ボケは防げる、治せる 脳血管型痴呆症血管の若さを保つ

 前回お話ししたように、脳血管型痴呆症は脳梗塞や血流低下など、脳の血管障害が引き金となっておこります。
 誰でも年をとるに従って活性酸素による障害もおこりやすくなり、血管壁がもろくなっていくものですが、血液中の脂質が過剰になると、悪玉コレステロール(LDL)や、それが酸化・糖化され、より悪玉になった変性LDLが血管壁に沈着して動脈硬化が生じます。動脈硬化によって血流が悪くなったり、血栓が血管を閉塞させたりすると、更に悪循環的に活性酸素が生まれやすくなり、組織が死滅してしまい、また動脈硬化でもろくなっている血管に強い圧力がかかると、血管がやぶれ脳出血をおこします。これらが脳でおこると、その部位によっては痴呆症に至るのです。
 そこで脳血管型痴呆症の予防には、動脈硬化をふせぎ、血栓ができないようにすることが最大のポイントとなります。動脈硬化の危険因子としては、主に食生活の影響が大きいもの(高脂血症や高血圧、糖尿病、肥満など)と、生活習慣に基づくもの(喫煙や運動不足、ストレスなど)があり、これらの危険因子を取り除くことが、脳血管型痴呆症の予防につながります。
 食事は塩分を少なくし、動物性蛋白質・脂質は避ける必要があります。蛋白質は穀物+豆類(重量比2対1のとき、必須アミノ酸が理想的バランスでとれます)からとるようにし、脂質はそれらにも含まれているので、何にでもすりゴマを振りかけてとれば、それ以上余計にとる必要はありません。豆類の摂取を納豆中心ですれば、含まれるナットウキナーゼが血栓の予防もしてくれます。
 そして、ビタミン・ミネラルや、活性酸素を消去する生理活性物質を総合的に補うことが大切になります。

頭を良くする栄養素・成分

〈ビタミンB(チアミン)〉
 脳や神経のエネルギー源となる糖質の働きを助ける補酵素として働いています。欠乏すると、気分が沈んでふさぎこむ、集中力、協調性がなくなるなどの症状があらわれます。
〈ビタミンB(ナイアシン)〉
 ナイアシンの欠乏が痴呆を招くことは昔から知られており、ナイアシンの補充で痴呆を改善することができます。ナイアシンは脳神経の働きを助け、頭痛、めまい、ノイローゼ等の改善にも働きます。
 また、血行をよくし、血圧を下げるなどの働きもあります。
〈ビタミンB12(コバラミン)〉
 神経細胞内の核酸や蛋白質、脂質の合成を助け、神経系の正常化に働きます。欠乏すると、幻覚や記憶の喪失、脳の働きが鈍化、ふさぎこむ等の症状が引き起こされることが明らかになっています。
 老人性痴呆症の人では、ビタミンB12の消化器からの吸収が低下していることが多く、ビタミンB12のサプリメントによる大量補充は痴呆症の改善・予防に大変効果的です。
〈葉酸〉
 葉酸の不足は、神経組織に影響を及ぼし、神経過敏やうつ状態、集中力や記憶力の欠如などをおこします。痴呆症の患者では血中の葉酸レベルの低下が報告されており、適正に補う必要があります。
〈トリプトファン〉
 神経伝達物質のセロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)の材料となり、神経系の正常な働きを助けます。不足すると精神の不安定や睡眠障害などを招きます。
〈イチョウ葉エキス〉
 イチョウ葉エキス中のフラボノイドとギンコライドには、脳の血行をよくし、動脈硬化や血栓、脳の萎縮を防ぐ働きがあります。また脳の血液を増加させ、脳波の状態を良くする働きもあり、痴呆症に効果を発揮します。痴呆症患者へのイチョウ葉エキスの補充で、行動が鋭敏、社交的になる、頭脳明晰、記憶力向上などの効果が期待できます。
〈DHA(ドコサヘキサエン酸)〉
 魚に多く含まれる多価不飽和脂肪酸で、しそや海草などα―リノレン酸を多く含む食品を摂取すると、体内でEPA(エイコサペンタエン酸)を経て合成することもできます。
 DHAは、脳細胞や神経細胞、特に神経細胞の突起の先端に多く含まれ、情報の伝達がスムーズに行われるように働いています。記憶力、学習力の向上に、DHAの摂取は大変役立ちます。
