微量栄養素と健康

自然食ニュースが提唱する 『日本人の食事指針』について22

バイオミネラル研究所所長 仙石紘二

(9) ミネラル・ビタミン等の微量栄養素、アミノ酸等の不足分は適切なサプリメントで
補うことが望ましい。ミネラルバランスをチェックし、調整していくために、最低年1回、
誕生日に毛髪分析を。(その四)

毒性ミネラル カドミウム汚染

 話の流れが水銀、鉛ときましたから、次はどうしてもカドミウムということになります。
 カドミウムという毒性の強いミネラルは、富山県の神通川流域のイタイイタイ病で有名ですが、大分前の話になってしまいましたので、その名前は聞いたことがあるが具体的には知らないという方も多いと思われます。
 ここでイタイイタイ病とは何だったのかについてまとめておきましょう。

イタイイタイ病

 神通川上流の三井金属鉱業株式会社の神岡鉱業所では明治時代の終わりの頃から亜鉛の採掘が始まっていました。亜鉛鉱石の中にはカドミウムも含まれています。大正時代から、微粉砕して浮選にかける浮遊選鉱法が採用され、亜鉛をとった廃さいを野積で捨てていました。この廃さいには、亜鉛がまだ1・5%程度残っていますが、その200分の1程度のカドミウムも含まれています。
 この微粉末が、雨の時などに神通川に流れ込み、ゆるやかな流れになる平地になって沈殿したり、水田にも取込まれるようになりました。
 富山県の婦中町近辺のたんぼでは、大正の終わりごろには稲がよく稔らないとか、たんぼの生物が死ぬとかいうことが始まったそうです。
 人間の被害は、第二次世界大戦ごろから、骨の疾患でひどい痛みをうったえて死ぬ人が出始め、噂としては、鉱毒によるものではないかということがいわれはじめたのです。神岡鉱業所の採掘量も戦争を控え、急ピッチで増えてきたころです。
 イタイイタイ病の名前は、患者が意識ははっきりとしているのに、とにかく「痛い痛い」としか言わないというところから、1955年ごろから地域の人々の間で自然と命名されました。
 特徴としては、更年期の女性に多くあらわれ、腰、股関節、脚から痛みはじめ、お尻を左右に振って歩くようになり、そのうち痛みが全身にひろがり最後は体を少し動かしただけで激痛が走るというものです。

骨粗鬆症

 専門学者による研究がはじまり1961年には、カドミウムによる慢性中毒であることが突き止められました。
 患者たちが食べている米、野菜などからカドミウムが相当量検出されたからです。
 カドミウムは肝臓をおかしたあと、なぜか腎臓にたまり、腎臓の尿細管をいためつけます。その結果、蛋白尿が出るようになり、尿細管の再吸収能力が低下し、カルシウムの血液への再吸収がうまくいかず、骨から脱カルシウムがおこるのです。これは骨粗鬆症に他なりません。
 イタイイタイ病というと、遠い所でおきた過去の話、気の毒ではあるけれども自分には関係無い話と思われがちですが、骨粗鬆症といえば、日本全国どこでもおきている話です。全国で五百万人、予備軍をいれると一千万人ともいわれます。昭和三十年に比べると五十倍に増えたという糖尿病でも百万人です。このぎっくり腰の痛みが間断なく襲う骨粗鬆症は、なにもカドミウムの慢性中毒にならなくてもおこります。お互い、注意したいものです。

逆、必ずしも真ならず

 カドミウムが体内に侵入してくると骨粗鬆症になりやすくなるということは、骨粗鬆症はカドミウムの侵入がないと起こらないということは意味しません。
 数学でならった「逆必ずしも真ならず」というわけです。
 イタイイタイ病の正体がカドミウム汚染で誘発された骨粗鬆症であると考えれば、患者が更年期の女性に多いという理由がよくわかります。
 カドミウム汚染の有無にかかわらず、骨粗鬆症はホルモン失調の関係で中年女性に多いからです。
 毛髪分析をしてみれば、骨からの脱カルシウムはかなり早くからわかります。カドミウムの汚染度もわかります。
 更年期にさしかかった女性は早目に是非一度毛髪分析をうけてみると良いでしょう。

