微量栄養素と健康

自然食ニュースが提唱する 『日本人の食事指針』について17

バイオミネラル研究所所長 仙石紘二

(9) ミネラル・ビタミン等の微量栄養素、アミノ酸等の不足分は適切なサプリメントで
補うことが望ましい。ミネラルバランスをチェックし、調整していくために、最低年1回、
誕生日に毛髪分析を。(その二)

水俣病その後

 この6月23日の新聞報道によりますと、環境庁の委託を受け、昭和55年度から水俣病の健康被害を調査してきた研究班(班長重松逸造・放射線影響研究所理事長)は国会の圧力により、22日、これまでの調査結果を遅ればせながら中間報告として発表しました。それによりますと、昭和28年頃から水俣住民の体内に蓄積しはじめたメチル水銀は、事件の原因が水銀だということがわかり、それに気をつけはじめてから次第に排出され、昭和57年度で、すでに水俣住民の毛髪に含まれるメチル水銀は他の地域の人とほとんど変らない濃度になっていました。ただ今後とも水銀を摂取
した住民の長期的な健康状況を継続して調査していくとしています。
 昭和57年の調査によりますと、水俣地域住民の毛髪に含まれるメチル水銀の濃度は、平均値で3・78ppmで、漁業関係住民は6・15ppmでした。当時の東京の一般住民の場合は4・29ppmでしたから、大差はないとしています。
 これを当時の東京の住人と比べて大したことがないと見るか、東京住民の水俣化とみるか、難しいところですが、いずれにしろ、東京を基準にして、「だから安全だ」というのは、軽率のそしりをまぬがれないでしょう。
 私たちは現代人の健康を考える時、微量有毒金属による曝露と、体内での過酸化の進行が二大問題であると言ってまいりましたが、一千二百万の都民はすでに昭和57年当時、毛髪分析の平均値で4・29ppmの水銀が検出されるほど体内に溜めてしまっているという事実から目をそらせないと思います。赤信号ではないのですから皆で渡れば怖くないということにはならないのです。
 平均値でこれだけということは、これより多い人も結構いるということです。
 水俣の場合でも、漁業関係住民はやや高い値になりましたが、これは魚は比較的水銀を多く含むものが多く、漁業関係者はどうしても魚を多く食べるので、一般住民より水銀濃度が高くなってしまうからです。特にまぐろなど肉食で回遊性があり、比較的長生きする大型の魚に水銀が多いのです。
 別に漁業関係者でなくてもまぐろが大好きという人は水銀の濃度が結構高くなるのです。

軽視できない水銀

 たまたま同じ日、環境庁はWHO(世界保健機関)などで作るIPCS(国際化学物質安全性計画)がまとめた「メチル水銀」の報告書も公表しました。やはり、ここでも毛髪分析の手法が使われています。この報告書によりますと、妊婦の毛髪水銀値が現在の環境基準の50ppmを下回る10〜20ppmでも、胎児に運動の発達の遅れがあらわれる可能性があるということです。
 IPCSでは胎児への微量水銀の影響についての研究例を集め、評価を下す作業をしてきました。
 例えばイラクで71年から72年にかけて起きた有機水銀中毒事件のうち、胎児期に摂取した子供とその母親八四組を追跡調査。このケースでは母親の毛髪水銀値が妊娠時に10〜20ppmでも、発達に障害のある子供の確率がヨーロッパの一般の子供と比べ高かったということです。
 具体的には、母親の妊娠中のピーク時毛髪水銀レベルが10〜20ppmの場合、5%のリスクで子供に異常な神経学的所見、すなわち脚部の筋緊張の亢進、深部腱反射の異常亢進などがあらわれ、しばしば発育遅延歴とともに失調をともないます。水銀レベルが70ppmになると、この異常発現率は30%にたかまります。成人にはあらわれにくくても、胎児には容易に異常が発現してしまうのです。
 また、ニュージーランドでは、魚を多食する地域の1万人を調査。毛髪分析で水銀値が6ppm以上だった母親が産んだ子供を4年後に調査したところ、約半数がなんらかの異常やその疑いがあり、異常発生率は汚染されていない母親の子供の場合と比べて3倍の高率でした。
 メチル水銀は、胎児脳の発育とニューロンが胎生期に細胞分裂層から脳の皮質中の最終目的地まで遊走することを阻害することがわかっています。
 日本、イラク、ニュージ
ーランド、カナダなどの例をあげながらIPCSは、低濃度での水銀汚染が妊婦と胎児にどのような影響を与えているのかを今後さらに研究する必要性を、この報告書で強調しています。

最低でも 年一回の毛髪分析を

 公害時代の今日、水銀を含む有害金属に全く汚染されないで生きていくことは不可能です。毎日毎日、全世界の煙突から水銀が空中にバラまかれ、雨とともに地上に降下してくるわけですから、あらゆる食べ物、吸う空気に有害金属が全く入っていないということはありえないのです。また、鉱業によるだけでなく、今盛んに噴煙をあげている雲仙岳の火山灰の中にも相当量の有害金属は入っています。海の中でも地中深部から不断に吹出すものがあり、それはプランクトンから小魚を経て、食物連鎖で濃縮されつつ大型の魚に移行していきます。その頂点に人間がいるわけで
すから、人間にそれらが入ってこないわけがないのです。
 微量な有毒金属による慢性中毒というのは、人類の歴史上、過去に、経験したことがなく、まさに今、初体験の最中です。ところどころで時々おこる有毒金属中毒事件を注意深く分析し、その教訓から学んでいく以外対策のたてようがありません。
 日本の水俣病の場合も、世界の各地のアクシデントをWHOが研究する場合も毛髪分析を決め手にしていることは注目に値いします。
 毛髪の水銀濃度は、頭髪の形成時の血中濃度を反映します。一般的に、毛髪の濃度は、その時点の血中の250倍になります。そして、水銀はいったん毛髪中に取込まれると、その濃度は変化しません。毛髪分析に価値が認められる一大ポイントです。私たちが繰返し最低年一回の毛髪分析をと呼びかけているのは、今の時代、いつどこで有害金属にさらされるのかわからないし、はやくわかれば、打つ手があるからです。