厚生省、 結核の緊急事態を宣言

結核患者、38年ぶりに増加!

 結核は、1950年まで日本人の死亡原因の第一位を占め、"国民病"と言われていましたが、その後、栄養状態の改善や新薬の開発、予防接種の効果などで激減し、"過去の病気"と思われるようになりました。
 しかし、日本では今なお年間4万人以上の患者が発生し、約3千人が死亡、6万人が治療を受けており、依然、国内最大の感染症であることに変わりはありません。患者数の減り方も10年くらい前から鈍り始め、97年にはついに、38年ぶりに増加に転じました(図)。
 さらに、近年、学校・老人施設・病院等で集団感染が続発し、また、治療法の全くない多剤耐性結核の拡大も心配されています。
 こうした事態に危機感を抱いた厚生省は、今年7月26日、結核の対策強化に「結核の緊急事態宣言」を出しました。
 克服したと思われていた結核が、今なぜ急増しているのでしょうか。

若者と高齢者に広がる集団感染

 結核の集団感染は、94年には11件でしたが、98年には44件と、4年間で4倍に増えています(表1)。
 特に、高齢者と若者の感染が多いのが特徴的です。これは、結核が全盛だった子供の頃に感染した高齢者が、体の抵抗力が衰えた今になって発病し、結核に対する免疫のない今の若者に感染を広げているためと考えられています。特に若者の場合は、空気の流通が悪いカラオケボックスやパチンコ店などから感染し易いことも指摘されています。
 しかし、集団感染がここまで広がっている最大の要因は、結核に対する社会的な関心の低さだと言われています。一般の人だけでなく、医療関係者にも結核の知識が乏しく、実際に、診断が遅れて感染が広がるといった問題が報じられています。
 医療関係者の結核に対する認識の甘さは、結核の院内感染が増加していることからも明らかです(表1)。

薬の効かない結核も出現

 院内感染の原因菌としては、「メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)」や「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)」、最近は「セラチア菌(写真)」も大きな問題になっています。これらはいずれも、抗生物質に対して耐性をもつために治療が難しいという点で共通しています。
 これらの薬剤耐性菌は、医療や畜産の現場で抗生物質を乱用することで生まれます。抗生物質を使うと、抗生物質の効く菌は殺されていきますが、抗生物質の効かない耐性菌は選択的に生き残り、多くの抗生物質を使えば使うほど、さまざまな抗生物質に耐性をもつ多剤耐性菌が増殖しやすい環境になっていくのです。特に日本の医療界では、抗生物質は薬価が高く、処方するほど医師のもうけになる等の理由から、安易に抗生物質が使われがちだと指摘されています。
 結核もまた、多くの抗生物質が効かない「多剤耐性結核」が出現し、問題になっています。
 結核の治療では、基本的に10種類の抗生物質を組み合わせて6ヶ月の入院治療を行い、短期間で結核菌の息の根を止める必要があります。しかし、a知識の乏しい医師による薬の不適切な組み合わせや、b完治しないうちに勝手に患者が治療を中断してしまうなど、いい加減な治療を繰り返していると、結核菌が複数の薬に耐性をもつように突然変異してしまうのです。
 そして、多剤耐性結核の患者から結核をうつされた人は、最初から有効な治療法がないということになってしまいます。
 日本では現在、1500〜2000人が多剤耐性結核を患い、患者数は毎年約80人ずつ増えていると言われます。多剤耐性結核による死亡者数は、結核死亡者の3割を占める約1000人と推定されています。

エイズの合併症としての結核の増加

 結核が急増している背景には、エイズ(HIV)感染の増加も見逃せません(日本のエイズ患者は現在約2000人、感染者は約4500人)。
 エイズは「後天性免疫不全症候群」といって、免疫機能が破壊される病気です。そのため、健康な人には特に問題のない菌でも感染症をおこしやすく、当然、結核にもかかりやすくなります。しかも、結核は健康な人に対しても感染力が強く、空気感染するため、エイズに関連した感染症の中で唯一感染を広げてしまうのです。
 日本ではまだ、エイズと結核に"二重感染"している人の数がきちんと把握されていませんが、アメリカやヨーロッパではエイズ感染者の15%が結核に感染しており、その数は、東南アジアでは45%、アフリカでは47%にのぼると言われます。WHO(世界保健機関)は、世界的な結核の増加のうち、20%がエイズの流行によるものと推測しています。
 さらに、エイズの合併症としての結核が恐ろしいのは、「肺結核」だけでなく、結核菌が血液の流れに乗って全身に広がる「肺外結核」が多いということです。一般の結核では21%の肺外結核が、エイズ感染では51%になることが、(財)結核予防会結核研究所の森亨所長らより報告されています。
※肺外結核 結核菌がリンパ節に入ると「リンパ節結核」、脳に入ると「結核性髄膜炎」、骨や関節では「関節結核」や「脊椎カリエス」、腎臓や腸では「腎結核」や「腸結核」になる。

結核の対策
発病を防ぐ鍵は"免疫力"

 それでは、急増している結核から身を守るにはどうしたら良いのでしょうか。
 結核に感染しても、発病するのは3割と言われ、残り7割の人は免疫力が強ければ結核菌を体の中に封じ込めておくことができます。発病しなければ、周りの人にうつす心配もありません。
 肺に侵入した結核菌は、白血球のマクロファージに取り込まれ、T細胞がつくり出すインターフェロンなどの攻撃物質によって殺されます。そして、一度結核に対する免疫ができれば、再び結核菌が侵入しても速やかに退治することができます。
 ただし、一部の結核菌はこの攻撃に耐え、冬眠状態のまま体内で何十年も生き続けます。そして、病気やストレス、老化による体の衰えなどで体の免疫力が落ちると、再び目覚め、増殖を始めてしまいます。
 つまり、結核に感染した際に発病を防ぐ鍵も"免疫力"、結核保菌者が体内の結核菌の活動を抑え込む鍵も"免疫力"ということになります。

食事・栄養療法

 白血球や抗体などの免疫細胞をつくる本体は蛋白質です。良質の蛋白源は、穀物と豆の組み合わせで確保できます。「麦・雑穀ご飯+納豆、みそ汁、豆腐」を基本とした食事がおすすめです。
 そして、免疫系の働きに重要な微量栄養素を、総合サプリメント(栄養補助食品)で三度の食事の度にしっかり確保することが大切です(表2)。
 精白米や白砂糖などの精製食品は、体内の微量栄養素を消耗して免疫力を低下させるもとなので、避けるようにしましょう。

日常生活の注意

 食生活に加え、睡眠と休養を十分にとり、ストレスをためない生活を送るなど、不摂生に気をつけると共に、部屋の換気などにも十分注意することです。休みの日は森林浴などできれいな空気を十分吸って肺のすみずみまで浄化しましょう。
 自律神経を鍛えることにより、呼吸系を鍛錬することも大事です。
 また、糖尿病患者や、腎不全で人工透析をしている人、胃潰瘍などで胃を切除した人、免疫力を抑える副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)や抗がん剤を使っている人などは、結核になりやすいハイリスクグループと言われています。特に、結核患者の20%程度が糖尿病患者だと指摘されており、こうした病気の予防・改善も大切な課題です。
 そして、長引く咳や微熱などの症状がある人は、風邪だと決めつけず、病院で結核の検査を受けること。結核の初期症状は風邪とよく似ていますが、結核の場合、一進一退を繰り返しながら次第に悪化していきます。咳などが2週間以上続くようなら、結核を疑ってみるべきです。
 早期発見・早期治療が、結核を悪化させず、また、感染の拡大を食い止めるのに重要です。