毛髪分析の優位性

 骨からの脱カルシウムというのは、血液検査ではわかりません。血液の中にカルシウムが多く溶け出しているからです。
 他のミネラルと総合的に見て判断できる毛髪分析がこの面ではすぐれているのです。

カドミウムは 神通川流域だけ ではありません

 イタイイタイ病がどうもカドミウム汚染でおこるらしいということがわかりかけてきたころ、全国にわたって水田土壌中のカドミウム汚染度の調査がおこなわれました。
 その結果、宮城県鴬沢町、群馬県安中市、大分県奥嶽川流域、長崎県厳原町など、7箇所の要注意観察地域が見つかりました。
 私たちが食べる米や野菜は普通は生産地がどこだか、誰がつくっているのかも見えません。
 日本全国で考えると、川の上流に鉱山があって、その下流で米をつくっている所というのは、いたるところにあります。
 鉱毒は何もカドミウムに限りません。
 ひょっとしたら、自分の食べているお米が鉱毒に汚染されていることがあるかも知れません。
 いちいちお米を調べることは不可能です。どうしても、一年に一度は毛髪分析で自分の体内に心ならずも溜まってしまった鉱毒を調べておくというのが必要ということになります。

マンガン中毒

 ここで、余談ながら最近読んだ本の中で興味が引かれた箇所があるので、ちょっとご紹介しておきましょう。
 古田武彦著「古代は沈黙せず」駸々堂出版の中の第一扁〈出雲風土記の中の古代公害病〉です。古代の根本史料の宝庫、出雲風土記の仁多郡の条の中の【これによりて、今の産婦、彼の村の稲を食わず。若し食う者あれば、生るる子すでに、ものいわざるなり。】という箇所があるのに触発され、これは胎児性の水俣病のように、なにかの鉱毒で生れてくる子の脳の言語中枢に障害がおこることの記述であり、その米のとれる田は、今の仁多郡三成町三沢にあるとの結論を得て、現地調査と自然科学的調査を行ったところ、三沢地区の一画に「神田」と呼ばれる小地域があり、
そこは長い間聖域として誰も耕作しなかったが、明治になって田をつくったところ、たちまち鉱毒で牛や人間が死ぬといったトラブルが発生し、現在は誰も耕作していないところがある。そこの赤黒い土壌にはマンガンが異常に多いことがわかったという話です。
 たまたま親戚がその三沢に住んでいて、私も何回か訪れたところなので、余計興味をもったのですが、確かにマンガンもマンガン鉱山では悲惨な神経症状の被害者が沢山でています。
 マンガンに限らず、どの金属も摂りすぎたら死にいたる中毒をおこします。
 毛髪分析を十年以上やっていますと、いろんなケースにあたります。
 マンガンが異常に多い人も何人か見つかっています。
 それぞれ何か特殊な事情によると思いますが、住むところ、飲む水、好んで食べる食べ物、その人の体質如何では、平均とは随分かけはなれたミネラルの状況になっている人が時々見つかります。

カドミウムを 多く含む食べ物

 話はカドミウムにもどりますが、食べ物といえば比較的多く含むものに米のほか、緑黄色野菜とか、海草、味噌、動物の内臓(モツ)などがあります。
 モツはともかくとして、健康のため食べるといいといわれているもののオンパレードではないかと驚かれた方も多いと思います。知らないで食べていて、カドミウムを溜め込むよりもと思いお話ししました。少食は必須栄養素の摂取量も少なくなりますが、同時に有害成分の摂取も少なくなります。
 少食にして、サプリメントは欠かさずにという自然食ニュースの食事指針はこういうことも踏まえての提案なのです。