前立腺肥大症

 高齢男性におこりやすい疾患の一つに前立腺肥大症に伴う排尿障害があります。80代男性では85%に何らかの排尿障害がみられると言われ、前立腺肥大症の対策は高齢化が進む中で重要課題であると言えるでしょう。
 今月は、高齢男性の排尿の悩み――前立腺肥大症について考えてみたいと思います。

進行すると 死に至る危険性も…

 前立腺肥大症では、尿道を取り巻く前立腺が肥大して尿の出口が圧迫され、狭められてしまう結果、尿の勢いが悪くなる、排尿に時間がかかる、残尿感、頻尿――等の症状があらわれます。
 こうした排尿困難や不快感さえ我慢すればいいと思う人も多いようですが、さらに進行すると尿が少しづつ自然に漏れ続ける状態になり、そのまま放置していると腎機能が低下して尿毒症を起こしたり、慢性腎不全で死に至る危険性もあります。
 また、前立腺肥大のある人は、健康な人に比べ前立腺がんのリスクが4倍になることも分かっています。単なる老化現象だと甘くみていると、取り返しのつかないことになりかねません。
 病院では抗男性ホルモン薬などを使った薬物療法や内視鏡手術が主流のようですが、ここでは、家庭で日常的に取り組むことのできる前立腺肥大症対策について考えてみましょう。男性だけでなく女性も加齢とともに何らかの排尿障害をおこしやすいので、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

微量栄養素の確保と ファイトケミカルの利用

 前立腺肥大症が起こってくる背景には、加齢に伴う男性ホルモンの異常や前立腺内のミネラルバランスの異常が指摘されています。適切な食事やサプリメントで総合的に微量栄養素を確保することが大切です。
 また、前立腺の健康に役立つと言われるハーブ類やベリー類などのファイトケミカル(植物中の生理活性物質・表)を取り入れるのも一考です。
加齢に伴う男性ホルモンの異常
 男性ホルモンのテストステロンには前立腺の細胞を増殖させる作用がありますが、同時に、ホルモン様物質のプロスタグランディンを分泌させて、細胞が無制限に増殖するのを防いでいます。しかし、加齢とともにプロスタグランディンの生成は減少し、テストステロンによる前立腺の細胞増殖に歯止めがかからなくなるので、前立腺肥大が進行すると考えられています。
 プロスタグランディンの原料となるのは必須脂肪酸ですが、特にN3系のα―リノレン酸を豊富に含む亜麻種子は前立腺肥大症の改善に効果があると言われます。
 亜鉛・セレニウムの欠乏 前立腺には他の臓器の10倍も亜鉛が含まれ、男性ホルモンの代謝に働いています。そのため、亜鉛が欠乏すると前立腺肥大になる危険性が高くなります。亜鉛は前立腺の健康に重要なミネラルです。
 また、セレニウムも前立腺の働きに重要です。男性では体内のセレニウムの半分が前立腺につながる精管に集中しており、セレニウムは精液と一緒に体外へ排出されてしまうので、女性よりも男性の方がより多くのセレニウムを必要とします。
 カドミウムの蓄積 前立腺肥大症の患者の前立腺からは、健康な人に比べ多量のカドミウムが検出されるとの研究報告があります。カドミウムのレベルと男性ホルモンのレベルは関連することも指摘され、試験管内の実験では、人間の前立腺の細胞にカドミウムを与えると細胞増殖が促進されることが示されています。
 銅、亜鉛、セレニウムなどは、カドミウムのような有害重金属の毒性を抑えるのに役立つと言われます。

日常生活の注意

 この他にも、排尿のトラブルを予防・改善するにはいくつかのポイントがあります。
・冷えを改善する
 冷えも排尿障害をおこす原因の一つです。入浴(ぬるめのお湯で長時間)やマッサージなどで全身の血行を良くするよう心がけましょう。
 食事の面では、白砂糖や果物のとり過ぎ、冷たいもののとり過ぎは冷えを招くもとになるので注意しなければなりません。体温維持には、ビタミンEやビタミンB群、ビタミンC、クロムなどが役立つと言われます。サプリメントはビタミン・ミネラルが総合的に含まれているものを選びましょう。
・アルコールを控える
 飲酒は排尿障害を悪化させる要因になります。また、お酒を飲んで寝入ってしまうとそのまま排尿を我慢してしまうケースもみられ、これも危険因子となります。
・適度な運動
 長時間座りっぱなしの生活も排尿トラブルにつながります。デスクワークの人や1日中車に乗るような仕事の人も、時々は立ち上がって軽く体を動かしましょう。