脳梗塞a 脳梗塞が増えている

 脳卒中は1970年代まで日本人の死因のトップで、今なお、がん、心臓病と共に三大死因の一角を占める国民病です(図1)。
 死亡者数は減少傾向にあるものの、依然として年間14万人が死亡、患者数は173万人にのぼり、脳卒中患者そのものはむしろ増えています。
 中でも、脳梗塞の占める割合は年々大きくなっています。

脳卒中の8割は、脳梗塞

 脳卒中は、その原因別に、
a脳出血 主に高血圧によって脳の細い血管が破れて出血する
bくも膜下出血 脳動脈瘤が破れて、脳を包む軟膜とくも膜の間に出血がおこる
c脳梗塞 動脈硬化や血栓(血の塊)で脳の血管がつまり、酸素や栄養が送られなくなって脳細胞が壊死する――の3つに大きく分けられます。
 かつては日本人の脳卒中の大部分は脳出血が占めていましたが、栄養状態の向上で血管が丈夫になってきたことや、降圧薬の開発、減塩指導などが功を奏して高血圧がコントロールされるようになってきたのに伴い、次第に減ってきました。
 代わって増加してきたのが、脳梗塞です。昭和50年頃を境に脳梗塞が脳出血を逆転し(図2)、今では脳卒中の8割を脳梗塞が占めるといわれています。
 脳出血やくも膜下出血の発作が命にかかわることが多いのに対し、脳梗塞では、血管がつまる部位によっても違いますが、すぐに命を落とすことは少ないとされています。
 しかし、一命をとりとめても、後遺症が残ったり、寝たきりになったり、脳血管型痴呆症を引き起こすなど、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ、生命・生活の質)を著しく低下させることが恐れられています。

動脈硬化が最大の危険因子
||高血圧、高脂血症、糖尿病、心臓病

 それでは、なぜ脳梗塞が増えているのでしょうか。
 脳梗塞の最大の危険因子は動脈硬化で、高血圧や高脂血症、また糖尿病や心臓病も影響しています。
 高脂血症と酸化LDLでは、悪玉のLDL(低比重リポ蛋白コレステロール)が血管壁に溜まって動脈硬化の引き金となりますが、特に、活性酸素によって酸化された酸化LDLが真の悪玉になるといわれています。
 脳の血管には「マトウ細胞」という特殊な細胞があって、こうした酸化LDLなどを取り込んで処理する働きをしています。しかし、その能力もやがて限界になり、処理しきれなくなった酸化LDLが動脈硬化につながる他、酸化LDLで大きく膨らんだマトウ細胞自身が脳の血流を妨げて、動脈硬化とはまた別に脳梗塞を引き起こす危険因子になってしまうと報告されています。
 糖尿病では、血液中にあぶれたブドウ糖がコレステロールを糖化・変性させたり、活性酸素を消去する抗酸化物質にからみついてその働きを邪魔するなど、さまざまな悪さをして、動脈硬化を促進します。
 また、境界型や予備軍といわれるA型(インスリン非依存型)糖尿病の初期には、血糖値を下げるためにインスリンが普通より多く出ていることが多く(高インスリン血症)、過剰なインスリンは動脈硬化をおこしやすくすることも分かっています。
 心臓病がある人も脳梗塞には注意が必要です。心房細動などの不整脈が原因で心臓内にできた血栓が、脳に流れて血管をつまらせるケースがあるからです(脳塞栓)。脳塞栓は脳梗塞の25〜30%を占めるといわれています。
 脳梗塞が増えているのは、生活習慣病といわれるこれらの病気が増えているからで、背景には、日本人の食生活が高脂肪・高蛋白食の欧米型食生活に変化してきたことが大きく影響しています。
 また、加齢とともに血管の老化自体も進むので、高齢化社会でますます脳梗塞は増加していくと考えられています。

こんな症状があったら要注意!
脳梗塞のサイン"一過性脳虚血発作"

 脳卒中の発作はある日突然おこります。脳出血では頭痛、嘔吐や意識障害などの症状がおこり、くも膜下出血ではハンマーで殴られたような激しい頭痛に襲われます。
 脳梗塞では初めから意識が失われることはあまりなく、体の片側の麻痺、言葉が出てこない、バランスがとれない、物が二重に見える、食べ物が飲み込みにくい――等の症状がおこります。
 脳梗塞の場合にはしばしば、「一過性脳虚血発作(TIA)」という軽い前触れ症状があらわれます。急にろれつがまわらなくなる、手が震える、片方の手足の力が入らない、はしやペンを落とす、体の半分がしびれる、物が二重に見える、片方の目が見えなくなる――等、脳梗塞の発作時と同じような症状ですが、TIAは数分から長くても1日以内に症状が消えてしまいます。前触れ症状として注意が必要です。
 TIAは、血栓がつまるなどして一時的に脳の血流がとだえるためにおこります。たいていは血栓がすぐ流されたり自然に溶けるため大事には至りませんが、「放っておくと、TIAをおこした人の3割が5年以内に脳梗塞をおこす」と、順天堂大脳神経外科の新井一助教授は警告しています。
 TIAの段階で治療を始めておけば、脳梗塞にならずに済む場合が多いので、気になる症状があった場合は、自己判断せずに専門医の診察を受けることが大切です。

ひそかに進行する"無症候性脳梗塞"

 また、「脳ドック」の普及に伴い、新たに"無症候性脳梗塞"の存在が明らかになっています。
 これは、脳卒中の発作はもちろん、脳梗塞にみられる手足のしびれ等の神経症状もないのに、脳の中に小さな梗塞ができているという病気です。
 画像診断(MRIやMRA)で偶然発見されることが多く、高齢になるほどその頻度は高くなります(図3)。日本には、無症候性脳梗塞の患者が12〜15%いると推測されています。
 無症候性脳梗塞は、脳の血流が悪くなるためにおこります。恐ろしいのは、気づかないうちにひそかに病気が進行し、本格的な脳梗塞をおこす危険性が高いということです。無症候性脳梗塞の人は、そうでない人に比べて約3倍も脳梗塞をおこしやすく、脳卒中で死亡する危険度は約4倍にのぼると報告されています。
 無症候性とはいっても、脳の血流低下からくるめまい、軽い頭痛、頭が重い感じがする――等の自覚症状がしばしばみられるといいます。高齢で、高血圧、糖尿病、高脂血症などの脳梗塞の危険因子をもつ人は、思い当たる症状があったら早めに検査を受けるべきでしょう。
 食事・栄養による脳梗塞の予防改善は、次回に。