糖尿病合併症

――腎症、神経障害――

 糖尿病の三大合併症には、前回お話しした「網膜症」の他に、「腎症」と「神経障害」があります。
 腎症は進行すると人工透析が必要になり、また、神経障害が引き金となって壊疽を招くと脚の切断を余儀なくされてしまいます。いづれもQOL(クオリティー・オブ・ライフ、生活の質)を著しく損なうものなので、こうした合併症には十分に注意が必要です。

糖尿病性腎症

〈人工透析に至るケースが多く、年間約8千人、透析原因の第二位を占め、その数は急速に増加しています〉
腎臓は高血糖のダメージを受けやすい器官
 腎臓では、「糸球体」という濾過装置で血液を濾過して、体にいらなくなった老廃物などを尿に排泄する作業を行なっています。
 糸球体は毛細血管が精妙に組み合わさった非常にデリケートな構造をしているため、高血糖やマグネシウム不足からおきる糖尿病の血管障害を受けやすい器官です。
 また、高血糖になると、血液中のブドウ糖が腎臓の組織の中にまで入り込んで組織の蛋白質とくっつき、コラーゲン繊維などが増え、組織そのものを変性させてしまうことも糖尿病性腎症の引き金になると考えられています。
 こうした腎臓の障害はじわじわと進行するので、糖尿病性腎症はふつう糖尿病になって10年以上たってから発症します。初期には蛋白尿がみられますが、他には何の自覚症状もなく、病院で定期的に検査をしない限りは病気に気づかないまま過ごしてしまいがちです。しかし、糖尿病性腎症は予後が悪く、ひとたび発症すると多くの場合進行性に悪化します。腎機能が低下するとやがて高血圧やむくみが出て、最後には腎不全になって尿毒症に至ります。こうなると人工透析が必要です。

糖尿病も腎臓病も ミネラルのバランスを崩しやすい

 糖尿病も腎臓病も食事療法が大切で、高脂肪・高蛋白・低繊維の欧米型食生活を避け、和食が理想的だという点で共通しています。
 とりわけ腎症の人は、
・低蛋白 高蛋白では糸球体に過剰に負担がかかる。動物性蛋白よりも植物性蛋白がベター
・低脂肪 高脂血症は腎症の進行を早める
・低塩分 糖尿病性腎症の高血圧は、塩分過剰が原因であることが多い――を徹底しましょう。

――亜鉛の不足に注意――

 さらに、糖尿病も腎臓病も体内の微量栄養素のバランスを崩しやすく、それがまた病気の悪化につながるので、不足がちな微量栄養素をきちんと確保することが重要になります。
 東京医科大学の中尾俊之先生の研究では、人工透析を受けている人には、亜鉛の欠乏やセレニウムの低値などの異常がみられ(図1、2)、また、糖尿病では尿から亜鉛やマグネシウムが健康な人の2倍近く捨てられていることも報告されています。
 亜鉛の不足は、網膜症や黄斑変性症などの合併症の引き金となる他、免疫細胞の一つT細胞の活性が低下するために感染症にかかりやすくなります。感染症も糖尿病でおこりやすい合併症の一つですが、特に腎症との関係では、膀胱炎や腎盂炎といった尿路感染症を併発しないよう注意が必要です。
 亜鉛はかき(貝)やうなぎ、レバーなどの高カロリー食に多く、糖尿病や腎臓病のように食事制限が必要とされる病気の人では、なかなかとりにくいミネラルです。食事からの摂取不足はミネラルの欠乏にさらに拍車をかけてしまうので、サプリメント(栄養補助食品)でしっかり補う必要があります。
 糖尿病性腎症対策にはまた、血糖をコントロールする作用のあるクロムやセレニウム、バナジウム、血管を強くするビタミンC、バイオフラボノイド、ビタミンE、マグネシウムなどが役立ちます。
 サプリメントは、こうしたビタミン・ミネラルが総合的にとれるものを選びましょう。

糖尿病性神経障害

〈糖尿病合併症の中で最もおこりやすく、かつ最も早く症状があらわれます。壊疽を招く一因にもなります〉
 糖尿病で神経障害がおこる原因としては、毛細血管が障害されるために神経細胞に酸素や栄養が行き届かなくなるという「血管障害説」、また、ブドウ糖からできるソルビトールという物質が細胞の中にたまって神経細胞の働きを妨げるという「代謝障害説」があります。実際には、この二つが関与して神経障害がおこると考えられています。
 糖尿病性の神経障害は、
a知覚神経障害 じんじんとするしびれ感や刺すような痛みが手足に左右対称性におこる、こむら返り、感覚がにぶくなる等、
b運動神経障害 手足の運動神経麻痺、まぶたが下がる、ものが二重に見える、顔面神経麻痺等、
c自律神経障害 立ちくらみ、発汗量の減少、下痢、便秘、残尿等――の三つに大きく分けられます。
 知覚神経障害で感覚が鈍くなると、靴ずれや火傷などにも気づかなくなり、そのまま放置すると傷口が化膿して、最悪の場合、脚の壊疽を招いてしまいます。糖尿病性壊疽で脚を切断する人は、アメリカでは年間約6万人と言われています。

食事・栄養療法
――ビタミンB群が鍵――

 予防・改善には、合併症の原因疾患である糖尿病を克服することが第一です。食事・栄養の面では、麦・雑穀ご飯+納豆+みそ汁という昭和30年代の和食を基本に、ビタミン・ミネラルが総合的に入っている微量栄養素サプリメントを毎食欠かさずとるようにしましょう。
 特に、神経障害対策にはビタミンB群の摂取が効果的です。ビタミンB群には神経の働きを正常に保つ作用がありますが、その中でも、神経障害をおこしている糖尿病患者にはビタミンB1、B6、B12、イノシトールが不足がちだと言われ、これらを補うことで神経の障害が改善されると期待されています。
 また、ソルビトールの合成を防ぐには、ビタミンCやバイオフラボノイド、銅が、壊疽の改善には、傷の治りを早める作用のある亜鉛が有効です。