糖尿病合併症

――目の合併症――

 前回お話ししたように、糖尿病の合併症のほとんどは血管が障害されることで起こります。特に、小細血管が集まっている目では、糖尿病三大合併症の一つ「網膜症」をはじめ、「黄斑変性症」、「白内障」などが引き起こされ、目の糖尿病合併症は成人後失明の最大の原因になっています。

活性酸素にやられやすい 目の網膜

1.糖尿病網膜症
〈成人後失明のトップ(全体の約18%、年間約3千人)を占める網膜症は、初めのうちはほとんど自覚症状のないまま進行する怖い病気です〉
 目は、たくさんの酸素を消費する脳の一部なので、活性酸素の影響を受けやすく、特にデリケートな網膜の毛細血管では活性酸素にやられやすくなります。
 体は活性酸素に対して、SODをはじめとする抗酸化酵素や、食物からとったビタミンやミネラルなどの活性酸素スカベンジャー(掃除役)を動員して消去にかかるのですが、糖尿病の人の場合、細胞内に入れずにあぶれていたブドウ糖が抗酸化酵素などにからみついて、その働きを邪魔してしまうのです。
 毛細血管が活性酸素にボロボロにされて網膜に酸素や栄養を送ることができなくなると、これを補おうとして新しい血管「新生血管」が伸びてきます。しかし、この新生血管はとても弱くてもろいため、ちょっとした刺激で破れて出血してしまいます。
 新生血管は、つむじのようにねじれた力をもって生まれることが多く、増殖した新生血管に網膜が横にひっぱられると、網膜が引きはがされてしまい、「網膜剥離」が起こります。
 網膜剥離が起きると視力は著しく下がり、網膜のはがれた部分が欠けて見えるようになって、やがては失明に至ります。
2.黄斑変性症
〈欧米では以前から成人後失明のトップ原因を占め、日本でも食生活の欧米化や高齢化社会に入って急速に増えて大きな問題になっています〉
 網膜の中心部にあって物を見る働きの中心的な役割を果たしている黄斑部は血管がありません。
 ところが、網膜症で新生血管ができてくると次第に網膜の一番奥にある黄斑部にもトラブルがあらわれ、直線がゆがんで見えたり、視野の中心部が見えにくいといった症状が起こり、最終的には失明に至ります。
 黄斑変性症は萎縮型といって最初から機能が落ちるタイプもあり、いづれにしても老化は最大の引き金になります。さらに促進する要因として、糖尿病などによる血管障害があります。

〈治療と食事・栄養療法――鍵となる亜鉛――〉

 新生血管をレーザーで焼きつぶす方法が一般的ですが、できたら焼きつぶすというこの治療は根本的な解決には至らず、また、出血を起すようになっている場合は余り効果がありません。
 食事・栄養の面からの対策は、まず高脂肪・高蛋白・低繊維食の欧米型食生活を避け、活性酸素の暴発を防ぐビタミン(ビタミンA、ベータカロチン、C、E)、ミネラル(亜鉛、マンガン、セレニウム、銅、鉄など)を不足させないことが大切です(表1)。
 このうちミネラルの亜鉛は活性酸素消去酵素SODの活性に働くだけでなく、網膜の働きに重要な役割を果たしていると考えられています。もともと亜鉛は目に多いミネラルで、その中でも網膜にはダントツに多いミネラルです(表2)。
 さらに、糖尿病の人は食事制限で摂取量(表3参照)がもともと少ない上に、尿から亜鉛やマグネシウムが健康な人の2倍近く捨てられてしまい、この目に大事な亜鉛が極端に不足がちになります。
 そして血管を強くしたり、血糖のコントロールに役立つ栄養素を総合的に十分確保することが大切です(表1)。

急速に悪化する糖尿病白内障

〈年をとるとある程度は水晶体がにごってきて80歳では約9割が白内障になります。こうした比較的ゆっくり進行する老人性白内障に対し、糖尿病白内障では水晶体のにごりが2倍のスピードで進行し、30代、40代という若いうちから失明してしまう危険性があります〉
 白内障は透明な水晶体が白くにごってしまう病気で、曇りガラスを通すようにかすんで見え、さらに進むと、黒目の部分が白っぽくなっているのが外から見ても分かるようになります。にごりが瞳孔にかかるまで広がると失明してしまいます。
 ここでも悪さをしているのは活性酸素です。水晶体は目の表面近くにある器官なので、酸素や光にさらされて活性酸素が発生しやすく、特に紫外線からはOHラジカル(ヒドロキシルラジカル)という強力な活性酸素が生まれるため、加齢につれて水晶体がやられてきます。
 さらに、糖尿病の人では水晶体の中にもブドウ糖が増えているので、網膜部と同じように活性酸素を打ち消す力が非常に弱まり、進行も早くなります。
〈ビタミンCが鍵〉
 白内障対策としては、強力な活性酸素に対抗する抗酸化ビタミン・ミネラルをしっかりとることが第一です(表1)。
 中でもビタミンCは水晶体の中で濃縮され、水晶体を酸化から守るのに役立ちます。
 また、血糖値の高い状態が続いて、ブドウ糖からできるソルビトールという物質が水晶体の中にたまることも白内障の引き金になると言われます。ソルビトールの合成を防ぐにはビタミンC、銅が重要です(表1)。
 白内障には牛乳・乳製品が憎悪因子となります。牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)が分解されるとガラクトースができますが、これがうまく代謝できない人は吸収されたガラクトースが目の中の水晶体に集まってしまい、白内障の原因になります。ちなみにヨーグルトの乳糖はガラクトースです。