 また、DHAにはコレステロール、血圧を下げる作用が、EPAにも血栓溶解作用、コレステロール低下作用、血管拡張作用があり、脳血管型痴呆症の予防につながります。
〈タウリン〉
 魚介類に多く含まれるタウリンには血圧を下げる作用があり、特に食塩由来の高血圧に効果があります。また、コレステロールの排泄を促す胆汁酸の分泌を促進するので、動脈硬化や血栓の形成を防ぎます。
 インスリンの分泌を促進する作用もあり、糖尿病の予防にも役立ちます。
〈レシチン〉
 細胞膜などの生体膜や、脳、神経組織を構成するリン脂質の一つで、ホスファチジルコリンなどが含まれます。レシチンが欠乏すると神経細胞から出ている突起の発達・活性が衰え、神経細胞間の情報伝達がうまくいかなくなり、痴呆症の症状につながります。
 コレステロールを下げる作用も優れているので、動脈硬化を予防して、脳血管型痴呆症を防ぎます。
 レシチンは、主にビタミンB群のコリンとイノシトールによって構成され、コリンによって体内で生成することもできます。また、大豆にはレシチンが豊富に含まれており、脳機能の活性化に大変優れています。
〈コリン〉
 レシチンを合成するほか、神経伝達物質アセチルコリンの材料としても働きます。アセチルコリンは記憶、学習、思考力、創造力を高め、筋肉の働きのコントロールにも作用します。血管拡張作用もあり、高血圧の予防にも役立ちます。
 またコリンには、コレステロールを正常値に保つ働きもあり、痴呆症予防に有効です。
97.5(No281)
骨粗鬆症の予防と改善(1)
急増するアルツハイマー型痴呆症
 「脳血管型痴呆症」と並んで代表的な痴呆症である「アルツハイマー型痴呆症」は従来欧米に多い痴呆症として知られ、我が国での発生比率は脳血管性痴呆6に対して4とされていました。
 しかし、日本でも高齢化社会に入って急速にアルツハイマー型が増加、昨年東京都が行なった調査では、都内の痴呆老人ではアルツハイマー型がついに脳血管型を抜きました。
 アルツハイマー型痴呆症は、血栓によって局所的に血管がつまっておきる脳血管型痴呆症と異なり、脳の神経細胞が広い範囲で繊維化して減少し、正常者の脳に比べて脳は著しく萎縮して、神経細胞の脱落箇所の空洞化が見られます。脳には「神経原繊維(PHF)変化」と「老人斑」等の変性蛋白が生成され、アセチルコリンなどの神経伝達物質も減少するのが特徴的です。
 症状は物忘れに始まり、次第に精神活動が不活発になり、最終的には人格崩壊にいたる病気です。アメリカのレーガン大統領はこの病気が進行し、今やほとんど何もわからなくなった状況といわれています。
 原因については、様々な仮説が出されているものの未だに確定されていません。しかし、世界中の多くの研究によって少しづつ原因の解明と予防に光明が見えてきました。今月はそのうちの個人で応用できるいくつかの予防法を紹介します。
アルミニウムを摂取に
しないよう注意する
 アルミニウム原因説は、脳神経が神経原繊維変化した細胞の核ではアルミニウムの含有量が高くなっていることから着目されました。
 しかしアルミニウム原因説は決定的な決め手がなく、確定されませんでした。そんな中で、湯本昌・元東大医学部助手を中心とする研究グループは、動物実験で、「体の中に入ったアルミニウムは、かなりの量が短期間のうちに脳に蓄積される」ことを明らかにし、一般に衝撃を与えました。
 アルミニウムは、飲料水の他、食品添加物(ミョウバン、ふくらし粉等)や大衆薬品(制酸胃薬、制汗剤等)、さらにアルミ缶やアルミ鍋などの調理器具や容器から、経口・経皮摂取されます。
 アルミニウムの体内の侵入を防ぐには、
aアルミニウム製の調理器、容器を避ける、
bアルミニウム入りの薬は避ける、
c運動や遠赤外線サウナ等で発汗を促進し、アルミニウムの体外排泄を助ける、
dアルミニウムの害を抑えると言われているセレニウムの多目の摂取に心がける――等のことがあげられます。
赤血球膜の過酸化と
ベータカロチン
