多剤耐性結核

結核の再燃

 1950年頃までは日本人の死因のトップを占め、"不治の病"と恐れられていた結核も、ストレプトマイシンやパスといった新薬の開発、栄養状態の改善などで劇的に少なくなりました。
 しかし、1970年代以降患者数の減少は年々鈍っています。先進諸外国の中では日本は最も結核患者が多く(図)、今なお年間4万人以上が発症、約3千人が死亡しています。
 世界的にも、80年代半ばから発展途上国を中心に急増。背景には、aエイズの流行に伴う免疫力の低下、b人口急増(発展途上国では食糧危機に伴う栄養不良、先進国では結核流行地域からの移民者の増加)、c社会的な関心の低下(医師や患者に知識が乏しく、診断が遅れて感染が広がる)――などが指摘されています。
 さらに、深刻な問題となっているのが多くの抗生物質が効かない多剤耐性結核菌の蔓延です。すでに院内感染も発生しており、日本でも急速な拡大が心配されています。

多剤耐性結核菌の出現

 最近、MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)やVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)など、複数の抗生物質に耐性をもつ多剤薬剤耐性菌の院内感染が問題になっていますが、これらは医療や畜産の現場で抗生物質が乱用されることによって生まれました。多剤耐性結核が増加しつつある背景にも、抗生物質の乱用が指摘されています。
 また、患者が途中で治療をやめてしまうことも多剤耐性結核を生み出す原因の一つになります。中でも発展途上国の人々や都市部のホームレスが費用の問題などから途中で治療をやめてしまうケースが多いようです。中途半端な治療で再発を繰り返していると、結核菌が複数の薬に耐性をもちやすくなってしまいます。
 WHOの調査では、世界の3分の1の国で多剤耐性結核が見つかっています。つまり全世界の結核患者の2〜14%には有効な治療法がないということになります。

発病を防ぐ鍵は免疫力
T細胞が結核菌を攻撃

 多剤耐性結核から身を守るには、免疫力を高めることが重要です。
 結核菌は空気感染して肺などに入り込みますが、このとき体の免疫機能が正常に働き、結核菌をやっつければ発病には至りません。そして、一度免疫ができれば再び結核菌が侵入しても、速やかに退治することができます。
 結核菌を攻撃する中心となるのは白血球の一種であるT細胞です。体内に入った結核菌をマクロファージなどの貪食細胞が食べることで、結核菌の情報がT細胞に伝わり、T細胞がつくり出すインターフェロンの刺激を受けて細胞内の結核菌が殺されます。
 ツベルクリン検査の経験がある人は多いと思いますが、これは結核菌の細胞壁成分を注射して結核菌に対しての免疫があるかどうかを調べるものです。免疫があればT細胞による炎症反応がおこるので注射した部分が赤く腫れ(陽性)、免疫がなければ皮膚にはほとんど反応があらわれません(陰性)。そこで、陰性の場合はBCGという結核の死菌を注射して、結核菌の情報をもつT細胞を増やそうとするのです。

常に免疫力を 高めておくことが大切

 しかし結核の場合、一度免疫ができれば一生発病しないというわけではありません。体の免疫力よりも菌の力が強い場合、あるいは免疫力が低下している場合は、結核菌が肺などに病巣部をつくって発病します。また、体の抵抗力によって病巣部が石灰化されれば症状はあらわれませんが、石灰化された病巣部の中で結核菌はいつまでも生きていることが多く、20〜30年たったあとでも体の免疫力が低下すれば暴れ始めます。
 最近の日本の結核患者には、高齢者と若者が多い傾向があるのですが、これは子供の頃に結核が全盛だった今の高齢者が、加齢によって免疫力が低下することで発病しやすくなるためです。若者は結核に対する免疫力がないうえ、食生活の乱れや過度のダイエットなどで体の抵抗力が弱っていることが影響しているとみられています。
 つまり結核の予防では、感染を防ぐことよりも、感染しても発病しない体を維持することが大切です。特に、多剤耐性結核では有効な治療法がないので、免疫力を高めて発病を防ぐようにしなければなりません。

免疫力を高めるには 食事・栄養療法

 免疫力を高めるには、必要な栄養素をしっかり確保することが基本です。特に、免疫系で重要な白血球や抗体などはすべて蛋白質からつくられているので、良質の蛋白質をきちんととるように心がけましょう。蛋白源は穀物と豆を重量比2対1でとるのが理想的で、麦ご飯+納豆の組み合わせがおすすめです。
 また、ニンニクや玉ねぎに含まれるアリシンという物質には、抗生物質よりも強力な抗菌作用があることが報告されています。これらを料理に取り入れるのも良いでしょう。
 微量栄養素は免疫系の働きに深くかかわっており、不足すると免疫力の低下を招きます。三度三度の食事ごとに、ビタミン・ミネラルを総合的にとるようにして下さい。
・ビタミンA 粘膜を強化してウイルスの侵入を防ぎます。また、T細胞を生み出す胸腺の老化を防ぎます。
・ビタミンB群 蛋白質の合成に不可欠で、白血球や抗体の産生を助けます。また、ストレスを受けると免疫力が低下して感染症にかかりやすくなりますが、パントテン酸やビタミンBは副腎の機能を高めてストレスに強い体をつくります。
・ビタミンC 白血球や抗体の産生を増やしたり、白血球が細菌を殺す力を高めます。また、副腎の機能を高めてストレスに抵抗できる体をつくります。
・ビタミンE ビタミンA、ビタミンC、セレンの酸化を防ぎ、活性を高めます。
・亜鉛、セレン 胸腺の老化を防ぎ、T細胞の産生を高めます。

日常生活の中で心がけたいこと

 睡眠不足や過労、激しい運動、飲酒、喫煙、大気汚染などは免疫力を弱めるもとです。正しい食生活に加え、不摂生をしないで健康的な生活を送ることが、結核をはじめとする感染症の予防につながります。
 また、精神的に明るく楽しい気分のときには、体の免疫機能が活性化されることが報告されています。打ち込める趣味やストレス解消法を見つけ、常にプラス指向を心がけて生活するようにしましょう。