肝臓の話

肝臓のトラブルに 四つの基本対策

 朝からどうもだるい、疲れやすい、スタミナがないということで検査をしてもらったら肝臓に異常が見つかった、ということがままあるようです。
 肝臓は人間の体の中で一番大きい臓器で、解毒器官、生化学工場ともいわれますが、沈黙の臓器ともいわれ、なかなかそのトラブルに気がつきにくいのが現実です。
 最近は、肝臓の検査を重視するようになり、昔より早目に見つかりやすくなったといわれますが、劇症肝炎など手の打ちようがないほど急性のトラブルで命を落とす人や、いくら治療を受けても治らない慢性のトラブルに悩まされる人が後をたちません。
 私たちは生きていくために必要な栄養素を食事で口から補給します。食べられた物は消化酵素を含んだ消化液で分解されながら腸で吸収され、血液やリンパ液に混ざって、肝臓に運ばれます。肝臓でそれらをさらに分解・合成・活用・貯蔵するためです。物質代謝のセンターとして、蛋白質、脂肪、糖質などの他、核酸・ホルモン・ミネラル・ビタミン等々、何でも関係しないものはないくらいです。
 肝臓には門脈と呼ばれる血管が腸から栄養素を運び込みます。腸からは良い物ばかり吸収されるとは限りません。オナラの臭い人は、オナラのガスも吸収して肝臓に送り込んでいます。出るのを我慢しているうちに出なくなったというのは吸収されたからです。さらに、日頃のストレスに加え、食品添加物や農薬、公害物質、環境ホルモン、バランスの悪い高蛋白食品、過剰アルコール等々肝臓を痛めつける要素は実に多くあります。
 腸から回されて来る栄養素を、体が必要としているものに変えたりストックしたり大活躍をしてくれる肝臓ですが、無理ばかり強いていると、年とともにやはりくたびれてきます。新陳代謝がうまくいかなくなるのです。私たちの体は六十兆個もの細胞で出来ていますが、毎日約七千億個が崩壊しています。肝臓の細胞も約二年から三年で全部入れ替わります。新陳代謝の時、壊れた細胞の後釜にそばにある元気の良い細胞がさっと二個に分裂して入れば良いのですが、必要な材料の供給が間に合わなかったりすると、古い壊れかかった細胞が不完全なまま残ったり、新し・br> ュ生まれる細胞が未分化のまま瘢痕組織になったりしてしまいます。
 壊れる細胞の数は変らなくとも、年をとるに従って新しく生まれるべき細胞がまともに生まれなくなると、その臓器全体の老化が進行します。年をとると見掛け上も段々年寄りくさくなってくるのはそういうわけです。肝臓は普段は半分もはたらかなくても間に合うほど能力に余裕があり、しかも、どの細胞も分裂に備えてはじめから核を二個づつ持っているのに、最後は肝硬変になったりするのはよほど大事に使わなかったということになります。
 肝臓こそが、全身の細胞の新陳代謝の要になるわけですが、肝臓自身の新陳代謝だけを考えても全く同じことがいえます。
 肝臓の持ち主が自分でできる対処の方法としては、肝臓の新陳代謝を妨げるような毒物(アルコールや薬物もこれにあたります)の流入を制限することが第一。トラブルは炎症からおきますが、炎症は活性酸素が関与してますから、その暴発をさける手立てを講じることが第二。そして、新陳代謝に欠かせない栄養素をどんどん供給することが第三。そして肝臓内の不要物質を積極的に洗い流す手立てを講じることが第四です。
 これが私たちがすすめる肝臓のトラブルに対処する方策の基本です。

肝炎
●急性肝炎

 ウイルス性の肝炎はA型、B型、C型その他に分類されます。ウイルスにより伝染するといわれますが、勿論感染しない人もいるわけで、免疫力のあるなしが分かれ目となります。年間十万人は発病するといわれます。重症になったり肝硬変にならないよう注意することが大切です。
・黄疸性肝炎 二週間ないし二ヶ月の潜伏期がすぎると、熱がでたり、体がだるくなったり、食欲がなくなったり、吐き気がしたりします。一週間程度がピークの黄疸がでて、二〜三ヶ月で回復します。黄疸は白目が黄色を帯びるので人がみてもすぐわかりますが、まず尿の泡が黄色くなるので気をつけていれば自分でわかります。胆汁の成分のビリルビンがその正体です。
・無黄疸性肝炎 黄疸の出る患者の二倍はこの無黄疸性肝炎がいるといわれます。黄疸が見られなくても油断は禁物です。顔がどす黒くなったり、鼻、手掌、腹部に赤い班点や血管が浮いたりすることもあります。
・激症肝炎 発病後急速に悪くなり、二〜三週間で肝不全となって死亡します。肝不全というのは、肝臓が殆ど機能しなくなり、体の他の各臓器が正常に働けなくなることです。
 肝不全になってみると、肝臓が如何に大事な器官なのか、あらためてわかります。
 段々悪くなってくると、意識もおかしくなってきます。従来、肝臓で処理してきた余分なアミノ酸が処理されず、アンモニアになって脳にいくからです。まず自分がどこにいるか今日は何日かわからなくなり、すすむと錯乱状態になったり、昏睡状態に陥ります。