 東北大学農学部の宮澤陽夫先生は、アルツハイマーの7割の人の赤血球膜から、健康な人の3〜10倍もの過酸化リン脂質を検出したことから、「赤血球膜に過酸化脂質がたまると、酸素が脳にいかなくなり、脳が酸欠になって細胞が壊れる」、さらに、「アルツハイマー型痴呆症に特有の異常蛋白ベータ・アミロイドは、脳で脂質過酸化が進んだ結果、脳に脂質ラジカルができ、それが脳の蛋白に反応して変性蛋白が生成した」という仮説を立てました。
 そこで、赤血球膜の過酸化脂質を防ぐものとして、いろいろな抗酸化物質を試したところ、ベータカロチンが有効ということが分かり、アルツハイマー型痴呆症の予防にベータカロチンの摂取が期待されています。
ビタミンEの充分な摂取
 最近、アメリカでビタミンEの摂取量を充分増やすことでアルツハイマーの症状の進行を相当遅らせることが可能になるということが報ぜられました。
 脳に酸素を運んでくれる赤血球膜の過酸化脂質化を防ぐためには、電気的極性をもつビタミンEは不適ですが、脳の中での脂質や蛋白質の酸化障害を防ぐためにはビタミンE等の抗酸化ビタミンが有効ということでしょう。
 活性酸素はいくつものタイプがあるので、ベータカロチンやビタミンEだけというのではなく、ミネラル・ビタミン・植物のエキス等で総合的に活性酸素に歯止めをかけるようにするのが現実的でしょう。
イチョウ葉エキスの効用
 日本やアメリカではハーブ扱いされているイチョウ葉エキスは、ドイツ、フランスでは医薬品としても認められています。
 欧米での臨床試験では、脳血管型31人、アルツハイマー型125人の計156人の痴呆症患者を対象にプラセボ(偽薬)と比較したところ、有意な効果が認められ、脳電計にもはっきりとした効果が計測さたとのことです。
 有効成分はイチョウ葉エキス中の抗酸化物質「イチョウ葉フラボノイド」と、血栓予防の働きがある物質の「ギンコライド」とされています。
ビタミンB12の大量摂取
 脳神経の働きを賦活し、ボケ気味の人が元の人格に戻る効果が注目されているのがビタミンB12の大量摂取です。
 1日に1500マイクログラム程度摂りつづけているとアルツハイマー型の人も悪化、進行にブレーキが効くようです。
メラトニンの摂取
 アルツハイマー型に多い夜間徘徊などは、生体リズムの異常とみられ、血中のメラトニン量も少なくなっています。
 メラトニンの摂取は活性酸素によるトラブルにも好ましい影響をもつことが期待できるので、就寝時に適量メラトニンをなめて休むということはアルツハイマーの方にも試してみる価値があります。
97.6(Mo.282)
ボケは防げる、
治せる
(4)
朗らかに生きよう
ボケは防げる治せる
 老後は悠々自適で、なおかつ死ぬまでなんらかの形で社会的活動にも参加したい。そんな生活を送りたいと誰もが願っています。
 しかし、高齢化社会に突入した今、テレビや週刊誌などマスコミはこれでもかとばかりボケの悲惨な情報を流して、老後に対する過度の不安、嫌悪感をあおっています。
 ところが、実際には痴呆症は65歳以上では5%がかかっているに過ぎず、高齢者人口の増加で患者数は確実に増えているとはいえ、罹患率からみると減少傾向にあることが東京都老人総合研究所の最近の調査で分かっています(図)。この結果は主に脳血管型痴呆症の最大の引き金である脳卒中の減少に伴うものですが、何にせよ、都老人研のこのデータはボケは不可避なものでなく、防げる治せるという確かな証拠を提示したものといえるでしょう。
 本誌「ボケは防げる、治せる」では食生活、中でも微量栄養素の観点から予防改善策を考えてきましたが、最終回の今月は心の問題も含めて生活習慣からボケ対策を考えてみたいと思います。
こんなタイプ、生活習慣では
ボケになりやすい
 アルツハイマー型痴呆症を「老化にライフスタイルや遺伝がからんで起きる成人病の一つ」ととらえている北海道大学医学部の近藤喜代太郎教授(公衆衛生学)は、患者の日頃の精神的、社会的傾向を調べたところ、アルツハイマー型の患者の発病前の精神的・社会的活動は不活発であることが分かりました。しかも、こうした傾向は脳血管型でも同様の傾向を示すことも分かりました。
