薄毛・脱毛症a

――壮年性脱毛症――

 毛髪にも食生活の欧米化が影響し、日本人の髪の毛はどんどん薄くなっています。
 今や成人男子の5人に1人は薄毛。中でも多くの男性の悩みの種となっているのが「壮年性脱毛症(男性型脱毛症)」です。

先細りした抜け毛が 1日100本を超えると要注意

 壮年性脱毛症では、急に頭髪がなくなるということはありません。毛が少しずつ細くなって産毛が多くなり、抜け毛の本数が増え、徐々に薄くなっていくものです。これは、発毛から脱毛までの"ヘアサイクル(図1)"が乱れるためにおこります。
 ヘアサイクルは通常、
1.成長期(2〜6年)毛根にある「毛母細胞」が、「毛乳頭」の指令を受けて増殖・分化し、新しい毛がつくられて伸びる(図2)
2.退行期(2〜3週間)毛の根元を包んでいる「毛包」が小さくなって、毛母細胞と毛乳頭が分かれ、毛の成長が終わる
3.休止期(3〜4ヶ月)頭皮にとどまっているだけの期間を経て、やがて抜け落ち、再び成長期に入る――という流れをくり返しています。
 人の頭には約10万本分の毛穴があり、その約9割が成長期、残り1割が休止期にあたると言われます。つまり、約1万本の頭髪が100日程度の休止期間中に抜け落ちるため、1日におよそ100本が自然に抜け落ちる計算になります。
 ところが、壮年性脱毛症ではこのヘアサイクルが短くなり、成長期があまり続かないうちに退行期に移ってしまうため、毛が十分に成長せず、細い毛や産毛が多くなり、脱毛のスピードも速くなってしまうのです(図1)。
 根元がスーッと先細りしているような細い抜け毛が多かったり、抜け毛の数が1日100本を大きく超えているようなら要注意です。

男性ホルモンが関係する"壮年性脱毛症"

a遺伝と男性ホルモン
 壮年性脱毛症の原因にはさまざまな説があり、いくつかの要因が重なって脱毛につながっていると考えられます。中でも最も有力とされているのが、遺伝と男性ホルモンの関係です。
 父親がハゲている人の薄毛率は80%と、薄毛には遺伝が大きく影響することが知られていますが、これは、男性ホルモンに対する感受性の強さが遺伝するものと考えられています。
 1942年、アメリカの皮膚科医ハミルトンは、若ハゲの始まっている男性を去勢すると、それ以上は脱毛は進まず、男性ホルモンを注射すると再び脱毛が始まることを発見しました。これによって、男性ホルモンが脱毛に関係することが明らかになりました。
 男性ホルモンの「テストステロン」は、血液にのって毛根部へ運ばれると、「5αリダクターゼ」という酵素の影響を受けて「5αジヒドロテストステロン(5αDHT)」という非常に強力なホルモンに変身します。この5αDHTが、毛母細胞のレセプター(受容体)に結びつくと、毛母細胞の細胞分裂が抑制されてしまうのではないかと考えられています。
b皮脂腺の肥大と男性ホルモン
 毛根上部にある皮脂腺(図2)の肥大が、男性ホルモンに影響するという説もあります。
 それによると、テストステロンはまず皮脂腺に行き、そこで分泌されている酵素の5αリダクターゼと結びついて強力な5αDHTに変化し、その後、毛根部に届いて発毛を抑制すると考えられています。
 高脂肪食に偏った欧米型の食生活を続けていると、皮脂腺が肥大して酵素が多くなり、その分5αDHTが大量につくられてしまうことになります。
 さらに、過剰な皮脂が毛穴につまると、毛髪の製造に必要な酸素が供給されなくなったり、皮脂が酸素や紫外線によって酸化して頭皮や毛根に炎症がおこると、発毛が阻害されてしまう危険性もあります。
c血行障害
 さらに、血の巡りが悪くなると毛根部に栄養が行き届かなくなり、毛母細胞の分裂能力が衰えて、毛の成長が妨げられてしまうことも指摘されています。

医学的に認められた発毛成分

 このようなさまざまな説を踏まえて、これまで多くの育毛剤が開発されてきましたが、その多くは、脱毛のスピードを遅らせたり、毛髪を太くする程度の効果にとどまっていました。
 そんな中、医学的に発毛効果が認められた画期的な成分が"ミノキシジル"です。
 ミノキシジルはもともと、アメリカの製薬会社が開発した血圧降下剤でしたが、服用した患者に多毛症などの副作用があらわれたことから、改めて育毛剤として開発されました。
 アメリカでは「ロゲイン」、ヨーロッパでは「リゲイン」の名前でいち早く商品化され、日本では今年6月、「リアップ」として発売が開始されました。ミノキシジルの濃度は、「リアップ」が1%、欧米では5%濃度の製品も発売されています。
 アメリカで行われた臨床試験では、軽度の効果も含めて、壮年性脱毛症の7割以上に有効だったことが報告されています。特に、頭頂部が薄くなるO型パターン(図3)の脱毛に効き目が出やすいと言われます。
 ミノキシジルが発毛を促進するメカニズムとして、一つには、ミノキシジルには血管を拡張して血圧を下げる作用があることから、血液の循環が良くなって、毛根に栄養が行き渡るようになったのではないかと考えられています。しかし、他の血圧降下剤では発毛効果はみられないことから、ミノキシジルが毛乳頭や毛母細胞に直接働きかけている可能性も指摘されています。
 最新の研究では、ミノキシジルが毛乳頭の情報伝達物質の生産を増やし、毛母細胞の遺伝子に働いて蛋白質の合成が増加、細胞分裂が活発になるらしいと報告されています。
 ただし、遺伝性以外の脱毛症については、ミノキシジルの効果はあまり期待できません。
 また、どんなに優れた発毛剤を使っても、髪の健康を損ねるような食生活や生活習慣を改めなければ、十分な成果は得られないでしょう。
 その他の脱毛症を含め、髪の健康全般については、次号でくわしくご説明します。