食事・栄養療法と
肥満(2)

 肥満は遺伝的要素もありますが、やはり食事・運動などの生活習慣が大きく影響しています。遺伝的因子をもっている人でも、生活環境(特に食環境)を整えることによって肥満を予防できます。

微量栄養素の豊富な 自然食をよくかんで

 食べ過ぎは肥満のもとといっても、やみくもに厳しいカロリー制限をしたり、玉ねぎだけ、リンゴだけといった単品ダイエットでは、かえって脂肪の燃焼に必要なビタミン・ミネラルが不足して、効率的な肥満解消にはなりません。そればかりか、ビタミン・ミネラル不足は、栄養失調や貧血、骨量減少等、様々な疾病を招いてしまいます。
 微量栄養素が豊富な自然の食品を、ゆっくりよく噛んで食べるよう心がければ、自然と少食になり、摂取カロリーは抑えられてきます。
 未精製の穀類を 精白米は、微量栄養素が豊富な胚芽が取り去られているため、糖質や脂質がうまく代謝されず、脂肪として蓄積してしまいます。白砂糖も同じです。
 2分搗き米に2割の麦をまぜた麦ごはんを主食に、野菜・海藻たっぷりのみそ汁、納豆・豆腐などの豆類を中心としたメニューが理想的です。

カロリーが最も高い 脂質は極力カット

 卵・牛乳・油・肉などの高脂肪食は極力控えましょう。果物の果糖は体内で中性脂肪にかわり肥満のもととなります。
 食物繊維を豊富にとる 食物繊維はカロリーはありませんが、かさを増やして満腹感をもたらしたり、咀嚼回数を増やすことで早食いを防ぎ、過食を予防するのに役立ちます。また、脂肪を吸着して便に排泄する作用もあります。

ビタミン・ミネラル
微量栄養素をしっかり確保

 効率的な肥満の解消には、脂肪の分解を促進したり、脂肪の蓄積を抑制する働きのある微量栄養素の確保が欠かせません(表1)。
・鍵となるビタミンはB群です
 ビタミンB群は、それぞれが糖質・脂質・蛋白質の代謝に働きます。
 また、精神・神経系の健康にも不可欠なビタミンですから、減量時の空腹からくるイライラを抑制するのにも役立ちます。
・ミネラルで鍵となるのは
 クロムです
 クロムには、糖質・脂質の代謝を促進する働きがあり、特に糖質の代謝には必須のミネラルです。
・水太りには
 ナトリウムとマグネシウムの
 バランスを
 ナトリウム(塩分)をとり過ぎると、細胞内外の濃度バランスが崩れ、本来は細胞外ミネラルであるナトリウムが細胞内に大量に入り込んでしまいます。ナトリウムには水を呼び込む性質があるので、細胞が膨張し、水太り(むくみ)がおこります。
 マグネシウムには、細胞内から余分なナトリウムと水分を汲み出す働きがあります。

肥満に有効な ファイトケミカル
(植物性生理活性成分)

 最近、ハーブやスパイスも含めて、植物中の化学物質の中にいろいろ体に有効な成分があることが分かってきました。
 その中で肥満に効果のあるのが表2です。
 お茶やコーヒー、ガラナ等に多く含まれる「カフェイン」や、唐辛子の辛み成分「カプサイシン」には、体内の余分な脂肪を熱として体外に放出する褐色脂肪細胞を活性化させる働きがあります。
 脂肪には、「白色脂肪細胞」と「褐色脂肪細胞」の2種類があります。
 白色脂肪細胞は、体内の余分なエネルギーを脂肪として蓄積する細胞です。空腹時や飢餓時には、ここからエネルギーが供給されるのですが、この貯金が使われずに、細胞が脂肪滴をたくさん貯め込んで膨れあがり、分裂・増殖して数を増やした状態が肥満です(写真)。
 褐色脂肪細胞は、首のうしろや脇の下などにわずかにある細胞で、脂肪を熱として放出するラジエター(放熱器)のような役目をしています。つまり、この細胞の働きが活発な人ほど、脂肪を代謝しやすく、太りにくい体質であるといえます。細胞の数は幼児の時に多く、成人になるに従って激減します。赤ちゃんの体温が大人より1度程高いのはこのためです。
 唐辛子を使った辛い料理を食べると、体が温かくなったり汗が出たりしますが、これは辛み成分カプサイシンの作用によって褐色脂肪細胞が活性化され、脂肪が熱となって放出されているからです。
 このような肥満に有効なファイトケミカルを上手に利用することも、賢い肥満解消法といえるでしょう。

こんな食べ方には注意

 食事の内容自体はあまり変わらなくても、太りやすい人と太りにくい人がいます。もちろん体質の影響もあるのですが、それよりも食行動の差が大きいことが見逃せません。「どうして太ってしまうのか」、自分の食行動を見直し、適正な食習慣を身につけることが大切です。
・早食いをしない
 血糖値が上がったり、脂肪細胞からレプチンという伝達物質が分泌されると、脳の満腹中枢が刺激されて食欲にブレーキがかけられます。早食いはブレーキがかかる前に食べすぎてしまうので、太りやすくなります。
・よく噛んで食べる
 咀嚼は唾液の分泌を促すので、食物を完全燃焼しやすくします。また、少量でも満腹中枢が刺激され、自然と少食になります。
・1日3食、きちんと食べる
 1日の食事回数が少なく、食事と食事の間隔が長くなると、どうしてもドカ食いやまとめ食いをしやすくなります。絶食時間が長くなると、生体はエネルギーの消費を極力減らし、食事の際には、摂取したエネルギーを脂肪組織にためこみやすい代謝に変えてしまいます。