クローン病(3)
食生活

クローン病の正しい食事とは

 前回、クローン病の症状を緩解期(症状が落ち着いている状態)に持ち込むには、特に栄養療法が効果的であることをお話ししました。一般的なクローン病の治療では、この他に薬物療法と手術療法が補助的に行われることもあります。
 クローン病の薬物療法では、プレドニゾロン、サラゾピリン等の薬剤が使われますが、骨がもろくなったり、白内障の誘因になるなどの副作用が心配されます。また、妊娠・出産への影響はないと言われますが、サラゾピリンでは男性の無精子症が報告されています。
 腸管狭窄や膿瘍、瘻孔(近接した臓器と交通する)などが生じた場合には手術療法が行われます。しかし、手術をしてから5年後の再発率が50〜60%と高く、再手術率も高いことから、治療はあくまでも栄養療法を中心とした内科的治療が主体となっています。
 栄養療法をきちんと行えば、ほとんどの患者さんに症状の改善がみられます。しかし、ここで重要になるのが、いかに長く緩解期を維持させていくかです。クローン病では特に食事の影響を受けやすいため、緩解期の維持には毎日の正しい食生活が不可欠ですが、多くの患者さんがついつい誤った食事をして再び症状を悪化させ、再燃・再発を繰り返してしまいます。
 そこで今月は、クローン病で最も重要となる食生活について解説し、併せて欧米で報告されている最新の治療法についてもお知らせします。

クローン病はアレルギーの一種

 原因不明といわれるクローン病ですが、発症の一因として、腸管から未消化の蛋白質や多糖類が吸収されることによる免疫異常が指摘されています。
 これは、本来なら吸収されないはずの蛋白質や多糖類などが腸管から体内に取り込まれ、体はそれを異物として排除しようとし、過剰な免疫反応(アレルギー反応)をおこして腸壁に炎症を引き起こすというものです。
 つまり、クローン病は食物性アレルギーに大変似ている病気だと考えられ、食事療法は非常に重要な問題とされています。

制約の範囲内で楽しい食事を

 食事療法を行う場合は、ストレスも症状の悪化につながりますので、食事やストレスを上手にコントロールし、いかに制約の範囲内で安心して食事を楽しむことができるかが大切です。
 クローン病の食事療法のポイントは次の通りです。
・低脂肪食に徹する
 脂肪は腸を刺激し、便を排出しようとする腸の蠕動運動を著しく引き起こすので(図)、卵・牛乳・油・肉・魚に代表される動物性食品は避けます。砂糖もやめます。
 調理の際にも油は使わず、テフロン加工のフライパンを使うなどの工夫も必要でしょう。
・食物繊維のとり方に気をつける
 消化吸収されにくい食物繊維は腸管に機械的な刺激を及ぼすので、下痢をおこしやすいクローン病の患者さんの場合は、食物繊維はなるべくファイブミニ等の水溶性のものでとるようにします。いも類はつぶしたり裏ごしするなど、調理に工夫をすることが必要です。
・消化の悪いものは避ける
 エビ、イカ、タコなどの甲殻類は消化が悪いので控えます。豆類は皮をむいて食べるようにしましょう。
・刺激物を控える
 アルコール、コーヒー、香辛料、炭酸飲料などの刺激物は避けます。また、極端に熱いものや冷たいものにも気をつけましょう。

免疫反応を調節する 最新の治療法

 クローン病発症の一因に、腸における免疫の異常が関与していることから、欧米では、免疫反応の調節にかかわるサイトカインという蛋白質に焦点をあてた新たな治療法が研究されています。
 これには、・炎症を鎮める抗炎症性サイトカインを活性化させる療法と、・炎症を引き起こす炎症性サイトカインを抑制する療法――という正反対の2つの方法があり、・の療法では、炎症性サイトカイン産生を制御する腫瘍壊死因子TNF―αの抗体"cA2"の投与が、クローン病の緩解維持に非常に有効であることが報告されています。
・cA2を1回注入したところ、重症クローン病患者の65%に臨床的反応(クローン病活動指数CDAIが70ポイント以上低下)、33%に臨床的緩解(CDAIが150ポイント以上低下)が確認されました。
・cA2注入後臨床的反応のあった73人を、・cA2群、・偽薬群に分け、その後4回(12週、20週、28週、36週目)にわたって再注入を行ったところ、44週後の臨床的緩解率は、・群21%に対し・群は51%でした。1年後も、・群の50%以上で緩解維持が認められ、また、炎症反応の指標であるC反応性蛋白(CRP)も陰性化を維持していました。
 また、しつこい潰瘍は白血球の一種、顆粒球が原因という説が有力で、シメチジン(タガメット)を1日400mgとるのも有効と思われます。
 この他、国内でも白血球除去療法、活性酸素除去療法など、新しい治療法の研究が現在進められています。難病だからといって悲観的にならず、食事・栄養に注意をはらい、希望をもって病気と向き合っていくことが大切です。