血圧の話(1)

高血圧
人間は血管と共に老いる
脳卒中最大の危険因子――高血圧

 日本人の三大死因、がん、心臓病、脳卒中のうち、脳卒中と心筋梗塞を「血管の病気」として一つにまとめると、患者数では総てのがん患者の40倍にもなります。
 この事実からも、病気を防ぎ、健康な生活を送るには"血管をいつまでも若くしなやかに維持する"ことが如何に大切かがお分かりになるでしょう。
 血管を老化させ、脳卒中や心筋梗塞など血管系の病気の重要なリスクとなるのが、動脈硬化とともに今回お話する高血圧です。そのうち高血圧は脳の血管に対してより危険因子として強く働き、特に脳卒中では高血圧が最大の危険因子となります。
※高血圧によって脳の細動脈に大きな圧力がかかり続けると、血管の膜が薄くもろくなり(血管壊死)、ついには破裂して脳出血に至る。

体質の遺伝も関係する

 安静時、最大(収縮期)血圧が140以上または、最小(拡張期)血圧が90以上のいずれかですと高血圧と判定されます(WHOによる新基準)。
 高血圧の殆どを占める本態性高血圧は体質の遺伝も関係しており、子供が高血圧になる確率は両親とも高血圧では40〜50%、父母いずれかで20〜30%、一方、祖父母まで高血圧のない子供はわずか1〜2%となっています。
 日本人には高血圧患者が多く、現在患者数は軽症者を含めると3千300万人、4人に1人は高血圧と言われています。
 家系に脳卒中や高血圧の方が多いということであれば、ご自分に遺伝的素因があると思って、いち早く対策をたて、病気を予防することが肝心です。遺伝は宿命ではなく、それを見つけることにより、予防に踏み切ることができる貴重なサインです。
※最大血圧 心臓が収縮して血液を最大限に送り出す時の圧力。
※最小血圧 心臓が拡張して、血液を送り出していない時に血管にかかっている圧力。
※本態性高血圧 原因不明の高血圧で、高血圧全体の8〜9割を占める。
 これに対し、二次性高血圧は腎臓病など特定の病気が原因となり、原因となる病気が治れば正常レベルに戻る。

低蛋白・高塩分の食事は 危険因子ではあるが…
塩分摂取と食塩感受性の問題

 高血圧のコントロールは、何といっても食事・栄養が決め手となります。
 食生活からは、高血圧の最大の危険因子はかつての東北地方に典型の"低蛋白・高塩分"の食事がいわれてきました。実際、過去、白米に塩気の強い漬物を主なおかずにしてきたこの地方では脳卒中が多く、減塩運動によってそれが減ってきたことはよく知られています。
 しかし一方で、塩分は感受性の強い人、弱い人とがあり、高血圧患者で弱感受性の人は塩分を無塩近くに制限しても、反対に大量摂取しても殆ど血圧には影響しないことが研究されています(藤田敏郎・東大医学部第四内科)。
 高血圧患者で食塩感受性の強い人は3〜4割程度といいますから、単に塩分を抑え、蛋白質を十分摂取するというだけでは高血圧の食事対策としてはあまりに不十分です。というよりむしろ、厳格な塩分制限は感受性を持つ人だけに限るというわけです。

