物の残りカスが長くとどまるため、悪玉菌によって有毒物質がつくられやすくなり、大腸がんをはじめ全身の発がんが促進されます。
 特に不溶性の食物繊維は保水性が高く、大腸で便のカサを増やして便の通過時間を短縮し、便秘を防ぎます。また、水溶性の食物繊維には、発がん物質などを吸着して排泄したり、腸内善玉菌を増やして悪玉菌を抑える働きがあります。
 大麦には水溶性と不溶性の食物繊維がバランスよく含まれているので(図5)、食物繊維の摂取源としても主食の麦・雑穀ご飯はすすめられます。
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 具体的な食事・栄養療法については、次回からお話しします。