血圧の話(2)

低血圧症

低血圧もあなどれない

一般に、高血圧が血管系の病気の引き金になることが知られている一方で、低血圧はこうした病気との関連は低く、命にかかわることはないといわれていました。
 しかし、高齢者や、脳や心臓に血管障害がある人では血圧が低過ぎても高血圧同様、脳卒中や心筋梗塞などの死亡率が高くなることが最近になって分かってきました。東北大学医学部第二内科の7年間にわたる追跡調査では、最大(収縮期)血圧が112以下、最小(拡張期)血圧が66以下だと死亡率が高くなるというデータが出ています(図)。
 低血圧が血管障害による死亡の引き金になることについて、第二内科の今井潤先生は「老化と共に動脈硬化が進み、血圧が低すぎると血流が少なくなって血栓ができやすくなるからではないか」と推測しています。
 同様の理由で、低血圧の人はボケやすくなることもいわれています。
 また、低血圧では朝の始動エンジンがかかりにくく、日中でも、だるい、つかれやすい、めまいがする、集中力が低下する――などの症状が出やすい傾向があります。このため、管理社会では怠け者の汚名をあびせられ、要らぬストレスがさらにかかることも往々にしてあります。
 日本人には高血圧症が多いというものの、低血圧症も潜在患者を含めると千六百万人はいるといわれます。今月は、低血圧についてお話しさせていただきます。

血圧をきめるもの

 血圧は、・心臓の収縮によるポンプの働きの強さ、・大動脈など太い血管の弾力性、・細動脈の抵抗値――などによってきまります。
 このため、加齢などによって大動脈が硬化すると、収縮期(心臓から血液が押し出される時)の血管内圧が高まり、高血圧になります。反対に、血管が軟らかすぎたり、心臓のポンプ機能が弱くなったりすると血圧は低くなります。
 ちなみに、低血圧の値は高血圧と違って明確な基準はなく、一般に最大血圧が100mmHg(または110)を切った場合に低血圧とされ、最小(拡張期)血圧は定義されていません。

大部分をしめる 原因不明の "本態性低血圧症"

 低血圧症は、原因不明でかつ患者の大部分をしめる「本態性低血圧症」と、出血・心筋梗塞・甲状腺機能低下症などによって副次的におきる「二次性低血圧症」に大別されますが、俗に脳貧血と呼ばれる立ち上がった時に一時的に血圧が下がる「起立性低血圧症」もあります。
 二次性低血圧症は原因を取り除けば自ずと治ります。今月お話しするのは本態性の低血圧症です。
 本態性低血圧症は原因はよくわからないものの、起立性低血圧症を含めて患者さんは、交感神経の働きが低下しているために、刺激に対する反応が鈍くなっていると考えられています。
 ですから、本態性低血圧症(及び起立性低血圧症)の対策は、食生活を含めて生活全般を規則正しくすること、自律神経系をきたえることが重要になります。

三大栄養素の バランスをとり、 ビタミン・ミネラルを 十分に

 人体実験では、エネルギー源、蛋白質、ビタミンC、ビタミンB群のどれか一つでも欠乏すると、低血圧症になることがわかっています。
 また、低血圧では末端の血液循環が悪くなりますから、冷え性の原因になります。
 こうしたことから、低血圧症ではエネルギー源となる糖質(炭水化物)、脂質、蛋白質をバランスよくとり、特に蛋白質は麦飯・納豆等からの植物性食品で必要量、必須アミノ酸のバランスよくとった上で、これらのエネルギー源を燃やす、クロム、マンガン、亜鉛等のミネラル群と、ビタミンではB群の十分な摂取が重要になります。
 中でもビタミンB群中のパントテン酸は、低血圧に直接影響し、パントテン酸が欠乏するとただちに低血圧症があらわれます。パントテン酸が不足すると、副腎ホルモンの生産が低下するので、ナトリウムや水分が排泄され過ぎて、体液量が減少します。低血圧症では他に異常がなければ血圧が正常に戻る迄、塩分を多目(1日15g前後)にとることがいわれますが、これは、体内のナトリウム量が増えると体液量が増え、血管壁にナトリウムが入ると、刺激に対する反応が強くなるからです。
 ストレスは副腎ホルモンの生産を低下させるので、ストレスに対抗する意味でビタミンCも十分とりましょう。
 血のめぐりをよくするビタミンEの十分な摂取も症状の緩和に有効です。

規則正しい生活をして 自律神経のバランスを整える

 血圧は、副交感神経が優位に働く睡眠時に低く、交感神経が優位な日中は高い状態にありますが、低血圧の人は、自律神経のバランスが崩れて、昼間も副交感神経が優位となり、起きていても体は眠っているという傾向があります。
 朝はなるべく早く起きて、朝の諸活動
――蒲団の中で準備体操(適当に体を動かす)、着替え、冷水での洗顔、朝食、歯みがき、排泄、散歩などの軽い運動――等をすることで交感神経を刺激することが大事です。そのためにも、夜更かしは禁物です。
 自律神経をきたえるためには、朝の乾布摩擦、入浴後の冷水摩擦など皮膚の鍛練も効果的です。これらは下半身の血管の収縮力を回復させるのにも有効です。弾力のあるストッキングも、静脈還流(血液を心臓に戻す)を促します。
 また、鼻咽腔(鼻の奥が喉につながる部分)への刺激は血管の収縮や血圧の変動に影響を及ぼします。自律神経系が異常な人は鼻咽腔に炎症がおきていることが多いことが、堀口申作・東京医科歯科大学名誉教授によって研究されています。高血圧、低血圧とともに血圧の異常な人は、鼻咽腔を洗浄(ぬるめの塩水を鼻から通して口から出す。どんぶり半分量程度を片方づつ交互に)して、鼻咽腔の炎症を取り除くことがすすめられます。毎日、朝と晩、歯磨き時に習慣づけるとよいでしょう。
 血圧は1日の変動とともに、季節的な変動があることが知られています(図)。血管が収縮する寒い時期は血圧が高くなり、反対に暑い時期は熱を放出するために汗を出すので血管が広がりやすくなり、抵抗値が下がって血圧が低くなります。ただでさえ、暑い時期はだるくなりがちですが、低血圧症の人ではそうした夏バテ症状が強く出てつらいものです。血圧が上がる冬場に体をきたえ、夏を爽やかに過ごす準備をしましょう。
 最後に、低血圧症では鍼灸や漢方などの東洋医学的な療法がよく効くといわれています。こうした療法をとり入れることも、生活を正す助けとなります。