「ナトリウム・カリウムポンプ」
キーミネラルはマグネシウムとカルシウム

 さて、塩分が多いと何故、高血圧になりやすくなるか。
 血管の壁をつくっているのはもちろん細胞ですが、細胞を取り囲んでいる細胞外液にはナトリウム(Na)が多く、一方、細胞内液にはカリウム(K)が多くナトリウムは極端に少ない状態にあります(表)。この濃度バランスを保つために、細胞膜にはポンプ(ナトリウム・カリウムポンプ)があって、細胞内にカリウムを汲み入れる一方で、細胞内からはナトリウムを汲み出しています。
 このポンプが働かなくなると、細胞は死んでしまいますが、ポンプの働きは加齢につれてだんだん衰えてくると共に、ナトリウム塩を過剰にとってもこのポンプを止めるホルモンが分泌されて、ポンプを止めて腎臓で尿の中に排泄するナトリウムを再吸収します。
 こうしたメカニズムが血管壁の細胞でおきて、細胞内のカリウムがだんだん減ってナトリウムが増えてくると、筋肉細胞で出来ている血管は、ちょっとした刺激に対しても収縮してしまいます。また、血管の細胞は水が増えて膨張するとさらにナトリウムを呼び、ついには細胞の中にはカルシウム(Ca)が増えてきます。
 カルシウムは本来、細胞外液に多いミネラル(表)ですから、細胞内にどんどん入り込むと悪さをして細胞毒性を発揮します。ナトリウムやカルシウムが細胞の中に増え出すと、血管壁は肥厚して血液が通りにくくなり、高血圧がおこってきます。
 こうした状況を救うのが、細胞内ミネラルであるマグネシウム(Mg、表)です。
 ナトリウム・カリウムポンプは実は、マグネシウムとATPの存在下で細胞内のナトリウムとカリウムを交換しているのですが、細胞内にマグネシウムが不足すると、カルシウムはマグネシウムに取って代わって細胞内に容易に入りこんできます。さらに、もともとマグネシウムには血管を弛緩拡張する作用がありますから、マグネシウムの十分な補給は、高血圧対策にはきわめて重要なキーポイントとなります。
 豆や穀類の胚芽部、根菜類、自然塩、海藻などに多いマグネシウムは、現代型食生活ではなかなかとりにくいミネラルで、今摂取不足が問題になっています。その上さらに、マグネシウムは、糖尿病をはじめとする多くの成人病や、カロリー過多、アルコールの摂取、ストレスなどの関与で尿に多量に排泄されます。マグネシウムは日頃から十分摂取するよう心掛けることが大切です。
 最後にご注意したいのはカルシウムの不足です。カルシウムが不足すると、かえって骨からはカルシウムが奪われ、細胞内にカルシウムが入りこみやすくなります(カルシウムパラドックス)。カルシウムはマグネシウムと一緒にバランスよくとって、摂取不足にならないようにしましょう。

大豆や魚の蛋白質・魚油・食物繊維

 マグネシウムの他に高血圧によい栄養素としては、大豆や魚の蛋白質、魚油、食物繊維があげられます。
 脳卒中ラットに大豆や魚の蛋白質を十分与えると、脳卒中は全くおきないという実験結果が出ています。これはタコやイカなど魚介類に多いタウリンや、大豆や魚に多いメチオニン、トリプトファンなどのアミノ酸に、血圧を安定させる作用があるからです。
 また、魚油に豊富な脂肪酸EPAやDHAも、高血圧や心筋梗塞、脳卒中の予防に効果があることが分かっています。
 食物繊維も予防に役立ちます。食物繊維は過剰なナトリウムを体外排出させます。特に、ナトリウムは海藻に多いアルギン酸、塩素に対しては甲殻類の殻に多いキトサンが有効です。
※塩素とキトサン 食塩はナトリウムと塩素からなる(NaCl)が、ナトリウムだけでなく、塩素も血圧を上げる因子となる。
 塩素は体内で血圧を上げる酵素ACE(アンジオテンシン転換酵素)を活性化し、ACEはキニンという血管を拡張し血圧を下げる物質を分解・消去する一方で、アンジオテンシンAという血圧を上げる物質を作る。
 キトサンはこの塩素を吸着して体外に排泄する。

生活全般を改善

 高血圧の危険因子となるのは食事・栄養だけではありません。精神的ストレス、肉体的ストレス、タバコ、アルコール、肥満、運動不足、中でも精神的ストレスは大敵です。
 高血圧の改善は、ライフスタイル全般の改善にあり、ということになります。
a食事指針にのっとった食事(麦飯、緑黄色野菜と根菜のたっぷり入った味噌汁、納豆、豆腐、海藻、魚介類などを毎日欠かさず)。
b高血圧によい微量栄養素がバランスよく入っている総合微量栄養素サプリメント(栄養補助食品)を毎食とる。
c節酒
d毛細血管を収縮させるタバコは厳禁
e寒さに注意。特に冬場の朝6時から9時(この時間帯は朝の大波と呼ばれ、脳卒中をひきおこしやすい)は注意を。
fお風呂はぬるめ(40〜41度)でゆったりつかり、乳頭から上は湯船から出す。極端に疲れた時は風呂には入らない。
g体をよく動かす(過激な運動や肉体労働は禁物。家事などで日常よく体を動かし、よく歩く)。
h自分なりのストレス解消法を身につけ、いつもゆったりニコニコと、何事も前向きにとらえる。