ボケは防げる、治せる 脳血管型痴呆症(1)

痴呆症とは
――"良性のもの忘れ"と "病的なボケ"――

 老年期に多く発症し、65〜69歳では100人に1人、80歳前半では10人に1人、85歳では5人に1人と、高齢になるにつれて頻度は急速に高まる痴呆症。高齢化社会を迎え、"ボケ老人"の増加はますます深刻化し(図1)、さらに最近は、高度ストレス社会で老人だけでなく、働き盛りの40代、50代にも痴呆症がみられるようになって、大きな社会問題となりつつあります。
 痴呆症はその増加とあいまって、悲惨な末路と介護の困難さが、人々に必要以上の恐怖心を抱かせています。皆様の中にも、年をとって記憶力が落ちてきたとか、もの忘れがひどくなったとかの理由で、心配されている方もいるのではないでしょうか。
 しかし、病的な"痴呆症"と、自然の老化現象である"良性のもの忘れ"は全く異なるものであり、また、最近はボケの予防と治療対策も飛躍的に進んできました。では、痴呆症とはどのような症状をいうのでしょうか。
 国立精神神経センター神経研究所の田平武・疾病研究第六部部長は痴呆症を、「人間の脳が発達して、その知能があるレベルに達する。その時点で、それまで獲得した知能が何らかの器質的障害(病気)によって持続的に低下し、加えて日常生活に支障を生じている状態」と定義しています。
 また、「良性のもの忘れ」は、a出来事(体験)の一部分は忘れているが全体は覚えており、b物忘れは目立っても、それ以外の知的機能低下へは進行せず、c本人がもの忘れの現象を自覚している――などが目安になる一方で、
「病的なもの忘れ」は、a体験した出来事全体を忘れる、b記憶障害だけでなく、簡単な暗算が困難になったり、自分の居場所が分からなくなったり、他の知的機能障害へと進行する、cそれを改めるための助言や忠告を理解できない――などが目安になります。(表1参考)
 痴呆症には、脳の血管がつまった「脳血管型痴呆症」と、原因が特定されていない「アルツハイマー型痴呆症」の二つに大別され、この混合型もあります。今月と来月はそのうち、日本では8〜9割と大半を占める脳血管型痴呆症についてお話しします。

脳の血管がつまる「脳梗塞」が最大の引き金に

 脳血管型痴呆症にもさまざまな原因があるのですが、高齢では、脳梗塞によるもの(表2―a、b、c)が圧倒的に多く、この他、脳梗塞を生じるまでいかない中等度の脳の血流低下(表2―d)と併せて大部分を占めています。
 脳梗塞は、血栓(血のかたまり)によって脳の血管がつまり、その先に血がいかなくなったために、脳の組織が死んでしまうわけですが、脳梗塞が起きる部位によって、運動障害、言語障害とさまざまな障害を起こします。
 そのうち、記憶の中枢の側頭葉、判断や知的脳力の中枢の前頭葉、物事を認識する頭頂葉などがやられると、痴呆症を来すわけです。(図2参照)
 この型の痴呆症の最大の特徴はある朝起きたら突然、わけのわからないことを喋り出した、トンチンカンな受け応えをする、といった具合に、突然発症し、その症状の度合いがひどいことにあります。

第一次予防は 危険因子のコントロール

 ぼけは治療・改善できるといっても、今の段階ではやはり、何といっても予防が最善の策であることはいうまでもありません。
 脳梗塞や血流障害の危険因子には、血栓、高血圧、心疾患、糖尿病、肥満、喫煙などがあげられます。ということは、ボケの予防は他の多くの成人病と共通したことがいえるわけです。
 これらの対策については来月、詳しくお話ししましょう。