虚血性心疾患a

――狭心症・心筋梗塞――

 動脈硬化が主な原因となる、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、欧米では死因のトップを占めています。
 日本でも心臓病は最近、がんに次いで死因の第2位。かつて日本人の心臓病は心筋症の割合が多かったのが、食事を中心とする生活習慣の欧米化で、虚血性心疾患の急増が目立ちます(図1)。

狭心症は、心筋梗塞への第一歩

 心臓は、全身の細胞に血液(酸素と栄養)を送り出すポンプの役割をしています。その心臓自身に酸素や栄養を送っているのが、心臓の表面を王冠のように取り囲む冠動脈(図2)です。
 冠動脈の内径が、動脈硬化や血管のけいれんなどで狭まると、血流が妨げられて心臓の筋肉が酸素不足になり、きゅっと絞めつけられるような胸の痛みや圧迫感をおこします。これが「狭心症」で、主に3つのタイプに分けられます。
a労作性狭心症
 動脈硬化で、冠動脈の内径が70%以上狭くなると血液が流れにくくなります。この状態のときに、階段を上がったり、重い荷物を持ち上げたりなど身体活動が高まると、心筋に必要な血液量が増え、発作がおこりやすくなります。
b攣縮性狭心症(安静時狭心症)
 安静にしていても、冠動脈の筋肉が攣縮(けいれん、収縮)をおこすと、血管の内径は狭まります。この発作は秋から冬の寒い季節におこりやすく、また、1日のうちでは就寝時、明け方などにおこりやすいのが特徴的です。
c不安定狭心症
 初めての狭心症の発作が重い場合や、しばらく発作がなかったのに突然発作がおこった場合、従来の狭心症の症状が悪化した場合などを「不安定狭心症」といいます。不安定狭心症が心筋梗塞に移行する率は40〜50%と高いので、要注意です。動脈硬化をおこした血管の内膜が破れると、それを補修しようとして血小板や赤血球などが集まり、血栓をつくります。不安定狭心症では、血管内膜に小さな破裂がおこって血栓ができ、その血栓が血流で押し流されていることが多いのです。血栓が完全に冠動脈を塞いでしまうと心筋梗塞になります。
 狭心症は初めのうちは、胸の痛み、息苦しい、冷や汗、吐き気などの症状が数分で治まりますが、やがて発作の回数が増えてゆき、放っておくと本格的な心筋梗塞の発作につながります。

突然死につながる心筋梗塞

 動脈硬化で狭くなった冠動脈に血栓(血のかたまり)などがつまって、血流が極端に悪くなると、心筋の一部は死んでしまいます。これが「急性心筋梗塞」です。
 心筋梗塞では、心臓が張り裂けるような痛み、強い不安感を伴う激痛、痛みが腕や背中まで広がるなど、狭心症よりも強い痛みをおこし、それが数十分から数時間にわたって続きます。
 しかし、糖尿病などで神経が障害されている場合は、あまり痛みを感じないこともあり、その場合、対処の遅れが命とりになることもあります。
 そうでなくても、心筋梗塞は突然死につながる恐ろしい病気です。突然死とは「発症から24時間以内に死亡する内因性の死」のことで、突然死の原因の中では、心筋梗塞などの虚血性心疾患が最も多いことが分かっています(図3)。
 心筋梗塞の発作をおこすと、4割の人が病院へ到着する前に死亡するといわれています。
 このように、狭心症も心筋梗塞も、心筋の虚血(血液量の著しい減少)を伴うので、あわせて「虚血性心疾患」と呼ばれます。

脂質バランスと抗酸化物質で 動脈硬化を防ぐ

 狭心症にしても心筋梗塞にしても、虚血性心疾患の最大の引き金は動脈硬化です。
〈抗酸化物質を十分にとる〉
 動脈硬化の最大の危険因子はかつては悪玉コレステロールといわれるLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールといわれていましたが、最近の研究では、真の悪玉はLDLが活性酸素の攻撃で酸化された「酸化LDLコレステロール」といわれています。
 コレステロールの酸化を防ぐためには、抗酸化ビタミンのエース、ベータカロチン、ビタミンC、ビタミンEを始め、ミネラルでは亜鉛、セレン、鉄や銅、また、植物に含まれる多種類のフラボノイドやポリフェノールを、総合的にとることが大事です(巻頭インタビュー参照)。
〈n―3系の
α―リノレン酸の多い油を〉
 さらに、動脈硬化に重要なのが脂質のバランスです。
 体の中では合成できず、食物から必ずとらなければならない脂肪酸を「必須脂肪酸」といいます。必須脂肪酸には、リノール酸やα(アルファ)―リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸があり、近年、がんやアレルギー、動脈硬化が増えている背景には、この必須脂肪酸のアンバランスがあるといわれています。
 即ち、n―6系の大豆油や紅花油、ひまわり油に多いリノール酸のとり過ぎと、n―3系の紫蘇油やえごま油、亜麻仁油に多いα―リノレン酸や、魚油に多いDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)の不足です。
 リノール酸のとり過ぎは炎症や虚血を生みこれ自身が虚血性心疾患の原因になり、さらに虚血や炎症を起こすと体内では活性酸素が過剰に発生し、この過剰な活性酸素がLDLの酸化をもたらすのです。
 穀類や豆類に多いリノール酸は米や大豆などの食物から十分量とれます。一方、野菜や海藻に微量に含まれているα―リノレン酸は食物からとるだけでは不足しやすいので、サラダドレッシングや炒めものなどに、紫蘇油やえごま油などを適量とると効果的です(但し、いずれにしても、油のとりすぎは要注意です)。
 健康な人では、魚(特にイワシなどの青魚や寒流のサケなど)も、少量とるのは良いでしょう。

冠動脈の痙攣には ミネラルバランスとタウリン

〈ミネラルバランス〉
 冠動脈の筋肉が攣縮(けいれん)をおこす原因としては、ミネラルのアンバランスが引き金となっていることが考えられます。
 マグネシウムには、細胞内外のミネラルバランスを調節する作用があります。カルシウムに対してマグネシウムのとり方が少ないと、本来は細胞外ミネラルであるカルシウムとナトリウムが細胞内に大量に入り込み、代わりに細胞内のマグネシウムとカリウムは追い出されてしまいます。
 マグネシウム不足だけでなく、カルシウムの不足も、骨からカルシウムが溶け出して(脱灰)、細胞内にたまる一因となります。
 カルシウムには細胞を収縮させる性質があり、冠動脈の血管壁の筋肉細胞が収縮すると、虚血性心疾患の引き金になるのです(図4)。
 これらのミネラルをバランスよく摂取するには、未精製の穀類や野菜類、海藻類、豆類など、自然の食品を主体とした日本の伝統的な食生活を心がけることが大切です。
〈タウリン〉
 また、タコやイカ、貝類などに含まれるアミノ酸の一種、タウリンの不足も見逃せません。タウリンは高血圧の改善に役立つ他、心臓から出ていく血液の量を増やし、心臓の鬱血を防ぎます。実際に医薬品として心不全治療にも使われており、心臓に不安のある方は不足しないよう気をつけましょう。