●慢性肝炎

 急性肝炎が治らないまま六ヶ月以上長引くと慢性肝炎になったと判断されます。徹底した栄養療法でストップをかけないとやがて肝硬変へのコースをたどります。

●アルコールと肝炎

 何年にもわたってかなりの量の酒を飲み続けていると、アルコール中毒(依存症)にならなくとも、肝炎から脂肪肝をへて肝硬変になる確率が高くなります。量は個人差があり、週二回の休肝日をつくっても安全とはいえません。

●輸血と肝炎

 最近は少なくなりましたが、以前輸血した人は依然要警戒です。

肝 硬 変

 肝炎が続き、肝臓細胞の破壊が続いているうちに、第三の対処策をとらないと肝細胞のまわりに結合組織が増えてきて、残った肝細胞も生きられないような状況になることがあります。肝臓は何枚かの肝小葉に別れていますが、その構造もさだかでないほどに硬い結合組織が増えてくると肝硬変になったと判定されます。
 こうなると、肝臓内部の血管も圧迫され、血液の流れは極端に悪くなります。門脈の血液も行き場が無くなり、腹水の原因になるとともに、それまで肝臓内部に流れていた血液は強引にバイパスを通って心臓に戻ろうとします。門脈の血圧は高くなり、食道の静脈、胃の静脈、腸や腹壁の静脈に大量の血液が流れ込みますから、食道静脈瘤や痔の出血、腹壁にメズーサの頭といって臍を中心にクモの巣のように静脈が見えるようになります。

食事と栄養
●蛋白質のとり方

 対処の仕方としては、とにかく肝臓の正常細胞の再建です。細胞レベルで考えると肝臓の細胞は蛋白質で出来ているので、高蛋白食品を十分にとるという考えになりがちですが、肝硬変にまでなってしまった人に高蛋白を与えても、うまく処理できず、かえってアンモニアをつくって錯乱させるリスクを増やすだけです。遺伝子レベルで考えると、遺伝子の再建こそ焦眉の急です。その主原料たる核酸も、もはやつくられない状況なので、蛋白質よりも核酸を最優先に必要十分量補給すべく食生活を考えるのが大事です。

●肝炎と微量栄養素

 炎症がおきるのは、ウイルスの侵入に対し免疫作用が作動して、白血球が出す活性酸素に細胞の膜などの生体膜が反応し、盛んに過酸化脂質化しているからです。消炎のためにはビタミンA(カロチン)、B群、C、Eなどのビタミンなどの他、SODなどの抗酸化酵素を活性化するミネラル、亜鉛・銅・マンガン・セレニウム・鉄などが不足していては駄目です。炎症の現場では、こういう栄養物質は湯水の如く消費されますから、無駄を覚悟で多目にとりましょう。
 なかでも亜鉛が肝臓での代謝に一番重要なことがわかっています。日本人は食生活の中で亜鉛のとり方がとても不足気味で、亜鉛不足で肝臓機能を悪化させている人が多数います。しかし、困ったことに、いったん肝臓機能が低下すればするほど、亜鉛の尿からの排泄量が増え、肝障害は悪循環的に悪化していくことが多いのです。
 特に肝硬変の患者さんは亜鉛が正常の人に比べ低くなることが報告されています。
 結合組織も寿命があります。その寿命が尽きたときに後釜に実質肝細胞が増えていくのを目指すのが正解でしょう。核酸の多い食物としてはイワシ、サケ、エビ、ハマグリなどの魚貝類およびその卵、豆類一般、野菜の中ではかぶ、タマネギ、きのこ類、ほうれんそう等々。あとは動物のレバー。なにしろ肝臓が悪いのですから、良い食品でも食べすぎは厳禁です。あせらず、ゆっくりと。食後は右を下に寝て、左の足の膝をゆるめると肝臓に血液が行きやすくなります。

コーヒー浣腸

 基本策の第四の方法としてお奨めできるのがコーヒー浣腸です。一リットル程度のぬる目のブラックコーヒーを浣腸器を使って肛門から入れ、出来るだけ排便を我慢します。カフェインが吸収され肝臓に行き、その刺激で肝臓内の不要物質を胆嚢に排出し、胆汁に混じって腸に出させることができます。二時間ほどしたら、ひまし油などの下剤をかけて再吸収されない内に排便すれば、肝臓は次第にきれいになっていきます。