 例えば、
a仕事を除いて手紙や電話をすることが少ない 健康な人18%に対してアルツハイマー型痴呆症患者では70%
b友人や親類を訪ねない 健康人27%、患者65%
c本や新聞をあまり読まない 健康人8%、患者47%
d趣味がある 健康人58%、患者40%――と、患者の日頃の生きる姿勢が消極的であることが浮き彫りにされました。さらに患者は、a日頃から運動することが少ない、b全ての歯を失った人が多い、c意識を失うほど強い頭部外傷を負った経験がある――などの特徴を持つことも分かりました。近藤教授によるとこうした危険因子が全て重なると、発病の危険は一気に約160倍も高まるということです。
 今あげた生活習慣上の危険因子は、痴呆症の直接の原因になるわけではありませんが、こうした危険因子を遠ざける努力はボケの改善に有効な手段となり回避につながります。
 近藤教授は、この考えに基づき「脳活性化訓練」と名付けたレクリエーション活動(陶芸、ゲーム、茶道、カラオケ、簡単な芝居などのレクリエーション活動を毎週グループで行なう)を患者に試みることで、脳血管型では記憶の改善や進行のストップ、アルツハイマー型でも抑うつや興奮などの諸症状が改善されるなど、大きな効果を上げています。
頭脳労働よりも肉体労働!?
よく歩いて体を動かす
 近藤教授の研究でも痴呆症の患者さんには「日頃から運動することが少ない」という特徴が示されましたが、九州大学医学部の研究でも「アルツハイマー型痴呆症は、定期的な運動か肉体労働をする人に少ない」というデータが出されています。
 研究メンバーの一人、清原裕講師が「体を動かすと脳は活発に働く。頭脳労働よりもむしろ有効」と話しているように、適度な運動、特に歩くことはボケの予防に大変有効です。
 家でゴロゴロしている中高年はすでに軽いアルツハイマー型にかかっているという解釈もあるそうですが、高齢者の方は多少大義でも、できるだけ外に出て歩くように努めましょう。
 外に出るだけでも目や耳から家の中にいては得られない新鮮な刺激がいろいろ入ってきますし、歩く行為そのものが直接脳を刺激します。そうして季節を感じとったり、商店街では見慣れない商品を見つけて時代の空気を感じ取ったりと、楽しんで歩くことを心がけて下さい。
 あまり歩けなくなったら、家族は足、特に足の裏をよくもんで刺激してあげたいものです。周囲の人の優しさ、思いやりはボケの悪化を防ぎます。
趣味をもっていきいきと
いつも陽気で朗らかに
 はじめに紹介した近藤教授の「脳活性化訓練」でも、自分の好きなレクリエーションほど効果が高いそうですから、やはり自分にあった趣味をもつことはボケの予防にも大変大事なようです。
 趣味とは文字通り、生活に趣きと味わいを与えるものですから、趣味のない人というのは非常に味気ない精神生活を送っているのではないかと推察されます。年をとって何もすることがないというのは実に寂しく、退屈なものです。そうした単調な生活がボケを招くもととなるのです。
 そして物事を楽観的にみていく心のけいこを重ねましょう。先の先まで心配する杞憂タイプの人は本人も楽しく暮らせないし、周りの人も不愉快にしてしまいます。飽くことなく、湿っぽく愚痴を言い続ける人がいますが、これほど非生産的な時間の過ごし方はなく、そればかりか自らだけでなく配偶者など身近な人のボケまで招きかねない実に愚かな仕業です。
 長寿者の精神的特質として、くよくよ思い煩わない、ストレスをためこまないということがあります。つらいことがあってもこれも修業の一つとして違った角度から受け止める心の流れができれば、ストレスが我が身をさいなむ事態をかわしていくことができます。自分が愉快に過ごせないのを人のせいにするのは、すでに心の病が忍び寄っているからです。陽気で朗らかな心は自分でけいこして持つようにしなければ誰も与えてはくれません。
 食生活を正し、脳を刺激すべく良くかんで食べ、活性酸素の害から脳や血管を守る微量栄養素群の摂取に努め、明るく朗らかな心の流れをもって愉快に百歳長寿を目指していきたいものです。